第58話 帰宅
破棄奴隷の購入も2度目となれば手慣れた物だ。
今回は馬車も領地から持ってきたので、奴隷を包む毛布や服、汎用の怪我回復ポーションなど必要な物は全部準備できている。
朝、宿で朝食を終えると奴隷商の館に向かう。
サミーだけは朝食を取っていないけどね。
昨夜のお楽しみが過ぎて起きられなくなったみたいだ。
サミーに集団行動はちゃんと守らないととダメだと言ったらジトメで見られたよ。
誰のせいだと怒られたので、望んだのはサミーだろうと返しておいた。
奴隷商も心得たもので、館に着くと書類の準備も奴隷の運び出しの準備も終わっている。
俺が書類を確認してサインをし、支払いを済ませた時には奴隷の積み込みも終わっていた。
汎用のポーションもなんとか飲ませたので死ぬ様な事もないだろう。
そして人気のない早朝にオーランドの門を抜ける。
前回同様にひどい有様で毛布に包まれただけの女を積み込んだ馬車なので門番には怪しまれたが書類を見せると納得してくれた。
「そう言えば2回目じゃないか。
でも、坊主はもっとチビだった様な気がするがな?
それにしても、球技大会の的に人を使うとは随分と斬新な大会だな」
書類の購入目的を読んだんだね。
破棄奴隷なんて普通は買わないからね。
矢の的とか、考えてみると随分とひどい話だ。
でも、帝国の兵士を的にすると言うと購入目的が納得されるのはどうなんだろう?
それだけ、帝国兵士への憎しみが強いと言う事なんだろうね。
そして無事街道に出ると前回と同様に脇道に逸れる。
そして目的地の広場に到着する。
ここで治療をする予定だったんだよね。
さてと、シャロンに秘密を明かさないとね。
「シャロン、予定ではここで治療を行うはずだったけど変更してこのまま領地まで帰りたいんだ」
「このまま領地に帰るのか?
でも、こいつらは治療をしないと領地に着くまでに死んじまうぞ。
それともこいつらを諦めてまで急いで領地に帰る必要が出来たのか」
「いや、奴隷達は殺さないよ。
治療を領地に帰ってから行うだけさ」
「でも、5日も馬車に揺られたらこいつらは死ぬだろう」
シャロンの言うことはもっともだね。
5日も馬車に揺られたら奴隷達は死ぬしかないだろう。
「まあ、見てくれよ」
俺はそう言うと亜空間倉庫の扉を出現させる。
「な、なんだよ、これ」
シャロンは目の前にいきなり現れた扉に驚いている。
「なんで、こんな所に扉があるんだよ?
おい、裏に廻ったら消えちまったぞ」
流石はシャロン、ただ驚くんじゃなくて確認の為に扉の周りを一回りしたんだ。
でも俺も知らなかったよ。
裏に廻ると見えなくなるんだ。
「シャロン、こいつの無理に理解しようとしても無駄だと思うぞ。
人智を超えた存在からもらった物だからな。
俺達はこれが便利な物だと知り、利用するだけで充分だ」
そして俺は扉を開ける。
「さあ、進むぞ」
それにしても便利な物だ。
どんな理屈なんだろう?
俺達が馬車を使っていると馬車が通れる大きさの扉が現れるんだからな。
俺が率先して入ったのでみんなも及び腰ながらついて来る。
全員が中に入ったのを確認して俺は一旦扉を閉めると再び開ける。
「さあ、出るぞ」
「えっ、出るのか」
シャロンが訝しげに聞いてくる。
そりゃそうだよな。
入ってすぐに出るって意味が分からないだろう。
でも俺が出たのでシャロン達みんなも扉の外に出る。
「うへ、お、おい、オイゲンここって」
流石はシャロンここの場所が直ぐに分かった様だ。
「シャロン、流石だね、この先の角を曲がれば直ぐに我が家だ」
「いや、嘘だろう?
でもオイゲンの言う通りの場所にしか思えないんだよな」
「ほら、進むぞ、あの角を曲がればここがどこかは嫌でも分かるんだから」
「ああ」
惚けた様な声でシャロンは振り返り扉を確認しようとしているがそれは既に消えている。
「扉、扉を抜けたはずなのに!
本当にどうなってるんだ?」
そして角を曲がれば我が家が見えてくる。
「本当だ、本当に一瞬んで帰って来たんだ」
「シャロン、判ってると思うがこの件は他言無用だぞ」
「ああ、最も言ったって誰も信じ無いけどな。
でも口止めは俺だけで良いのか?
まあ、薔薇の騎士達や銀やサミーがお前の秘密を他人に話すわけもないか」
「シャロンはよく判ってるね、俺は友人達に恵まれてるんだ」
「友人ねえ、愛人の間違えじゃ無いのか?」
「シャロン、8歳の子供相手の何を言ってるんだよ」
「8歳ねえ、見た目は12歳だし目を瞑って話せば大人と話してるとしか思えないけどな」
「神子様、お帰りなさい」
俺たちの姿を見つけた居残り組の薔薇の騎士達が走り寄ってくる。
「オイゲン様、そのお姿は?」
マリーの声だ。
そう言えばマリーにはまだこの姿を見せていなかったな。
「ああ、色々とあって身体が少し大きくなった」
「色々ですか」
何故かジト目でマリーは俺を見ている。
「あんまりです、折角オイゲン様と同じ年頃になれたのに、オイゲン様だけ成長してマリーは置いてきぼりです」
そうだったな、マリーは俺と同じ年頃になれて凄く喜んでいたっけ。
「マリー、年上の男は嫌いか」
「そんな....年上のオイゲン様も素敵です。
結婚するなら年上ですしね。
ひゃあ、結婚だなんて。
えへへへ、年上のオイゲン様も素敵です」
チョロイ、チョロイぞマリー。
目にハートが見える様だ。
「さあ、馬車にいる女達を運んでくれ」
そんな俺達を尻目にシャロンは指示をテキパキと出してくれる。
そして、事前に準備済みの部屋に奴隷達が連れられて行く。
「オイゲン様、今回の奴隷も……」
「ああ、帝国の兵士だ」
「そうですか、何故にあの様な無残な姿に……」
「すまんなマリー、王国の貴族のせいだ
悔しい事に下衆な貴族が多すぎる」
「そんな、オイゲン様が謝る必要はありませんは。
私達と同じようにあの子達もオイゲン様が救ってくださるのでしょう」
「身体は俺の力でなんとかするが心のケアはマリー達に助けてもらう必要があるがな」
「それは、私達で出来ることは致しますが、何処まで出来る事か?
ゴブリンに孕まされた女達の心のケアにも難儀していますし」
「そうか、腹の子はどうなった」
「みな生み落としました。
母体はみな無事ですし、生まれたゴブリンの子も私達の手で処分済みです」
「そうか」
「ゴブリンの子を産んだ事など知りたくは無いだろうと見せずに処分しましたがそれでも自分が産んだ子です。
おっぱいが張り乳が滲み出るのに与える子が居ないので悲しそうなしています」
それでもゴブリンの子はゴブリンだ、人に懐くことはない。
下手をすればゴブリンを産んだ母体が食い殺されかねない。
それがゴブリンだ。
「幸い、帝国軍で私達とは面識がありましたので懐いてはくれています。
ゴブリンの習性も分かっているので頭では納得もしてくれています」
「そうか、異国の地では知り合いがいるだけで心強い物だからな。
面倒を頼むよ」
「はい、それはもちろんの事です」
「神子様、馬車のみなは部屋に移し終えました」
リンが報告に来てくれた。
「そうか、ありがとう。
では馬車をしまったら今回のミッションは終了だ。
みな、良くやってくれた」
終了と言っても取り敢えずだけどな。
身体を治さないといけない娘達が随分といるし、龍からもらった恩恵の件も急ぎ父さまと母さまに話さないといけないしな。
やる事はいっぱいある。
でもまずは少し休憩がしたい。
「オイゲン、貴方オイゲンよね、なんで大きくなってるの」
ああ、母さまの声だ。
随分と驚いている。
どうやら休む暇はなさそうだな。
「母さま、私は勿論オイゲンです。
色々とあって身体が少し大きくなりました」
「まあ、オイゲン、何を言っているの?
それが少しなわけは無いでしょう。
そんなに大きくなって、もう抱き上げる事もできないじゃ無い」
「母さま、申し訳ありません。
でも、望んで大きくなった訳では無いのです。
勝手に大きくされたのです」
「ほう、それは聞き捨てならんな。
どいつが勝手にオイゲンを大きくしたんだ」
「あら、貴方、お仕事はよろしいのですか」
「オイゲンが帰ってきたんだ、仕事どころでは無いわ」
「父さま、ただいま戻りました」
「ああ、よく無事に戻った、と言いたい所だが無事なのか?」
「はい、大きくなったのは呪いの類ではありません、むしろ祝福なのです」
「祝福だと、誰の祝福なんだ」
「その件につきましてお話を差し上げたいので居間に行きませんか」
☆☆☆☆☆☆
父さまと母さま、俺、銀、サミーの5人で居間のソファーに座っている。
「皆様、お茶をどうぞ」
メイドのリリーがお茶を用意してくれた。
そしてそのまま壁際で控えている。
リリーも俺がなんで急に大きくなったか知りたいのだろう。
「父さま、これをご覧ください」
俺は事前に用意しておいた龍のウロコを父さまに見せる。
「これは、龍のウロコではないか、だがそれにしては」
「ええ、いくらなんでも大きすぎますわ」
「父さま、母さま、これは黒龍と言う古龍のウロコです」
「名持ちの古龍のウロコ、そんな物をどうやって手に入れたのだ」
「この龍は寿命が尽きようとしていました。
でも、龍にはやらなければならない事があったのです。
その使命を引き継ぐ代わりに得たものの一部です」
「龍から引き継いだ使命?
それは大変な物を引き継いだな」
「はい、龍の卵を2つ引き継ぎました。
この卵を無事に孵して次世代の龍を育てなければなりません」
「龍の卵か、そのような貴重な物、そもそもどうすれば孵るのかオイゲンには手立てがあるのか」
「はい、こちらをご覧ください」
そう言って俺は亜空間倉庫の扉を出現させ、扉を開ける。
「父さま、母さま、見ていただくのが一番早いと思います。
どうぞ中へお越し下さい」
そう言って俺は2人を亜空間倉庫の中に招き入れるのだった。
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