第16話 セリア
Andrias Bartlettというアーティストの「It's a dream?」という曲を聴きながらどうぞ。
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『なぁ、セリア。セリアってこれからやりたいこととか、夢ってあるのか?』
夜、寝付く前にあの人は私に聞いてきた。彼、テイルに出会ってからまだ3日しか経っていない。それなのに、一緒にいる時間が私の今までの人生を必死に埋め尽くそうとするかのごとく、濃く感じられた。私は物心ついたころから村にいて、村長の娘として育てられた。
父は母の話をしたことがない。私は不思議と話をしようと思ったことがない。それなのに、テイルと村を出た時から、気になり始めた。私は今まで何のために生きていたのか、という疑問も、テイルの問いかけではっとした。私はなんのために生きているのだろう?
物心ついてからは、村長の家に来る村の外の人に『はじまりの精霊の冠』を買ってきて欲しいとお使いを頼んだ。そう頼むように教えられたからだ。断られたり、聞いてなかったり、買いに行っても作ってるらしいおじさんの謎掛けに答えられず、今まで誰も買ってこれなかった。
彼は、テイルは買ってきた。彼が家を出てからどれくらい経っただろう。きっと今回の人も買ってこれないのだろうと、私はただただぼうっとそこに立ちすくんでいた。気がついたら、彼が戻ってきて『はじまりの精霊の冠』を買ってきたのだ。
その日の夕方、ふと村の外へ出たくなった。そうしたらテイルがいた。彼も冒険者だ。きっと穴を掘って経験値を貯めていたんだろう。突然、テイルは指輪をくれた。何故?何故と思ったけど受け取った。そうするものだと思ったから。
その晩、ひどく怖くなった。何か色々なことが、目に見えない怖さがあって、彼が泊まる宿へおしかけた。
付き合っているわけでもない、年頃の男女がベッドを共にするのは良くないらしい。彼は必死にそう言っていた。私が諦めようとしたその時、彼もまた突然に私を追い出すのを諦めた。そうして眠りに落ち、『精霊祭』の日を迎えた。
ひどく眠気が取れなかった私は家に帰ってから昼寝をして、寝坊をした。慌てて教会に行き、アドリブでお祈りをした。お祈りの姿勢も昼寝する前にふと思いついたものだ。そうして『私の役目』を終えた後、出口に向かった時―― 白い世界に居た。
『あなたはテイルと冒険に行くのでしゅ…こほん…ですよ』
(あ、かんだ)
『かんでましぇ…せんよ』
私は目の前にいる女性が女神様だと思った。思ったけど、どうしても言いたいことがあったので、聞いてみた。
「精霊様ではないのですか」
『女神です』
「『はじまりの精霊の冠』を身に着けて行った『精霊祭』なのに、出てくるのは女神様なのですか」
『そういうものです』
「そうですか」
私は『物分りがいい』。そういうものだと言われたら、そういうものなのだ。いや、決して騙されやすいわけではない。いつだか父が『こどもにみせられないよ』って書かれた本をこっそり読んでるところに鉢合わせたことがある。女性のきれいな写真集だった。
父は『これは善良な魔法使いになるための本なのだ。そういうものなのだ』と言っていた。父の頭をフライパンでひっぱたいて『クリティカル 30のダメージ』と表示を確認したあと、本はその日の夕食に種火として有効活用した。
『物分りの良いセリアよ、テイルと共に旅をし、この
「あ、この世界、トラスタって言うんですか」
『…はい。では、いきなさい』
「ありがとうございm…『目覚めよ!』」
―― ドサリ。
目が覚めるとテイルに介抱されていた。それから、私は彼と一緒に旅に出ることにしたのだ。女神様に言われちゃぁしょうがない。しょうがない。それにわくわくしていた。『はじめての精霊の冠』をもらった時から、私の世界は少し明るくなった気がしたのだ。物心ついた頃、以来の何か不思議な感じだ。
夢…私の夢。やりたいこと。わからないけど、旅しながら探してみよう。
「私はあなたと旅に、冒険をしていたい」
結局、彼に聞かれて何も答えられなかった私は、今寝息を立てている彼に、答えになってない答えを伝える。あぁ、この人毎晩よだれ垂らすタイプだな。仕方のない人だ。
楽しい人生を、送りたいな。
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