第23話 眠れる森の裸女


 むかしむかし、ある王国のお城に、一人のお姫様が産まれました。

 珠のように可愛いそのお姫様に、王国の人々も大喜びです。

 王様は早速、お祝いのパーティーを開くことにしました。

「王国をあげての 盛大なパーティーじゃ」

 人々にはお城から、お酒やパンやお菓子が振舞われ、みんなでお姫様の誕生をお祝いします。

 昔からの王国のしきたりで、王国に住む魔女たちもみんな、お城でのパーティーに招待します。

 魔女を迎える為の、金のお皿も十二枚、みんなテーブルへと並べられて、その夜、お城でのパーティーが始まりました。

 魔女たちもお城へやってきて、みな順番に、愛らしい赤子の姫へと、祝福の魔法を送ります。

 一人目の魔女は、優しい心。

 二人目の魔女は、美しさ。

 こうして十一人の魔女が祝福をした直後に、招待されなかった十三人目の魔女が、怒りを以て、割り込んできました。

 王国に魔女は十三人いて、金のお皿が一枚足りなかった事に、執事たちは誰も気付かなかったのです。

 十三人目の魔女は、言います。

「姫が十五歳を迎えて成人したら、刺繍針に刺されて死ぬだろう!」

 赤子姫に呪いを残して、怒りの魔女は城から帰って行きました。

「なんとした事だ」

 産まれたばかりの愛らしい姫は、十六歳を迎える事なく、死んでしまう運命とされてしまったのです。

 王様たちは、どうして良いのかわかりません。

 そこに、招待をされていた十二人目の魔女が、やってきました。

「姫様が刺繍針に刺されて死ぬ事は、ありません。私に魔女の呪いを解く力はありませんが、かけられた魔法を少し変える事はできます。姫様は死ぬのではなく、百年の眠りにつくだけです」

 そう言って、死の呪いだけは回避されました。

 王様はさっそく、王国中の刺繍針を集めて、遠くの山へと埋めてしまいました。

 お妃さまは大好きな刺繍が出来なくなってしまいましたが、姫の為にと、人々と同じく刺繍針を全て捨てました。

 こうして、十五年の歳月が流れます。


 成人した姫は、それはそれは美しく優しく、王国だけでなく周囲の国々の人たちからも愛される、少女姫へと成長しておりました。

 輝く金髪に、美しい面立ち。

 優しく優雅な気品や立ち居振る舞いなど、姫を知らない人でも一目見ただけで、高貴な姫君だと納得してしまう程でした。

 だからでしょう。姫は裸族でした。

 王国で最も優れた芸術的なドレス職人が、魂を込めて縫い上げた極上のドレスでさえも、姫が纏うと、姫自身の美しさの前に色褪せてしまうのです。

 なので王様たちも国の人々も、美し過ぎる姫が裸族でも、特に名前などは呼ばず、全く問題には感じられませんでした。

 そんなある日、裸の姫がお城の広い広いお庭を遠くまで探索していて、小さな小屋を見つけました。

 小屋の中には、一人のお婆さんがいて、美しい刺繍を縫っております。

 産まれて初めて刺繍針を見た裸姫は、不思議な形の針に、興味深々です。

「こんにちは、おばあ様。あなたが手にしているその針を、私は初めて拝見しました。それはいったい、なんでしょう?」

「これはこれはお姫様。どうぞこちらで、ようく、ごらんなさい」

 招かれた全裸の姫が針に近づいて、細い指を伸ばすと、指先に針がチクっと刺さり、姫はその場で倒れてしまいました。

 同時に、王様やお妃さま、料理長から執事たちや衛士たち、果てはかまどの火まで、みんながその場で眠りに落ちます。

 お城とその周囲広くには、硬い蔦が這いまわって、蔦からは鋭い棘が無数に伸びて、お城はすっかり、危険な緑の森の中に埋められてしまいました。

 お城の異変に、王国の人々は大騒ぎです。

 勇気ある人たちが、姫様たちを救出しようとお城に向かったものの、鋭い棘と硬い茨に阻まれて、森に分け入る事すら叶いません。

 周辺の王国からも、勇気ある王子が緑の森に挑みますが、誰一人としてお城に辿り着く者は、現れませんでした。

 やがて百年の年月が過ぎて、茨森の城の伝説を聞いたある王国の若い王子様が、森の麓までやってきました。

「これが茨森の城か。中には美しい姫君が、眠っているとの伝説だが」

 王子様は、剣を携え白馬に跨り、金髪碧眼イケメン痩せマッチョで高身長な、凛々しい青年です。

 王子様は、みんなから名前ではなく王子様と呼ばれるほど容姿端麗なので、裸族でした。

 麗しの裸王子様が茨の城へと近づいてゆくと、不思議な事が起こります。

 まるで王子を待っていたかのように、茨の鋭い棘が抜け落ちて、硬い蔦が枯れ果てて、城への道が開かれたのです。

「なんと面妖な」

 裸の王子様が白馬で城へと進むと、入り口を塞いでいた蔦が枯れて、城門が開いて橋が下ろされ、お城が解放されました。

「まるで、私を招いているかのようだ」

 そう感じた爽やかな全裸王子様は、 白馬を降りて、自らの足でお城の中へと入ってゆきます。

 城内は、百年の月日を感じさせない程にピカピカで美しく、衛士たちや、かまどの火までもが、まるで時が止まったかのように、その場で動かず眠っていました。

 玉座には、王様と王妃様が座ったまま眠っていて、今にも目を覚ましそうな、生き生きとした命の温かさまで感じさせます。

「この様子だと、伝説に訊く姫君も 実在するであろう」

 城内を全裸姿で探し回るイケメン王子様は、姫の部屋のベッドで眠る、それはそれは美しい全裸の姫を見つけました。

 寝衣の一枚も身に着けず、シーツも纏わず、生まれたままの姿で眠る、金髪の美姫。

「おおぉ…! なんと美しく、またステージの高い姫君なのだろう!」

 王子様はステージの高い心を一目で射抜かれると、姫君の美顔に自身の美顔を近づけて、唇を重ねます。

 するとどうでしょう。

 全裸姫がうっすらと目を覚まし、全裸の王子と目が合いました。

「まあ、なんとステージの高い殿方でしょう。あなたはいったい?」

「おお、姫君よ。あなたは今、伝説の眠りより目を覚まされたのです」

 裸姫が百年の眠りから目を覚ますと、王様やお后様、執事たちやかまどの火など、全てが目を覚まします。

「姫にかけられた呪いが、王子によって解かれたのじゃ」

 美しい裸姫の目覚めに、王国の人々も大喜び。

 王子は姫との結婚を許してもらい、王国は約百年ぶりに、華やかなパーティーが催されました。

 こうして、イケメン全裸王子と美しい全裸姫は、末永く幸せにくらしましたとさ。


                           ~終わり~

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