格闘ゲーム編 必殺技を出してあげます! 完
そう。最後に選ばれた場所は城下町のステージです。
お互いのキャラが対戦前の名乗りを上げてからラウンドコールが響き渡り…………今、対戦が始まりました。
私が今まで取っていた開幕行動はその場でガードか後ろにジャンプしてから牽制の飛び道具を撃つことの2つです。
負けたら終わりの大会でリスクの高い行動は取らない人が多いので、私もそれに習ってなるべく最初は様子見を心がけているのですが今回は攻める事にしました。
今大会で1度も見せてない開幕前ジャンプからの奇襲が決まれば一気に流れを引き寄せる事が出来、そのままの勢いで勝利まで行ける事も少なくないからです。
予選はともかく決勝のモニターで映った試合は全て下がっていたので、カズキさんも私が開幕に下がると予想してる可能性が高いでしょうし。
――――勝負に出た私は前に飛んでから1番ダメージを取れる攻撃をくり出しました。
「……見えてるぞ」
「えっ!?」
私の攻撃はカズキさんの対空技に対応され、攻撃を出していたせいでカウンターヒットになり予想以上のダメージを受けてしまいました。
「1度も見せてないのにどうして!?」
「見えたって言っただろ?」
「もしかして飛びを見てから対応された!?」
――やっぱり反応速度は人並み以上の物も持っているようです。
対空を受けてしまったのは痛いですが、こっちもリスク承知での行動だったのですぐに切り替えていかないと。
それに飛びが通らないならカズキさんの意識を上から横に移動させればいいだけの事です。
飛び道具、牽制の置き技、投げを使って私は横から攻撃するぞと相手に思わせる事が出来れば上からの攻撃の対応がおろそかになるはず。
私はブンブンと攻撃判定の大きめの技で牽制しながら飛び道具を撃つことにしました。
私のキャラの牽制技は判定が大きい割に隙も少ないかなり優秀な技です。
何回か撃った牽制が偶然ヒットしたのを確認してからそのままコンボに行き、なんとか残り体力が逆転して私がリードを奪いました。
「そろそろ行けるはずっ!」
これで私の牽制からのコンボがそこそこの火力を出せるのをカズキさんに見せることが出来たので横を意識しなくてはならない状況になったはずです。
私はジャンプで攻撃をすると上だけを見ていた序盤とは違い、横を見てから上を見た為か飛んだのを確認する事は出来たみたいですがコマンドの入力までは間に合わなかったようでカズキさんはガードで攻撃をしのぎました。
相手に攻撃をガードさせる事が出来たのでまだこちらが攻撃を続ける事が出来ます。
小技を刻み相手を固めながら投げか中段攻撃の択をかける。
投げはカズキさんの超反応で投げ抜けされてしまいましたが、行動をフォローする為に一応牽制技を出しておく事にします。
「ちょっと近いですが多分大丈夫なはずっ」
「――――誰の前で甘えた行動をしてるんだ?」
「なっ!?」
隙の少ない安全なはずの攻撃にカズキさんの最速の攻撃がヒットしました。
「2フレームの硬直に1フレームの攻撃で反撃して来た!?」
安全だと思ってた所に痛い反撃。私の体力はもうどんな攻撃を受けても倒れてしまうくらいのギリギリしか残っていません。
対してカズキさんはあと2回はコンボを入れないと倒せないくらは残っています。
試合の残り時間もどんどんと減っていき時間的にはお互いにあと1コンボ入るかどうかしか残っていません。
もう私に取れる行動は無い…………いや、最後の技が残っています。
私のキャラにはとっておきの溜め技が残っていました。
ボタンを押しっぱなしにする事で押した時間の分だけどんどんダメージが上がっていく技が。
開始時からタイムアップギリギリまでタメる事で相手の体力を8割吹き飛ばす大技が!
格上の人相手にボタンを押しっぱなしでずっと対戦する事はかなり大変です…………が、私はある道具を使った事でそれを解消しました。
ボタンの上に置いた水筒が開始時からずっとボタンを押して最大威力に上がるまでタメてくれていたのです。
この為のアーケードコントローラー、この為の水筒。
あとはこの水筒を少しずらすだけで超火力の技が発動して逆転の一手になってくれるはず。
…………まあ公式大会でこれをやると余裕で反則負けになってしまいますが、今回は何でもありの非公式大会なので大丈夫です!
ただ、問題はその技をいつ使うのかです。タイミングを見極める? もしくは相手がミスをした時に叩き込む? …………いえ、こういう時に技をぶっ放す瞬間は決まっています。
それは…………気持ちが高まった時っ!!!
窮地に落とされた事で私の中のeスポーツぢからが高まってきているのを感じます。
私の中から会場の音が消えてレバーを弾く音だけがはっきり聞こえるくらい集中もしています。
やるなら今っ!!!!
「これが、私のeスポーツっ!!!!!」
私が水筒を弾いた瞬間、武器を構えたキャラが突進し最大火力の攻撃をくり出しました。
カズキさんのキャラが繰り出す攻撃を全て弾きながら突進を続けもう勝利は目の前。
…………と、思った瞬間に画面にタイムアップの文字が表示されゲームが終了してしまいました。
「え? ええ~~~っ!?」
どうやら技を繰り出す事だけに集中しすぎて残り時間の計算を失敗してしまったようです…………。
―――――とまあ、そんな感じでゲーム大会は幕を閉じました。
対戦が終わった私は運営の店長や忍さん達と最後の準備を手伝っています。
「おつかれ、桜。激戦だったわね」
「……あと少しだったのに惜しかったです」
「まあ相手もかなり強かったし仕方ないんじゃない?」
「とりあえずいつかリベンジしたいですね」
「ところでさ。リベンジはいいんだけど、優勝の景品はどうするの?」
「………………あ」
た、た、た、大変です。試合内容に満足してしまい忘れてましたが、景品の事をすっかり忘れていました。
「しかたないのでカズキさんには事情を説明して少し待ってもらう事にします」
「へ~。決勝に残ってたのカズキ君っていうんだ?」
「いえ。カズキさんは―――――」
女の子ですと訂正する言葉を私は飲み込みました。
カタカナのエントリーネームだけなので解りづらかったのかもしれませんね。
なんとなく忍さんには秘密にしておいたほうが面白くなる気がしたので黙っておく事にしましょう。
「ん? 何か言った?」
「いえ、何も。それではちょっと説明してきます」
「りょ~かい。じゃあ私はこの辺の片付けしてるから」
忍さんに後の事をお願いして私はシャンティと一緒にカズキさんを探すことにしました。
一通り見渡して見当たらなかったので外に飲み物でも買いに行ったのかと思った私はお店の外に出ると、入り口を出た所で誰かと電話をしているカズキさんの姿を見つけました。
電話中に話しかけるのは失礼なので通話が終わってカズキさんが画面を消してから私は話しかける事にしました。
「あの………」
「どうかしたのか?」
私に気がついたカズキさんは相変わらずのそっけない返事で返してきました。
「実は優勝商品なのですが…………」
「優勝商品? そうだ。それよりお前に頼みがあるんだけど、いいか?」
「頼みですか? はい。私に出来る事だったらいいですよ」
「すまないが、ちょっと急用が出来てすぐにでも行く事になった。私の商品はお前にやるから好きにすればいい」
「えっ!? 大丈夫なのですか?」
「別にお金や物の為にゲームをやってる訳じゃないからな。それにもう少しでお前の勝ちだったじゃないか」
「そうかもしれませんが、勝ったのはカズキさんです」
「どのみち私は表彰式を辞退するからお前が優勝だ。気に入らないなら優勝商品は預かっておく事にすればいい」
「預かる……ですか?」
「お前の本分はブレマジだろ? まだお前とはブレマジで決着はついてないからな。今回のとあわせて次で決着をつければいい」
「そういう事なら、預かっておきます」
カズキさんは急いでいるようで、すぐに建物の出口へと向かって歩きはじめました。
けれど少しだけ歩いた所で立ち止まり私の方を振り向いて。
「そうだ。IDの交換をしておかないか?」
「いいんですか?」
「次に対戦する時に便利だからな。…………ハヤテ頼む」
「ふむ。そっちの赤饅頭に送ればよいのだな?」
カズキさんは自分のサポートAIハヤテに頼みIDの送信を行いました。
「シャンティ。IDを交換してください」
「ブーブー。ボクは赤饅頭じゃないんですけど~」
「あの。そういうのはいいので早くしてください」
「解ってるって…………はいっ、送受信完了っと」
一瞬でIDの交換は終わり、私のアドレスリストにカズキさんの名前が表示されました。
これでいつでも連絡を取ることが出来ます。
「じゃあな」
「はいっ。ではまた」
私はカズキさんの辞退を店長達に知らせると少しホッとしたような残念そうな表情をしていました。
そして、すぐに表彰式が始まります。
私の順位は2位でいつの間にか3位決定戦に勝利していた忍さんが反対側にある3位の文字の上に登っていました。
「こっ、これはもしかして、あの有名なあれっ1位がいないぞってシーンでは!?」
「はいはい。馬鹿な事やってないで上がる上がる」
「むぅ。もうちょっと遊びたかったのですが…………」
私は忍さんに促されるまま2位の場所からひょいっと1位の場所に繰り上がり、忍さんは3位から2位の場所に移動して、4位の人が舞台裏から出てきて3位の場所に登りました。
表彰式が終わった直後に宅配便の人が到着し、荷物が遅れてすみませんと謝罪されたので私は無事に届いたので大丈夫ですよと言いました。
残念な事に1位では無かったのでゲームセンターガイドブックは次の機会にと店長にいわれてしまい貰うことが出来なかったのがちょっぴり残念ではあります。
…………これはまたガイドブックを使って何かお願いされるかもしれません。
けど今の私はとても満足しています。
何故なら今日のイベントで新しい友だちが増えたのですから。
騒がしい表彰式の中、次はカズキさんとブレマジで遊ぶ事を思い描きながら私は家へと帰ることにしました。
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