人形列車 雪菓子の律1
「到着っと」
目の前に広がる真っ白な足場にジャンプして飛び乗ると、サクッとした心地の良い感触と共に私の体が少しずつ地面に沈んでいきました。
「おおっ!?」
沈んだ足を上げてみると、そこには私の履いている靴の裏側がくっきりと残っています。
――――そう。
ここは紛れもない雪国。
私達は札幌の大地に降り立ったのでした!
「桜ぁ~。ちょっと待ってよ~」
少し遅れて1人の少女がやってきました。
「えいっ!」
少女も私と同じように、まだ誰の足跡も付いていないまっさらな雪の上にジャンプして、自分の靴型を残してご満悦の様子。
「わ~。一面雪景色で綺麗ね~」
「一番いい時に来たかもしれませんね」
今のリニスはスカートと上着の袖をちょっと長めにして、ぱっと見では人形って分からないようにカモフラージュしてあります。
意思を持った人形が動いてたらビックリしちゃいますからね。
そして今の時間は16時を少し回ったくらいなので、まだまだ余裕で観光する時間があります。
ちなみに今日の予定はこの駅で一泊してから明日のお昼ごろに列車が出発するので、夕食は各自好きなお店に行くか、列車の食堂を使うか選ぶ感じになってます。
「ちなみにいくら綺麗だからと言って、雪を食べたらお腹を壊しちゃうので駄目ですよ?」
「もぅ、そんな事しないわよ!」
「その。リニスはずっとトランクで寝てたので、もし忘れてたら大変かなって思って」
人形もお腹を壊しちゃうの? って事は一応置いといて。
「まあよく考えたらそんな事する人なんていませんよね」
直後、後ろの方から何かを言い争うような声が聞こえてきました。
「ちょっと、お嬢ちゃん。雪なんて食べたらお腹壊すから駄目だって!」
「え~。だって美味しそうじゃん。それにシロップをかけたらかき氷に大変身するかもしれないし!」
「いや、絶対にそうはならないからね。ほら、あの屋台でかき氷買ってあげるから」
「いいの!? じゃあそっちにするよ!」
………………えっと。
「…………そ、そんな人はほとんどいないと思うのですが、たまにいるかもしれませんね。けど、絶対にマネしちゃ駄目ですよ」
「世の中にはいろんな人がいるからね~」
「ねえねえ、桜。そんな事より早く例のお店に行きましょうよ!」
「そうですね。さっきのやりとりは聞かなかった事にして早速向かいましょうか」
そういえば聞き覚えのある声だった気がしないでも無いですが、まあ多分気の所為ですね。
――――私達はちょっとだけ雪が降り出した道を、足元に気をつけながらゆっくりと目的地に向かって歩き出しました。
一歩足を進めるごとに足元からザクザクと心地の良い音が聞こえてきて、それが楽しくて歩くのがちょっぴり愉快になっちゃいます。
「さ~くぅ~らぁ~。まだお店につかないの?」
待ちきれないのか、リニスが到着を急かしてきました。
「多分もうちょっとです」
「う~ん。列車の中で見た時はすぐ隣だったのに、歩くと結構遠いのね」
「まあ地図で見るのと実際に歩くとでは、かなり違いますからね」
リニスは文句を言いながらも楽しみの方が勝っているようで、自然と目的地に向かう足が早足になってる気が。
――――そんなこんなで私達は真ん中に大きな噴水がある広場へと到着しました。
広場の中は噴水を中心に囲むような形でいろんな屋台が出店されていて、沢山の人で賑わっています。
ちょうどいい時間に到着したのか、公園に設置されている証明が少しずつ灯っていき、公園の中が幻想的な雰囲気に包まれるようなライトアップがされていきました。
「わぁ~。すご~い」
「凄く綺麗です!?」
ガイドブックで予め見ていたのでこうなる事は知っていましたが、やっぱり実際に見るとなると感動はかなり違ってくる事を思い知らされました。
「えっ!? 桜、なにあれ!?」
「なんですか? ……………あっ!?」
ライトアップされるまで気が付かなかったのですが、広場の中にはいくつかの雪像が作られているみたいでした。
いろんな動物やアニメのキャラクターを模した雪像があり、これを眺めているだけでも楽しめそうです。
「あれは雪で作られた像ですね」
「ふ~ん。溶けたりはしないの?」
「公園には空調フィールドが展開されていて、常に適温になってるので溶けないですよ」
「そうなんだ~。桜って物知りなのね」
「――――くふふ。まあそれほどでも無いですが」
私はガイドブックをさっと後ろに隠して、リニスに見えないようにしました。
カンニングがバレてしまっては自慢できなくなっちゃいますからね!
とりあえず私達はそのまま目的だった特製プリンが売られている屋台を探す事にして、数分後になんとか見つける事が出来たのですが……………。
「…………これ並ぶの?」
「えっと………」
流石にガイドブックでおすすめのお店として紹介されていたからか、屋台には凄い人数が並んでいて、このまま並んだら他のお店があんまり並べないかも…………。
このままだと美味しいおやつハシゴツアー予定が、最初の1店だけで終わっちゃうかもしれません。
「こうなったら予定変更です。まずは人が少ないお店から周りましょう!」
「そうね。本には他にも沢山お店が載ってたんだし、後でもいいかも」
「では早速どこに行くか決めないと――――」
私は後ろに隠していたガイドブックを出して、他の良さげなお店を探す事にしました。
「あれ? ねえ、桜。いつの間に本を取り出したの?」
「え、えっと…………。今カバンから出したんですが、どうやら早すぎてリニスには見えなかったみたいですね。実はガイドブック早抜きコンテストで優勝した事もあるので!」
「そうなんだ。すごーい」
うぐっ。
純粋な眼差しが痛いです。
「…………すみません。今のは冗談です」
「ふぇ? そうなの?」
「えっと。それより良さそうなアイス屋台を見つけたので、ここに行きませんか?」
「ほんと!? わぁ~、楽しみかも」
私達は人混みをかき分けながら新しい屋台に向かう事にしました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます