第81話 まどろみから急変

森の匂いがする。

俺の身体を包むように清涼感に溢れる森の匂いが香っているようだ。


その匂いがまどろみの中から俺を目覚めさせて行く。

ゆっくりと意識が覚醒すれば、なぜか目の前には女の胸がある。


そこにあるのは、白磁のように透き通るような透明感を持った白い肌でありながら、マシュマロのように柔らかに見える双丘だった。

その芸術的な美しさを持つ双丘が女の呼吸と共にたゆりと上下して俺の目をくぎ付けにする。


更には双丘の頂では色素の薄くほのかなピンク色に色づく乳首と乳輪が双丘と共に悩ましげに揺れているのが判る。


それを見て俺の頭に言葉にならない何かが浮かぶ。

暫く思い悩むと言葉が湧いてくる。

ああそうだ、儚げに咲く桜の花びらの色だ。


その桜の花びらを思わせるピンクの乳首と乳輪が白く透き通る胸を上品に彩っているのだ。


俺は恐る恐るその双丘に手を伸ばす。


「あんっ」


かわいらしい声が漏れるが、双丘の持ち主は眠りの中にまだいるようだ。

俺は無遠慮にその胸を掴むと頂を口に含む。


「もう、オイゲンったら」


美しい双丘の持ち主であるサミーが目を覚ましたようだ。


「オイゲンは私の胸がそんなに好きなのか」


サミーの奴、決まりきったことを聞くな。


「こ、こら、強い、強いから」


俺はそんなサミーの声を無視するようにサミーの乳房を貪り続ける。

エルフって不思議な種族だよな。

サミーの身体から匂い立つ森の匂いが強くなる。

この匂いでエルフのオスはいきり立つのだろうか?


それにしてもおかしなことだ。

サミーから森の香りを感じるなんて今まで無かったのに。


そんな事を考えながらサミーの乳首を甘噛みする。


「あ、ああ、あ、あああ」


俺を抱え込むサミーの腕の力が強くなる

むせ返るような森の香りの中、サミーの胸が光り、そして俺の手の先にポーションが現れる。


そして森の香りが象徴するように現れたポーションは状態異常を解消し心を落ち着かせる機能を持つポーションだった。


ルーミスとの一件で俺が作り出すポーションは女の持つ五感に強く影響を受ける様になったのだろうか?


そんな事を考えながらサミーの柔らかな笑顔を見つめていると森の香りが消え去って行き、オスを誘惑するメスの香りが俺を包みだす。


その獣臭い香りはさながら香水に使われるムスクの様だ。

異性を誘惑する力に長けているムスクの香り。


その香りが森の香りを放逐して代わりに俺を包み込む。


「主様...」


背中を強く銀が抱きしめてくる。

銀の八重歯が俺の首筋を甘噛みする。


「主様、次は銀のお胸をご堪能ください」


そう言いながら銀は強引に俺の向きを変えさせて俺を抱え込む。


「ぎ、銀、苦しいよ」


「うふふふ、サミーの香りを銀の香りに書き換えるためです、我慢してくださいませ」


銀は腕の力を緩めるどころかより強く俺を抱きしめる。

ライトブラウン、いや薄いきつね色の肌だ。

それが俺の視界を塞ぐ。


「銀、オイゲンが苦しそうだぞ」


「さあ、主様、銀のおっぱいも愛でてください」


サミーの苦言などどこ吹く風で銀は俺に強請ってくる。

銀の双丘の頂にある乳首が痛いほどに勃起しているのは俺に含まれるのを待ちわびていたせいだろう。


「主様、さあ、早く」


銀の獣の匂いが強くなる。

それはサミーの香りとは違い、オスの俺を高ぶらせる匂いだ。


「ひゃ、ひゃあああ」


銀、お前が悪いんだからな、俺を焚きつけたんだから。


銀の乳首を歯で咥え込んでその乳首を強く吸い尽くす。

ぷっくらと膨らむ乳首はすぐに乳を吹き出し始める。


「主様、主様、銀の乳は美味しいですか」


銀の自分が乳を噴き出しているのを判っている様だ。

俺は銀の乳を貪りながら、これは乳なのか、それとも銀の魔力なのかなどとつまらないことを考えている。


その間も銀の乳首からは乳は噴き出し続け、俺を包む銀の獣臭が俺のオスを搦めとってゆく。


「主様、主様、主様、主様、あ、あ、あ、あ、あああ」


むわっとした銀の獣臭がムスクのような香りに昇華して銀をエキゾチックに彩り始める。

俺はそんな銀に魅了されてゆく。


銀の胸が光り、そして俺の手の先にポーションが現れる。

そこに現れたポーションは男女を問わずに相手を魅了する機能があるようだ。


どうしよう、俺はもお普通のポーションを作れないんだろうか?

これは確かめないと不味いんじゃないかと思うんだが、今はそんな余裕はない。


「オイゲン様、朝ですよ、起きましょう」


リンの声がドアの外から聞こえてきて俺達を現実に引き戻す。

恐る恐るドアを開けると不機嫌なリンの顔がある。


「も~、朝から何をしてるんですか」


声が漏れてたんだな、リンはお怒りの様だ。


「なにって、ポーションを作ってただけじゃん」


俺がそう抗弁してもリンはちっとも納得しない。


部屋でせめぎ合うサミーと銀の匂い、それに散々な状況のベッドが俺の反論を封殺するのだ。


まあ、『昨晩はお楽しみでしたね』って言われる状況だね。




☆☆☆☆☆




朝の甘い雰囲気を捨て去って俺は今、俺達を襲った賊達の前で仁王立ちしている。


「ほら、起きるんだ」


荒々しく賊達を起こして、賊達が奴隷の運搬用にと用意した馬車に放り込む。


檻で出来た馬車は賊の運搬用にあつらえたみたいだな。


「主様、どこに運ぶのですか」


「ああ、取り敢えずは商業ギルドかな?

商業ギルドのハーツさんの勧めで買った奴隷達のせいで賊が来たのだからな。

賊の後始末に付き合ってもらうつもりだ」


「さすが、オイゲンだ、押し付けるには一番適した相手だな」


俺の意図を察したのだろう。

サミーが悪人面で俺に声をかける。


「押し付けるとは失礼な。

俺の手には負えないからな、対処が可能か所に持っていくだけだ。

さあ、いくぞ」


馬車は商業ギルドに向かって動き出す。

まだ早い時間だから人通りは少ないが、檻の馬車は目立つのだ。

通行人が結構覗き込んでくる。


「馬鹿やろう、見るんじゃねえ」


賊の一人が叫んでいる。

恥ずかしがるなら、人の家に押し入った事を恥じて欲しいものだ。

それにしてもこいつは元気だな。

他の奴は俺達が与えた怪我のせいで口を開く元気も無いんだがな。


さてと、商業ギルドについた様だ。


「銀とサミーは馬車を見ていてくれるか

俺はハーツさんと話を付けてくる」


俺とリンは馬車を降りて商業ギルドに向かう。

馬車の周りには少しずつ檻の中を覗き込み物見高い通行人が増えている。

良い感じだな。


商業ギルドの中は早い時間の割に人が多く込み合っている。

そんな中で手の空いている職員を見つけたのでハーツさんを呼び出してもらおうかと声を掛けようとする。


「オイゲン様」


おや、呼び出すまでも無いようだ。

ハーツさんが俺を呼ぶ声が聞こえる。


「ハーツさん、おはようございます」


挨拶をしながらハーツさんを見ると小走りでこちらに近づいてくる。


「はっ、はっ、はっ、オイゲン様、外の馬車はオイゲン様が持ち込まれたのですか」


そうか、馬車を見て急いできてくれたのか。


「ええ、私が持ち込みました。

もっとも馬車は私の物ではありませんよ。

我が家を襲った賊が持ち込んだのです。

どうやら、我が家の奴隷達をあの馬車で運ぶつもりだったようですね」


俺の言葉で顔色を変えるが、それほどは驚いてないな。

まあ、あの馬車を見ればある程度は想像がついたのだろう。


「それは...なんという事を。

それで、皆さまご無事でしたのですね」


「ええ、なんとか撃退しました。

一応、襲ってきた賊は全員捕らえたのですが」


俺は困った顔をしてハーツさんを見つめる。

ハーツさんもそんな俺の顔をだまってみている。

ここは声を出した方が負けだな。

「後始末にお困りですか」


沈黙に耐え切れずハーツさんが声をあげてしまう。

こう言うしかないよね。

さすがハーツさん、良く判っている。


「ええ、殺してしまえば面倒は無かったのですが、そうもいきませんしね」


「はははは、確かに。

それでオイゲン様はこの件をどのように扱われたいのでしょうか」


うん、良い質問だ。

俺はこんなことで騒ぎたくは無いんだよね。


「そうですね、私としては面倒ごとは避けたいと思っています。

ただ、繰り返し襲われるのも困りますし

どうも、女子供しか屋敷にいないと思われて舐められたようですから。

そこは正しませんと、これからも勘違いした賊に襲われそうですよね」


「さようですね、それであのように目立つもので賊を運ばれたのですね」


そうだな、ハーツさんが走り寄ってくるくらいには目立ってたな。


「ええ、我が家を襲う者がどうなるか、広く知らしめたいと思いました」


「それでは、賊は当ギルドでお預かりして、それと警備の者を雇われませんか?

そちらも当ギルドでご紹介できると思います」


「それはありがたいお話ですね」


そして、俺は賊をハーツさんに引き渡すことにする。

警備の件は候補者が見つかったら連絡を貰う事にした。


「それではオイゲン様、急いで警備の候補者を探しますので暫しお待ちください」


「そうですね、よろしくお願いします。

まあ、馬車の周りの様子を見る限り直ぐに我が家を襲おうなんて企む愚か者は出ないと思いますがね」


外の馬車を見れば周りに結構な人だかりがあり、口々に中にいる男達を囃し立てている。

それに対して檻の中の男も馬車の周りの群衆を脅すように唸っている。


俺達が商業ギルドの建物から外に出ると『ザワッ』と音がして俺達の前にいた男達が道を開ける。


どうやら、俺を少しは恐ろしいと思ってくれたようだ。

俺は自分の企てが上手く言ったのに気を良くして屋敷へと帰り着いた。


「なあ、オイゲン、屋敷の守りを固めるのは急務なんじゃないか」


屋敷に着くとサミーが心配げな顔で話しかけてくる。


「そうだな、ハーツさんが警備の人間を紹介してくれるまでこのままと言う訳にもいかないしな。

仕方ない、区切りも付いたし、一度戻って薔薇の騎士を何人か連れてくるか」


俺は亜空間倉庫を通って家に一度戻ることにする。




☆☆☆☆☆



亜空間倉庫を抜けてたどり着いて家はなにか様子がおかしい。

俺の顔を見た屋敷の使用人が慌てて走り去ってゆく。


俺って嫌われてか?


バカなことを考えていると母さまが俺に向かって走り寄ってくる。

えっ、あの母さまが走るなんて。


驚いて母さまを見つめていると、母さまの口からはもっと驚く言葉が紡ぎ出される。


「オイゲン、良く帰ってくれました。

旦那様が出兵されたのです。

母はとても心細くて、怖くて。

ああ、神様ありがとうございます。

オイゲンを私の元に使わせてくださったのですね」


はっ、今なんと?


「父さま、父さまが出兵された、母さまそうおっしゃったのですか」


俺の言葉に涙顔でうなずくしかない母さま。


王国も覚悟を決めたのか?

帝国との戦争が始まるのか??


俺は事態の急変をまだ受け止め切れずにフリーズしてしまう。

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