検疫官4


 「おい何をしている!」複数の検疫官がトラックを取り囲む!

私も運転席の真正面に躍り出た。サングラスをかけた男が

ハンドルを握りしめているのがわかる。

ボンネットの向こうのディーゼルエンジンが威嚇するように吠える!

だがひるむわけにはいかない!


「停まりなさい!」腰の自動拳銃を抜き両手で構え私は怒鳴った。

「車から降りなさい!」運転席でなくボンネット中央に照準を合わせた。


サングラス男の口が歪む「へっ、国境さえ越えちまえば関係ねえ!

どけや姉ちゃん!ひき殺されてぇか!」

ギアが入り、巨大なトラックは動き出した。

真正面の私にみるみる迫ってくる。

ブレーキを踏む気配は・・・ない!


私は引き金を引いた。


一発!

二発!!

三発!!!


エンジン音はさらに高まった。悲鳴のようにすら聞こえる。

駆動輪である前輪が、地面を齧り取ろうとするほどの勢いで

回り続けている・・・が、


トラックは少しも動いていない。動けるわけがない。

なぜならその車体は、地面から1センチほど浮いていたから。

すべてのタイヤが 空 回 り していたから。


男の顔からサングラスがずり落ちる。必死にハンドルや、

ギアレバーをガチガチやっているが、車は微動だにしない。

私はドアに近づいて、言った。


「エンジンを止めて、車から降りなさい!」


異世界トンネルSA。私たちの詰所もそこにある。

取調室ももちろんそこにある。憔悴しきった表情で男は降りてきた。

数人の検疫官が男の両脇を抱え、詰所へと連行してゆく。


 私は拳銃を腰に戻した。検疫官に支給されてる”魔法銃”を。

この銃は相手に穴を開けることは決してない。

代わりに必ず魔法をかける。今みたいに。

この効き目が出るのはファンタジアンだけだ。

日本側へ持っていけばただのガラクタになるだろう。もっとも、

見た目も作りも素材もホンモノの拳銃そのものだから、

当然禁輸品だし、ケルベロスのウェポンが見逃さないと思うけど。


あれ?そういえば・・・「ドラブラポン!?」姿がない。

が、かすかに物悲しい鳴き声が聞こえる。どこ?

・・・トラックの中、荷室からだった。

(降りてなかったんだ)


扉を開けるとケルベロスが飛び出して私にじゃれついてくる。

「よくやったね!偉いよ」頭を撫でる時は3つまんべんなく

撫でなきゃいけないのがめんどい。


後から精査してわかった事。問題のトラックの積み荷は確かに貝殻の粉だった。

だが同時に、それにまぶして埋め込まれていたものもあったのだ。


竜骨・・・ドラゴンの骨。


蒐集家や、効くかどうか知らないが薬の材料として珍重され、

結果法外な値段で取引される。希少価値の塊。


だが、ファンタジアンではドラゴンもまた一種族として

エルフやドワーフと同じ存在。骨を取るために墓を荒らしたり、

さらって殺したりすれば重犯罪だ。


彼はあの竜骨をどこからどうやって入手したのか?

・・・後はファンタジアン警察の仕事だろう。




 「ん~~っ」私は伸びをした。

「実力行使 すると決めたらためらうな」と教えられてるが、

やっぱああいうのは肩がこる。


 時刻は午後18時。シフト明けまであと2時間。

ここは地底で昼夜とかあまり関係ないけど、

それでも生活のリズムは大事だからね。

今日はしんどかった~。ワイバーンに竜骨、とほほ、

どっちも報告書書いてないよ。ボールペン恐怖症になりそう。

早いとこ切り上げて

SAのきつねうどん食べたい。・・・ん?


 ケルベロスが私を見ている。


 「くぅ~ん」三つの頭が同時に切なく吠える。

高音、中音、低音、のハーモニーで、なんていうか哀愁的だ。

必死で何かを訴えかける眼差しが6つ。

「どうしたの?ドラブラポン」


その時私の脳裏に稲妻が落ちた!


「!!!もしかして私今日、あなたにご飯あげてない?」

全力で尻尾を振るケルベロスを連れて、私は詰所の玄関をくぐった。





つづく







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