第32話 零係・・・壊滅す。
鏑木達は怪しいと踏んだマンションの前にある雑居ビルの空き部屋を借り上げ、監視を始めた。
「まずは女だ。出て来る女は全てチェックしろ」
鏑木はマンション周辺に幾つか監視用カメラを設置した。これでマンションのどこから出てきても捉える事ができる。
並の人間である彼らに悪魔を気配だけで特定する事は出来ない。
悪魔を特定するには彼らが精気を吸う現場を押さえるしかない。
10人のチームが悪魔の行動を追う。
24時間、監視をする為、昼は3人、夜は2人で交代をする。
鏑木はショルダーホルスターに収めたリボルバー拳銃を取り出す。
「相手はすでに十人以上、殺している。相当な力を持っているはずだ」
拳銃の弾倉を出して、弾丸を確認する。正直、拳銃が通用しない事はすでに分かっている。それでも彼らに扱える武器で最強なのだから仕方がない。
「刀の方が使えそうですけどね」
部下の一人が笑いながら言う。
「そうだな。お前が刀の達人なんて話、初めて聞いたぞ」
軽く笑いながら、拳銃をホルスターに戻す。
「しかし・・・本当に鬼がこちらの動向に気付いた場合・・・」
「巫女無しでは・・・まずいだろうな」
「くそっ・・・どうなっているんだ」
部下は悔しそうに握り拳を固くした。
「まぁ・・・勝ち目は低いが・・・俺らも長年に渡る研究成果がある。陰陽師の力ってのを見せてやろうじゃないか」
鏑木は笑いながら、その手は震えていた。
女が出て来た。監視をしていた鏑木は彼女を注意深く眺める。
すると、ノートパソコンを眺めていた職員が声を上げる。
「来ました。鬼の反応です。微かですが、センサーが感知しました」
鬼センサー。それこそ、まさに陰陽の最新技術である。かつては儀式などで鬼を察知するしか方法が無かったが、その儀式などをデジタル化して、コンピューター内で再現する事に成功したのである。センサーとなるのは札である。札にはブルートゥースの機能が付与されており、札が感じ取った鬼の気をデジタル化して、パソコンに送り込むのだ。
だが、それでも高いレベルの鬼を察知するのは難しい。頭の良い鬼は自らの力を抑える術を知っているからだ。
「あいつだ。写真を撮れ。部屋は解るか?」
「問題ありません。すぐに身元を参照します」
鏑木は覚悟を決めたように脇から拳銃を抜いた。
「さて・・・総員を集めろ。ヤツが部屋に戻ったところをやる」
鏑木の部下が全員、集められた。
いつものスーツ姿では無い。防弾ヘルメットに防弾チョッキ。MP5K短機関銃を携えていた。
彼らは戦闘訓練も施されている。だからと言って、本職ではない。あくまでも付け焼刃だ。彼らの本業はあくまでも鬼の探知と予測である。鬼を払う事もあるが、まだ、覚醒間もないような鬼や完全に動きを制した鬼を儀式で払うのが主である。そうでなければ、姫騎士のような特殊能力を持たない彼らに鬼と戦う力はない。
「目標は1時間前に部屋に戻った。室内に新たに設けたカメラとマイクで奴の行動は把握している。現在は疲れたのだろう。寝ている。やるなら今だ。部屋の鍵はすでに確保した。入室後、奴を起こさぬように静かに移動。一気に抑える。失敗は許されぬ。心して掛かれ」
鏑木の言葉に全員が緊張する。鬼の強さは誰もが知っている。姫騎士を共わない戦いはあまりに不利だと言うことも。
10人は夕闇に紛れて、マンションへと向かった。エントランスをカードキーで通り抜け、そのまま、目標が住む3階の角部屋に向かう。
先頭の男が扉に合鍵を差し込み、静かに開錠した。後戻りは出来ない。
誰もが緊張をした。
扉が開け放たれ、次々と部下達が入り、最後に鏑木が入った。
室内は暗かった。そして臭い。
生ごみが散乱している。いわゆるゴミ屋敷状態だ。
鬼と化した人間にはよくある事だ。
彼らは静かに、速やかに鬼が寝ている寝室へと向かった。
それは僅かな距離であった。
だが、先頭の男の頭が天井へと飛んだ。
頭を失った首の切断面から噴水のように吹き上がる血。
「目標!」「撃て!」
9人は部屋いっぱいに広がるように展開して、銃口を女に向けた。
それを見ていた女は笑っていた。
銃声が重なる。
鏑木は絶望した。
一斉に短機関銃を発砲した。周囲への影響さえも無視して、フルオート射撃である。空薬莢が飛び散り、硝煙が部屋に充満する。
たった10メートルも無い位置に立っている女に着弾しないはずが無かった。
だが、結果は違った。彼女に銃弾は当たらず、彼女の手刀は一瞬にして、8人の部下の首を切り落としたのだ。
残されたのは鏑木だけ。
これまでの経験でもここまで鬼に圧倒された事は無かった。
殺される。
そう思ったのが最期であった。
「ははは・・・陰陽師か・・・武士も付けずに乗り込んで来るとか」
女は血塗れになった部屋で死体を見下ろしながら、笑っていた。
僕の股間が聖剣でカワイイ姫騎士が抜いてくれた。 三八式物書機 @Mpochi
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