La 童話

八乃前 陣

第1話 赤いずきんちゃん

 むかしむかし。

 とある国の森の近くに、赤ずきんちゃんと呼ばれる女の子が住んでいました。

 女の子はみんなから、赤ずきんちゃんと呼ばれて、可愛がられておりました。

 森の安全を護る猟師のオジサンや、森の家に一人で住んでいるお祖母ちゃん、赤ずきんちゃんのお母さんも、名前ではなく、赤ずきんちゃんと呼んでいました。

 きっと、赤いずきんに埋没してしまう個性か、あるいは赤い頭巾がよっぽどなのでしょう。

 個性よりも目立つ、赤い頭巾を被った女の子だからなのかもしれません。

 少女が家の中で裸族でも、赤い頭巾さえ被っていれば裸でいる事に気づかれる様子もなく、叱られませんでした。

 そんなある日、お母さんが言いました。

「赤ずきんや、美味しいパンを焼いたから、葡萄酒と一緒に、お祖母ちゃんの家に届けてきておくれ。途中には狼も出るから、寄り道しないで、気を付けて届けてくるのですよ」

 狼が出る森へお使いに出ろと、年端も行かない少女に、母は言いつけます。

「はあい、行ってきま~す」

 赤ずきんちゃんは、赤い頭巾に木靴を履いただけの半裸姿で、葡萄酒とパンが入ったバスケットを手に、お祖母ちゃんの家へと向かいました。

 空はとても晴れていて、裸で歩いていると、とても気持ちが良い暖かさです。

「パン~♪ ママが焼いた、美味しいパン~♪」

 ご機嫌に、歌まで歌いだします。

 そんな、赤い頭巾と木靴だけを纏った少女に、狼が気づきました。

「赤ずきんちゃんだぞ。こいつは美味そうだ」

 狼は、悪だくみを思いつきます。

「やあ、こんにちは 赤ずきんちゃん」

「あら狼さん こんにちは るんるん♪」

「ご機嫌だね どこに行くんだい?」

「ママが焼いたパンと、美味しい葡萄酒を、お祖母ちゃんの家にお届けするのよ」

 狼は、シメシメと思いました。

「それはお婆ちゃんも、喜ぶだろうね。あ、赤ずきんちゃん、この丘の向こうに、綺麗なお花が咲いているよ。摘んでいってあげれば、お婆ちゃんも きっと喜ぶよ」

「まあ、それは素敵だわ。ぜひお花を摘んでゆきましょう。親切な狼さん、どうもありがとう」

 赤ずきんちゃんは、狼の言う通りにお花を摘もうと、道を外れて丘へと向かいました。

 狼は、赤ずきんちゃんを見送ると、急いでお婆さんの家へと走ります。

「よしよし。それじゃあ 先回りだ」


 狼は、お婆さんの家にたどり着くと、扉をコンコンとノックします。

「はあい、どちら様ですか?」

 ベッドで横になっているお婆さんに、狼は声を作って、ウソをつきます。

「私よ。お婆ちゃん、赤ずきんよ」

「おや、よく来てくれたね 赤ずきんや。鍵は開いているから、早くお入り」

 そう聞いた途端、狼は扉を開けて、お婆ちゃん家の中へと入り込みます。

 赤ずきんちゃんではなく、狼の姿に、お婆ちゃんは驚きました。

「お、お前は 森の狼」

「お婆ちゃん、お前を比喩とかじゃなく、物理的な意味で食べてやるぞう」

 お婆ちゃんは、狼に頭から丸呑みにされてしまいました。


 赤ずきんちゃんがお花を摘んで、お婆ちゃんの家にやってきました。

 裸に赤い頭巾と木靴だけの少女は、扉をノックします。

「お祖母ちゃん、赤ずきんよ」

「おや、よく来てくれたね 赤ずきんや。鍵は開いているから、早くお入り」

 赤ずきんちゃんが家に入ると、お婆さんがベッドで横になっていました。

「お祖母ちゃん、元気?」

 赤ずきんがお婆さんに近づくと、何だかいつもと違う気がします。

「お祖母ちゃん。お祖母ちゃんのお耳は、どうしてそんなに大きいの?」

「それはね、お前の可愛い声が よく聞こえるようにだよ」

 素直な赤ずきんちゃんは、お祖母ちゃんの言葉を信じます。

「お祖母ちゃん。お祖母ちゃんのお目々は、どうしてそんなに大きいの?」

「それはね、可愛いお前の姿が よく見えるようにだよ」

 素直な赤ずきんちゃんは、お祖母ちゃんの言葉を信じます。

「お祖母ちゃん。お祖母ちゃんのお口は、どうしてそんなに大きいの?」

「それはね……お前を比喩ではなく物理的な意味で食べるためさ」

 起き上がったのは、お祖母ちゃんではなく、お祖母ちゃんの服を着た狼でした。

 狼は、驚く赤ずきんちゃんを、頭から食べようとします。

「いただきま~す」

 しかし間一髪、怯えて座り込んでしまった少女の赤い頭巾に、狼は噛みついていました。

 赤い頭巾を失って、裸に木靴だけとなった少女は、怯えて、逃げる事もできず、狼の目の前に座り込んでしまいます。

 一方、赤い頭巾だけを食べた狼は、すっかり満足しています。

 よっぽどな赤い頭巾に、狼は裸少女の存在を、気づいていません。

「赤ずきんちゃんを食べたぞ。でも小さい女の子だからかな、なんだか 布一枚みたいな食べ応えだぞ」

 それでも、お婆さんと女の子を食べたと思い込んでいる狼は、満足気にベッドで眠ってしまいました。

 家の外にまで聞こえる、大きないびき。

 外を通りかかった森の猟師さんが、家の様子に気づきました。

「おうい、お婆さん 家の扉が開いているよ」

 返事がありません。

 心配になった猟師さんが、家の中を覗き込みます。

 家の中に、お婆さんの姿はありませんでした。

 ベッドでは狼が大きなお腹を抱えて、気持ちよさそうに眠っています。

 そしてベッドの近くでは。赤い頭巾を失った、裸に木靴の女の子が、怯えて座り込んでおりました。

「やや、誰もいないぞ。さては狼め、お婆さんを食べたな」

 猟師さんは、裸で怯える少女の傍らで、眠っている狼のお腹にハサミを充てて、大きく切り裂きます。

 中からは、比喩ではなく物理的に食べられたお婆さんと、赤い頭巾が出てきました。

「おお、お婆さん」

「猟師さん、助かりました」

 お祖母ちゃんが助け出されて、木靴だけの裸少女が喜んで抱き付くと、お祖母ちゃんが抱いていた赤い頭巾に、頭がスッポリと収まりました。

「お祖母ちゃん、無事だったのね」

「まあ、赤ずきんや。おまえも比喩ではなく物理的な意味で、食べられてしまったいたんだねえ」

 お祖母ちゃんだけでなく、猟師さんも喜びます。

「おお、赤ずきんちゃん。無事で良かった」

 お祖母ちゃんと、赤い頭巾と木靴だけの裸少女は、嬉しくて抱き合いました。


                         ~終わり~

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