第7話「どうやって先生を説得したんだ?」

 手違いで書類上男の子になってたってことにしておくから、とイオリ先生に渡された女子の制服を持って、俺たちは一度男子寮に向かった。


 トランクひとつの俺の荷物を回収して、エレナがひとりで使う予定だった部屋へと戻る。

 俺はエレナと一緒にこの部屋で暮らすことになったのだ。

 イエーイ、美少女と同棲!


「エレナ、おまえどうやって先生を説得したんだ?」


 寝室にトランクを放りこんだ俺にエレナは得意げな笑みを向けた。


「これよ、これ」


 エレナは右手のひらを上に向けて親指と人差し指でわっかを作る。


「おまえ、まさか……」


「うん。買収」


 うわぁ。やっぱりセレブは考えることが違うぜ。


 俺はパソコンの前に座るエレナのお金ジェスチャーを見つめながら、高そうな革張りのソファに腰をおろした。


「い、いくら約束したんだよ?」


「秘密。聞いたらあんたびっくりするもん」


 びっくりするくらいの大金を提示したのか、こいつは。


 俺のために。


「な、なんでそんなことするんだよ? 俺のためにそうまでする必要なんて……」


「あるよ」


 エレナはきっぱりと言った。


「そうまでする必要、あるよ。だってこうなったのはあたしのせいだもん。……それに」


 水色の輝きが俺を射抜く。


「そうしなきゃ、マカゼはまたあたしの前からいなくなっちゃうでしょ?」


 まっすぐに見つめてくるエレナに、俺はなにも言えなくなる。


 エレナはうつむいてぽつぽつと話しはじめた。


「五年前にマカゼがいなくなっちゃったとき、あたしはなにもできなかった。……ずっと、それを後悔してたの。だからマカゼに再会できたら、今度は絶対にあたしがマカゼを助けるんだって、ずっと前から決めてたんだ」


 ふいと顔を背けたエレナはパソコンのマウスをカチカチやりはじめた。

 水色の髪から覗く耳が真っ赤に染まっている。


「……そのためならお小遣い二か月分くらい、どうってことないのよ」


「……小遣い二か月分か」


 大人を買収できるくらいの額を二か月でもらってるのかこいつは。

 ……なんてツッコミはさておき。


「……悪かったな、昔のことは」


「……あのときはああするしかなかったんだもんね。いいの。あたしにだってそんなことわかってる。……でも、次はなしよ」


 怒ったような赤い顔でエレナは再びこちらを見る。


「もう、あたしの前から勝手にいなくならないで」

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