第36話「さっさと終わらせてやるぜ!」

「さっさと終わらせてやるぜ! “神風スカートめくり”!」


 風が吹いた。


 かまいたちがトバリを襲う。トバリは魔法で迎え撃つこともせずに飛び退ってかわした。

 避けきれなかった風の刃がブレザーの肩口を切り裂く。


「”断”!」


「っ!?」


 俺の左隣に円錐状の突起物が現れた。床から生えたそれはスケッチブックを弾き飛ばす。


「あっ!」


「"暖”!」


 宙に舞ったスケッチブックが燃える。トバリはさわやかなイケ面を俺に向けた。


「封じさせてもらったよ。なにに使うつもりだったのか知らないけど、警戒するに越したことはないからね」


 この野郎。狙ってやがったな。

 俺はトバリに向かって駆け出した。


「"地獄竜の獄炎ドラゴン・ブラスト"!」


 ゴォッと音を立ててうねる炎の柱がトバリに襲いかかる。

 さっさと校章の前をどきな!


 しかしトバリは動じることもなく、


「"流"」


 水魔法で俺の炎柱を打ち消した。


「チッ……!」


 それだけでは水柱の勢いは止まらず、俺の椅子のほうに向かっていく。


「"鉄壁の守りヴァージン・ブロック”!」


 椅子の前の床がにゅっと盛りあがり壁を作る。

 進路を阻まれた水柱は飛散して消滅した。


「さすがホワイトさん。簡単には勝たせてくれそうにないね」


 トバリはにこりと笑う。余裕だな。


「トバリくんもやるじゃん」


 俺の魔法を打ち破るなんて。


「ありがとう」


 トバリは走り出す。


「"断"」


 床から伸びた円錐が俺の鉄壁の守りヴァージン・ブロックを突き破った。突起がもう一本、今度は椅子の下から生え、椅子をぶっ壊して俺の校章を弾く。


 ピンッと宙に舞ったブローチはトバリに向かって落ちていく。


「させるかっ! "パンティ・フラッシュ"!」


「くっ……!」


 カッとまばゆい光が室内を満たす。


 足を止めたトバリの前に飛び出して、俺は自分の校章をキャッチした。

 タタタッとそのまま距離をとり、壁際でトバリを振り返る。


「……参ったな。怪我はさせたくないんだけど」


 トバリは頬を掻いてから、その手のひらを差し出した。


「ブローチを渡してくれないか。頼むよ」


 優しそうな瞳がすっと細まる。


「どうしても負けられないんだ」


 今まで見たこいつの表情のなかで一番真剣な顔だった。


「……なにか事情でもあるの?」


「家庭の事情さ。……とごまかしてしまいたいところだけど、巻きこんでしまった君にはちゃんと話さないといけないね。スチュアートさんの友達の君は怒るかもしれないけれど…………実を言うと、僕はスチュアートさんのことが好きなわけじゃないんだ」


 トバリは申し訳なさそうに言った。


「じゃあ、前にエレナが好きって言ったのは嘘だったの?」


「好きだなんて一言も言ってないよ。僕はただ『結婚したい』と言っただけさ」


 ……なんだ。そうだったのか。ビビらせんなよな……ってなに安心してんだ俺は!


「恋愛対象として好きではないという意味で、もちろんクラスメートとしては好きだよ。でも、それだけだ」


「じゃあどうして……」


「お金だよ」


 へっ?

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