人形列車5

「――――ふぅ。なんか思ったより重いですね」

「じゃあ置いていく?」

「いえ、持ち主の人にお礼を貰いたいので、持っていきます!」

「がんばれ~」

「…………シャンティは手伝ってくれないんですか?」

「ボクがどうやって手伝うのさ?」

「――――えっと。上に乗っけて転がすとか?」

「それは却下!」


 駅長室までは遠いので、とりあえず私の客室にトランクケースを持っていき、そこから通信をして乗務員さんに報告する事にします。


 なんとか頑張ってケースを客室へと運び、そのまま床に下ろすとケースの留め金が古かったせいか下ろした衝撃で空いてしまい、ケースの蓋がギイときしむ様な音を立てながら、ゆっくりと開いていきました。


「こ、これは!?」


 トランクケースの中には1人の女の子が眠るように入っていました。

 真っ黒なゴシックな服を着ていて、頭には黒い花のコサージュがついた帽子を被っています。

 顔は人だと思えないくらい整った顔をしていて、ずっと見続ける事も出来そうな、そんな魔性めいた感じが。


 けど、この子からは寝息も聞こえないし、ましてや動いてすらいません。

 いけない物を見つけてしまったという危機感から、冷や汗が頬を伝わりピシャリと床の上で弾けたような音が聞こえました。


「シャ、シャンティ。これは事件です!?」

「あ~。シリアスにひたってる所悪いんだけど、ちょっとこの子の手の関節部分見てみたら?」

「…………手?」


 私は女の子の服の袖をまくり手をあらわにすると、そこには人の物ではない作り物の関節が現れました。

 ………………ということはつまり。


「――――ふぅ。人形じゃないですか。シャンティ、あんまり私を驚かせないでください」

「いや、桜が勝手に勘違いしたんじゃん」

「そ、そうでしたっけ? ともかくこの子も早く持ち主の所に帰りたいと思うので、乗務員さんに連絡しましょう」


 私はトランクケースを閉めてから客室に設置してあるバーチャルモニターを表示して、乗務員さんと連絡する項目を選択しました。


 数回の呼び出し音の後、すぐに画面に乗務員と思われる人物の姿が出てきて、その人物から声が発せられました。


「お客様、どうかなさいましたか?」

「あの。落とし物を拾ったのですが、そっちに何か連絡とかいってませんか?」

「どのような落とし物でしょうか?」

「えっと、ちょっと古い黒のトランクケースです」

「かしこまりました。お調べしますので、少々お待ちください」

「はい」

 

 乗務員さんの顔が一旦サウンドオンリーの文字に切り替わり、画面からは愉快なリズムが流れ始めました。

 最初はボーっとその音楽を聞いていたのですが。


「も、もう耐えられません!」

 

 軽快なリズムに触発され、私の体は自然とダンスを踊り始めてしまいました。


「ふ~ん、ふ~ん。ふふふ~ん」

「…………なにやってるの?」

「な、なんか急に踊りたくなって。それに今は乗務員さんには見えてないので大丈夫です!」

「何が大丈夫なの!?」


 そして数秒後。


「お待たせいたしました…………あの……お客様?」

「はうっ!? え、えっと。大丈夫です!」

「あ~、これは空気読んで見なかった事にされてるね~」


 私は必死に平静を装ってモニターの前に早足で移動しました。

 

「お調べしましたが、トランクケースの届け出はありませんでした」

「そうなんですか」

「こちらでお荷物を預かる事も出来ますが、いかが致しましょう?」

「そうですね。ではお願いします」

「かしこまりました。では乗務員が取りに伺いますので、荷物の引き渡しをお願いします」

「わかりました」


 通信を終えると画面が消えたので、乗務員さんが来るまでの間待つことにしました。

 

「これでもう安心です」

「桜~。ご飯が届いてるよ~」

「では、食べながら待つ事にしましょうか」


 いつの間にか通路側にある保温ボックスにお弁当が届けられていたので、私は早速机にお弁当を移動させて、ちょっと遅い昼食を取ることにしました。


「えっと、飲み物は…………」

「さっき売店で買った紅茶でいいんじゃない?」

「そうですね。さっそく飲んでみましょう」


 私は売店で見かけたちょっと高めの紅茶のティーバッグをカップに入れた後、電子ケトルに水を入れ沸騰させてから、カップに注ぎ込みました。


「なかなかの香りです」

「蓋はしなくていいの?」

「おっと、そうでした」


 カップに蓋をして少し蒸らしてからティーバッグを取り出して紅茶を完成させると、ちょうど部屋のチャイムが鳴り、来客が来た事を私に知らせます。


「どうやら乗務員さんが来たみたいですね」


 入り口の様子を確認するモニターを表示すると、予想通りこの列車の制服を来た人物が立っていました。


「はい。もしもし」

「おるかーー?」

「はい。います…………って、運送屋のお兄さん!?」

「よっしゃおるな! はよドア開けてや~」


 私は急いで入り口に向かいボタンを押してロックを解除すると、こちらが開く前に運送屋のお兄さんが部屋の中に入ってきました。


 いつもはチャイムを押した瞬間に入ってくるのですが、ここはセキュリティが高く常にドアにロックがかかってるので、入りたくても入れなかったんですね。


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