第16話

 海に出た。私はもう一度、背伸びをした。猫はまだ歩いて行く。その先は浜辺。


「どこまで行くの?」


 猫の先に、人が見えた。黒い上着を着ている男。猫はその男とじゃれ合う。私はゆっくり近付いた。


 男が脱いだ上着はシングルのライダースジャケット。白いタンクトップに、首にはツバメ。


 足音で、気付かれるかな。私は横に立つ。前屈みになり、砂の上に置いてあるジャケットを拾った。砂を払う。


 目が合った。透き通る目。その時、風が吹く。柔らかい風。


「綺麗なツバメだな。」


 ユウスケ。


 ずっと会いたかった人。ずっと探していた目。本当は、ずっとそう思っていたことに、その風に気付かされる。私は持っていたジャケットを落としてしまった。


「そんな顔するなよ。お前に涙は似合わない。」


 私の膝も砂に落ちる。私が泣き崩れるなんて。


 そんな私を、ユウスケは抱き締めた。私は私の全てを持っていかれそうになる。私の髪をユウスケはなでた。猫をなでるように。


「…私は…猫じゃない…。」

「知ってるよ。お前はルカだ。」

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