君は僕に生きろと呪う

たまマヨ

Prolog

明日を望まぬ少年

僕に明日は要らない。

なんなら今日という残された幾許の猶予すら僕には必要ない。

未練はないのか?と人は問う。

それに対して返す言葉はひとつだ。

未練を抱くほどの楽しみすらこの世にはとうにない、と。

カッコつけてる?

思春期特有の症状厨二病を患っている?

そう思うならそうなのだろう。

その人の中では。

僕のことを、この思想のことを笑いたければ勝手に笑えばいい。

もはやその慣れた嘲笑は些事どころか無にすら等しい。

つまり無いことと同義だ。

僕には何も響かない。

もはや僕には何も関係ないんだ。





今この瞬間にも潰えそうにこの世に留まっている僕の命には。





きっかけはなんだったか。

今にも死にそうな僕にも分からない。

あぁ、電車がこちらに走って来る音がする。

駅のアナウンスが耳を劈いて、レールとリア部が擦れる黒板を爪で引っ掻いたような不愉快な音がして、カンカンと遠くの踏切が喚いているのがかすかに聞こえてくる。

群衆は僕に見向きもしないだろう。

誰一人、僕を見てくれる人なんていない。

ものすごい質量が迫ってきてる。

人に殺されるほど怨みを買っていた覚えはない。

これは僕の意志だ。

線路の黄色い線の外側に踏み出したこの一歩も、間延びした世界で思想に耽っているこの意識すらも僕のものだ。

あぁ、僕にはないとも。

あるもんか、殺される理由なんて。

自分に何も無いからこそ、自分で死のうとしてるんだから。

僕は—──指を刺す群衆。有象無象の憎い顔、友人を語る悪辣—──別に一人でも—──響く笑い声。嘲笑される愚者。投げ捨てられる涙の痕—──生きていける—──涙で濡れた道──一人で生きる人生程、苦痛なものもありゃしないけれど。

ああもう、全部、全部消えてしまえ。

物語る大人。

はぐれた独りぼっちの自分。

そんな僕の親は、僕を育てるのに失敗した——─。

それでもこの世界のどこかには、生きてと願う人は、多分いるのだろう。

無報酬でも、無価値な自分の命ですらも、救い上げようとする人が。

命は尊くて、生きているだけで儲けもんだって。

生きてたらいいことだってあるよって。

そんな人の言葉なら、少しは変わって、生きようとしたのかな。

でも僕は命を投げ出そうとしている。

だって許されないから。

だって出会わなかった。

救世主にも、自分よりも価値のない人間にも会わなかった。

ただ少し人より恵まれた環境に産まれて、普通に十六年を過してきた。

ただそれだけだ。

人が豊かになれるこの国に生まれてきただけなのに。

僕にとっての希望は昏い絶望の底で擱座していた。

姿すら見えない。

希望とはなんだ?

それとも最初から希望なんてなくて、全ては物語の中でしか存在しないのか。

なんにせよ、僕という人間が消えたところで世界にとってなんの影響もない。

何も生み出してない、それどころか空気や食物を僕なんかに存在する価値は果たしてあるのか。

僕が仮に『生きたい』『明日が欲しい』なんて望んだところで。

最後にはどうせ、死は人々の黙した声を喰らい、生きとし生けるものの希望を嘲笑うだろう。

終わりは必ずやってくるのだと。

形あるものの終着点こそが死であるのだと。

神がこの世界にいるのだというのなら、神は死んだ。

それか神を名乗る悪魔かのどっちかだ。

こんなクソッタレな世界を作るくらいだ。

きっとみんなの望む通りのなんでもしてくれる都合のいい『神』という言葉の通りなんかじゃない。

そんな世界で忘れられぬものばかり探し求めて、結局何も僕の手元には残らなかった。

ただただ、悲しいだけの人生だった。

死んだら人が悲しむだとか、死者に顔向けできないとか、そんなの所詮生きている人の都合だ。

死ねば幸福もない代わりに、辛いこともない。

死ぬというハードルさえ超えられれば、未練や無念なんていう俗世のしがらみに縛られないし、辛いことだってない。

逃げて何が悪い。

痛い事にばかり指折り数えて、もうたくさんだ。

この世に留まるための命という錨を上げて、新しい世界へ。



























             抜錨












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