第五十二話 ポメラの成長

 ポメラとの修行を始めてから、一週間が経過した。

 魔物狩りと魔法修行を交互に繰り返し、彼女のレベルは38へと達していた。


 白魔法の技量的な面に関しては、ポメラは既に俺を上回っていた。

 もっと熟達させて、俺にわかりやすく教えてもらおうかと密かに企てている。


 その日、俺とポメラは森浅くへ魔物狩りに向かい、予想外に早く目標に達したのでまだ日が昇りきるよりも先に冒険者ギルドへと帰還していた。


「まさか……こんなポメラが、レベル40近くになれる日が来るなんて、思ってもみませんでした。今なら、ロイさん達も、ポメラと対等なお友達になってくれるでしょうか?」


 受付の列に並んでいる最中、ポメラが嬉しそうにそう口にしていた。

 ただ、俺は、そのポメラのレベルについて悩んでいることがあった。


「おかしい……ルナエールさんに俺が修行をつけてもらっていたときは、一週間でレベル100へと引き上げてくれていたはずなのに、その半分にも到達していない。そればかりか、どんどん効率も落ちてきている……」


 俺のやり方が悪いのだろうか。

 霊薬の消耗ばかり激しくなってきている。


 そろそろ霊薬の残り本数も厳しくなってきたので、ルナエール製には劣るだろうが俺も作ろうと試みてみたのだが、全く材料が揃わなかった。

 手に入るものから作る術を模索しているが、ちょっと時間と開発費が掛かりそうだ。

 錬金術は伸ばしておいた方がいいと、ルナエールからそう言われた意味をようやくここに来て痛感し始めていた。 


 なんというか、良かれと思って俺の考えた修行内容の部分が全て裏目に出ている気がする。

 かといって俺のできることとルナエールのできることは違うし、《地獄の穴コキュートス》とここの環境も全く異なる。

 俺とポメラの戦い方も同じではない。

 ルナエールが俺に課してくれた修行法を完全に模倣することはできないのだ。


 俺なんかに、ルナエールほど上手くやれるとは端から思っていない。

 しかし、ポメラはそんな俺を信じて頼ってくれたのだ。

 彼女の夢の手助けにはなってあげたい。

 だが、俺のやり方では、これ以上ポメラを強くしてあげることはできないかもしれない。


「カナタさん、何を悩んでいるのですか……? 一週間でレベル100って聞こえたのですが、何の話ですか?」


 ポメラが恐々と尋ねてくる。

 俺はそれを苦笑いで誤魔化しつつ、そろそろ多少の無茶をしてでもアレを使うべきかと思い悩んでいた。


「……あなた達は、相変わらずですね」


 俺が魔法袋から出したダルクウルフの毛皮やサーベルラビットの牙、アルミラージの角を見て、ギルドの職員は、はあと大きく溜め息を漏らした。

 ダルクウルフとサーベルラビットはレベル20前後、アルミラージはレベル30前後の魔物である。


 ポメラからの助言があり、《異次元袋ディメンションポケット》は極力人前で使わず、魔法袋を頼るようにしている。

 どうやら第八階位の魔法はどうしても目立ってしまうらしい。


 彼女曰く、熟練の冒険者であるC級、B級の冒険者でさえ、第六階位の魔法に到達するのがせいぜいなのだという。

 おまけに、第六階位は大技すぎて、発動に無意味に時間がかかる上にどうしてもオーバーキルにしかならないので、使えても実戦では使わない人ばかりなのだそうだ。

 さすがに過言だと思ったが、とりあえずは納得した振りをすることにしている。


「お二人とも、先日にE級冒険者へと昇級したところなのでしたよね」


 職員の人は、俺達の登録証を確認しながらそう言った。


「ええ、そうです」


「実は、カナタさんとポメラさんを、特例でC級冒険者にしようという話が今出ているのです。あなた達の実力は明らかにC級以上でしょうし、ギルドとしても実力のある人に相応の依頼を受けてもらえた方が助かりますからね。すぐに、ということではありませんが、頭に入れておいてもらえれば」


「本当ですか?」


 俺としても、とっとと上位の依頼を受けられるようになっておきたかった。

 討伐依頼ではなく、ギルドに部位買取を行ってもらっているだけではどうしても効率が悪いのだ。


 冒険者としての級が上がれば、登録証が身分証明証代わりになることもあるらしい。

 領主はなるべく自領に有望な冒険者を置いておきたいため、都市によっては領主直営の施設で特権を受けられることもあるらしく、とにかく級を上げておくに越したことはないそうだ。


「や、やりましたね、カナタさん! ポメラは……なんだかカナタさんのおまけでもらった感じが強くて、申し訳ないですが……」


 ふと、そのとき背後より殺気を覚えた。

 振り返ると、オクタビオが俺達の方を睨んでいた。


「なんで、あんなクソガキ共が……何か、卑怯な真似をしやがったんだ」


 オクタビオは、ぶつぶつと何かを呟いていた。

 ……またあいつか。

 目が合うと、舌打ちを鳴らして別の方へと歩いて行った。


 オクタビオは、万年D級冒険者であることを、えらくコンプレックスに感じているという話だった。

 連日好成績を修めてギルドから特別扱いされつつある俺とポメラを、どうにもあまり良く思っていないようだ。


 オクタビオの取り巻きであったあの小男の方は、最近めっきり見なくなった。

 俺に怯えて、この都市を出て行ったのかもしれない。


「まだ、今日は時間がありますねカナタさん。午後から、魔法のお勉強でしょうか?」


 修行を通して自信を身につけてきたのか、単に一緒にいるので俺に対しては心を開いてくれているのか、最近ポメラは、少なくとも俺に対してはあまり吃らなくなったように思う。


「そう……ですね。前にも言っていたものなんですが、実は試したいものがあるんです。一度宿に戻ってっから、少しやってみましょう」


「ま、前にも言っていた、試したいもの……ですか?」


 ポメラが不安そうに目を細める。

 ま、まあ……《ウロボロスの輪》もポメラに渡しておけば、万が一が起きることも避けられるだろう。

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