第8話


「きょ、協力……してくれるのですか?」

「そんなに驚くことか?」

「……だって、私たちは何もあなたに恩返しができていません。助けられてばかりですよ?」

「……」


 別に、情報という貴重なものをいくつももらっている。

 それに……これまでこうして誰とも話はできなかったからな。

 誰かと話ができるということだけでも、なんだろうか……救われた気がしていた。


「しばらくは、ここで生活させてくれるんだろ?」

「……は、はいそうですね」

「俺にとっては、それだけで十分満足なんだよ」


 俺が言うと、ゴブリンクイーンはぎゅっと唇を噛んだ。

 それから、ぺこりと頭を下げた。


「ありがとう、ございます。」

「頭を下げないでくれ……俺は困っている友人を助けたい、それだけだ」

「……友人、ですか」


 ゴブリンクイーンが頭をあげる。

 そんな彼女の目を見てから、俺は背後にいたゴブリンたちを見る。


「俺は王にはならない。けど……ここにいるゴブリンたちはもう俺の友人だ。友人が困っているなら、手を貸す。当然じゃないか?」


 俺が言うと、ダクルトたちは顔を緩めた。

 ……改めてゴブリンクイーンを見る。

 俺の気持ちが伝わったようで、彼女は穏やかな笑みとともに頭をさげた。


「ありがとうございます。何かあれば、いつでもおっしゃってくださいね」

「そうだ。それなら、一つだけ頼みたいことがある」

「はい、なんでしょうか?」

「……木材を集めてくれないか? 俺は木材があればスキルで家が作れるんだ」

「えっ? そうなのですか?」

「ああ。だから俺が暮らすための家を造りたい。まあ、木材を大量に集めてくれるなら、ゴブリンたちの家も造ってみるが」


 俺の言葉に反応したのはダクルトだった。


「……ほ、本当か!? クレスト、造ってくれ!」

「こ、こら……っ! 失礼ですよ……っ」


 ゴブリンクイーンが注意をするが、他のゴブリンたちも期待するようにこちらを見てくる。

 ゴブリンクイーンはそれらの視線を受け、小さく息を吐いた。


「……クレスト様、お願いできますか?」

「ああ、任せてくれ。ここも造りなおす。そのためにも、大量の木材を用意しておいてくれ」

「クレスト様はどこに行かれるのですか?」

「少し南に戻って、ファングシープを狩ってくる。アレが、ベッドの素材になるからな」

「……なるほど。分かりました、お気をつけてください」

「ああ。そっちも無理するなよ。まだ病み上がりなんだから」

「気遣っていただき、ありがとうございます」


 ゴブリンクイーンが嬉しそうに頬を緩めた。

 外で待っていたゴブリア、ルフナと合流し、俺はファングシープ狩りへと向かった。

 


 〇



 戻ってくると大量の木材があった。

 ……ゴブリンたち、滅茶苦茶頑張ったようだな。


「クレスト、これだけあれば足りるか?」

「……ああ、恐らくな」

 

 まずは俺が自分の家を造る。

 村の端っこで良いといったのだが、場所はゴブリンクイーンの家とかなり近い場所になった。

 ゴブリンたちなりに、俺を特別扱いしてくれているということのようだ。


「す、すっげぇ……家が本当に一瞬でできたよ……」

「マジかよ……オレたちが一生懸命造っていたのはなんだってんだよ」

「オレたちが何日もかけて造ったのよりも、造りもめちゃくちゃいいじゃねぇか……」


 ゴブリンたちがそろって驚いている。

 俺はそれから、残りの木材で家を造っていく。

 ゴブリンたちがまとめて暮らせるよう、宿のような複数の部屋がある家を建ててみた。

 ……結構木材は消費したが、それでもそれを二つほど用意すると、ゴブリンたちだけでは余るほどの部屋が用意できた。


「わ、私の家は別に……」

 

 ゴブリンクイーンは謙虚なのか、俺の手間になると断っていたが……まあ、ここまで来たのだから作らせてもらった。


「元の家より、少し小さくなってしまったかもしれないけど……そこはごめん」


 さすがに俺のレベルが低いため、あまり大きなものは作れない。

 それでも、この村で一番のサイズの家になるようにはした。

 ゴブリンクイーンはぶんぶんと首を振る。


「そんなことありません……っ。造って頂いて……それだけでとても嬉しいです」

「……そういってもらって助かった。ちょっと不安だったからな」


 俺が微笑むと、ゴブリンクイーンは頬を僅かに染めてうつむいた。

 ……さて、これで家の準備は終わりだ。

 集めまくったファングシープの羊毛を使い、ベッドを作製していく。


 ゴブリンは全部で三十体いる。それらが寝れるだけのベッドを各部屋に用意していった。

 そうこうしていると、陽が傾いてきてしまった。


「また、細かい家具は今度で良いか?」

「は、はい……というかそこまでしていただかなくても」

「そう遠慮しないでくれ。俺がやりたくてやっている部分もあるしな」


 ゴブリンクイーンは俺の作業にずっと付きあってくれた。

 ……常に微笑み、ゴブリンたちに声をかけている。

 彼女がどうしてこのゴブリンたちの女王として君臨しているのか、その意味が分かった気がする。


「本当に凄いのですねクレスト様は……」

「いや、俺よりもゴブリンクイーンだ。俺は、こんなにたくさんの人の上になんて立てる気がしないな」

「……それは、別に凄いことではありません。クレスト様でもきっとできますよ」


 いや……絶対無理だな。

 そんなことを話していると、村の中央から良い匂いが漂ってきた。


「料理か?」

「はい。今日はクレスト様が用意してくれたお鍋と調味料のおかげもあって、料理担当のゴブリンがとてもやる気に満ちていましたよ」


 そういった後、ゴブリンクイーンは俺の手をじっと見てから、ぎゅっと握ってきた。

 柔らかい感触だ。人間とまったく同じだ。


「い、行きましょう?」

「……そうだな」


 ゴブリンクイーンに連れられるままに、俺は村の中央へと移動した。

 ……ちょっとだけ不安なのは、ゴブリンと人間の味覚が同じなのかどうかというところだな。

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