第47話 パンケーキパーティー


 ジュージューとフライパンからパンケーキの焼ける音と甘い匂いがキッチンいっぱいに広がっている。


 森の緑と色とりどりの花に囲まれた庭では、スプレンドーレさんが力で出してくれたテーブルとイスにも花が飾られている。

 精霊たちは待ちきれない様子で席についていて、甘い匂いに食欲を刺激されている。フェンリルとモフモフも同じようで何度もキッチンを覗いている。


「もう少しだから待ってね」


 ふわふわのパンケーキを何段も重ねて横に生クリームをたっぷりそえるとブルーベリーや苺にキウイをトッピングする。

 最後にライスさんにもらった蜂蜜をかけて出来上がり。小さな精霊たちのパンケーキは各自取り分けてもらうように特大サイズのパンケーキを一つ作った。


 クラウスさんとアルヴィンさん、人サイズのスプレンドーレさんとクレルには一皿ずつ用意する。

 はじめて食べるフェンちゃんとモフモフには、好みがわからないので少し小さめのパンケーキを用意した。気に入ったらおかわりしてもらおう。


「よし、出来た!」


「すごく美味しそうだわ! さっそく運ぶわね」


 クレルに力を使って運んでもらうと外から精霊たちの歓声が聞こえてきた。


「きゃー! おいしそう!」

「あぁ、畑仕事頑張って良かったわ!」

「口の中でとろけるぅ」


 うんうん、喜んでもらえているようだ。

 庭に出るとクラウスさんとアルヴィンさんも食べはじめていた。


「うまい!」


「ええ、甘いのはあまり得意では無いのですが生地は甘くても添えるものが違うだけでこんなに変わるんですね。それにこのスープもとても美味しいです」


 クラウスさんは甘さたっぷりのパンケーキでアルヴィンさんにはお食事系パンケーキも一緒に出していたが、やはり甘いのよりは食べ応えのある方が好みだったようでそちらを食べていた。用意しといて良かった!


「おかわりもありますから」


 美味しいと言って食べてもらうと作りがいもある。


「ところで何故アルヴィンのだけ2種類あるんだ。ずるいぞ俺も食べたい」


「ワシもじゃ。こやつは甘い方のパンケーキとやらをおかわりだそうじゃ」


 クラウスさんの後ろからフェンちゃんがのそのそとモフモフを背中に乗せておかわりにきた。


「ずるいってなんですか。作ってくるので待ってて下さい。フェンちゃんとモフモフも待っててね」


「俺だけ扱いが雑じゃないか?」とクラウスさんが言っているが気のせいだろう。たぶん。

 キッチンへ戻ると最初にモフモフ用のパンケーキから作る。

 次にお食事パンケーキだ。厚切りベーコンをこんがりと焼いていく。その間に卵をボウルに割り入れ黄身と白身を溶きほぐして、残っていた生クリームと塩をひとつまみ入れてからよく混ぜてる。

 混ざったらフライパンにバターを入れて木べらで溶かしていく。


 そろそろいいかな? 


 卵をフライパンに流し込んで外側から内側に木べらを動かしながら半熟になるところで火を止める。

 あとは余熱で少し温めている間にベーコンをお皿に乗せてっと……よし、卵もふわふわでいい感じになってる。

 野菜も添えてお食事パンケーキの盛り付けが終わる頃、アルヴィンさんがキッチンにやってきた。


「リゼさん」


「どうしました? もしかしてクラウスさん待ってます?」


「いえ、手伝いに来たのですが遅かったみたいですね。クラウス様はフェンリルと話しているので大丈夫ですよ」


 フェンちゃんにモフモフが聖獣化した理由をクラウスさんとアルヴィンさんに話してもらったのだ。

 クラウスさんは頭を抱えてアルヴィンさんは興味深く聞いていた。

 聖獣を縛ることは出来ないからと、モフモフが望むなら森で暮らす方がいいと2人とも言ってくれた。

 それに森には聖域に近い澄んだ魔力が満ちているので、精霊と同じように聖獣や魔力持ちには心地いいらしい。


「クラウスさんフェンちゃんに興味津々ですもんね」


「そうですね、フェンリルは伝説上の生き物でしたしフェリクス国の象徴ですから。機会があれば私も1度ゆっくりお話ししたいです」


 ――そういえばアルヴィンさんフェンちゃんが存在してる事に驚いてたよね。


「フェンリルには諸説あるんですが、1番有力なのが二百年前に何らかの原因で死んでしまったというものです。その頃からフェリクス一帯の大地の守りが弱くなったので。ただ、一部学者の間ではそもそも存在しないのではないかとも言われてました。フェリクスという国を作るときに箔をつける為におとぎ話のフェンリルを持ちだしたのではないかと」


「そうなんですね、知りませんでした」


「王都の人たちも国の守護神くらいの認識です。詳しく調べるのは学者くらいですね」


 フェンちゃんについて話すアルヴィンさんは嬉しそうだ。表情にはあまり現れてないけれど、いつものクールな眼差しではなく眼鏡の奥の目からワクワクが伝わってくる。

 アルヴィンさんの目の色ってなんだか落ち着くなぁ。吸い込まれそうなダークブラウンの瞳を見ていると足元に小さな衝撃がした。


「きゅっ」


 鳴き声と一緒に足元にポンっとジャンプしてきたモフモフが両手で足を引っかいてきた。あ! 料理忘れてた。


「モフモフごめんね、すぐ持ってくね」


「すいません、話過ぎてしまいましたね。料理は私が運ぶのでリゼさんは少し休んでてください」


 アルヴィンさんはそういうとモフモフを連れて行ってしまった。


 んーーーー!!

 お言葉に甘えて少し休憩しようかな。あ、その前に里のお土産用パンケーキも作っておかなきゃ。体を伸ばしてパンパンになった腕をほぐしてから最後に特大のパンケーキを作った。残ったフルーツも全部のせたのでかなり豪華に見える。


「これだけあれば足りるよね。そろそろみんな食べ終わった頃かな」


 庭に出ると精霊たちに囲まれた。みんな目をキラキラさせながらふわふわと飛んでいる。


「ありがとう! すごく美味しかったわ」「いつでもお手伝いするからね!」

「またねー!!」


 どうやら精霊たちは帰るようだ。お茶を飲んでからでもと誘ったけれど、里の精霊たちも待っているし十分満足したからと断られた。


「こちらこそ畑のお世話ありがとうございました。また遊びに来てくださいね。お土産のパンケーキも用意しているので里のみんなで食べてください」


 精霊たちはお土産用に作った豪華バージョンのパンケーキを見て、またテンションが上がっていた。


「リゼさん、今日はすごく楽しかったわ。ありがとう。お土産もいただいて帰るわね。クレルまた来ますね」


「はい、お母様」


 にっこり笑ってスプレンドーレさんが力を使うとキラキラと光が舞って精霊たちは里に帰っていった。

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