第五十話 パワーレベリング

 予定通り、二日間をポメラとの魔法の特訓に費やした。

 魔導書の内容を霊薬ドーピングで覚え込み、理解してもらった。

 危険性の低い階位の高めの魔法を用いての発動練習も行った。


 白魔法と精霊魔法に加えて、攻撃に用いやすい炎魔法もある程度身につけてもらうことに成功した。

 とりあえず、この三つの分野に関しては土台となる基礎はバッチリだと言えるはずだ。


 この二日の間、俺もポメラに街のことや、簡単な外の常識なんかを教えてもらった。

 都市アーロブルクを訪れた最初の日は戸惑うことばかりだったが、以前のように戸惑いながら街を歩くことにはもうならなくて済みそうであった。

 文化の違いなんかも、簡易的にではあるが、すり合わせられたつもりだ。


 ひとまず、ポメラの魔法修行に関しては一旦はここで終えて復習に留め、レベル上げによって魔力を伸ばすべきだろう。

 俺とポメラは冒険者ギルドにて薬草採取のF級依頼を引き受け、都市からやや離れた平原を訪れていた。


 レベルの高い魔物ともなれば、肉や毛皮、臓物、牙に高い価値のつく個体もいるらしい。

 そうした魔物の骸は、状態によっては冒険者ギルドの方で買取を行ってくれるそうだ。

 特に討伐依頼を受けていなくても、魔物によっては換金できる機会があるということだ。


 納品した魔物のレベルや数によっては、そちらでの実績が認められての昇級もあり得るらしい。

 今更ではあるが、そっちを狙って行った方が俺には適していそうであった。

 薬草採取で堅実に依頼実績を積みつつ、魔物の亡骸を買い取ってもらっての金銭稼ぎと昇級が今回の目的である。


 魔物の亡骸の買取は冒険者ギルドの方にかなり仲介料を抜かれてしまうらしいが、それは仕方のないことだろう。

 たかだか冒険者にその手の商人との伝手があるわけもなく、仮に交渉を試みても揉め事の種にしかならないので商人側も嫌がるらしい。


 ギルドよりも安く仲介を引き受けてやると豪語している冒険者はいたが、どうにもあまり評判のいい人物ではないそうだった。

 素直に冒険者ギルドに丸投げしてしまった方が遥かにいいだろう。


「こ、こんな街外れにまで来てしまって、大丈夫でしょうか……?」


 ポメラがおどおどと周囲を見回している。


「そこまで歩いていないと思いますが……」


「距離……というより、方角があまりよくないかもしれません。その……少し、引き返しませんか? 都市アーロブルクの近くにある《魔の大森林》は……一流の冒険者の方でも、あまり近づかないんです。この方面は、森から出てきた魔物と運悪く出会うこともあるかもしれません」


 俺が出てきたところか……。

 確かに奥地に《地獄の穴コキュートス》の入り口があるくらいだ。

 ポメラ達にとっては、《地獄の穴コキュートス》の魔物はとんでもない脅威になるだろう。

 俺が出てきたときには鉢合わせしなかっただけで、森にももっと危険な魔物がいたのかもしれない。


「では、少し戻りましょうか」


 俺がそう口にしたまさにそのとき、遠くから狼の声が聞こえてきた。


「アオオオオオオッ!」


 六体の、黒い狼の群れがこちらへと向かってくる。


「ダ、ダルクウルフです! 《魔の大森林》を住処にしている魔物です!」


 早速出てきた。

 戻るなら、もう少し早くに引き返すべきだったかもしれない。

 いや、多少高レベルでも、《地獄の穴コキュートス》の魔物以上だとは思えない。

 ポメラを庇いながらでも対応できるはずだ。


 俺は《英雄剣ギルガメッシュ》を引き抜いて構え、《ステータスチェック》で素早く相手のレベルを確認した。

 前の三体は、左から順にレベル22、レベル20、レベル21だった。

 俺はそっと《英雄剣ギルガメッシュ》を鞘へと戻した。


 ……このくらいだと、D級下位程度といったところだ。

 何体いたとしても、後れを取ることはないだろう。


 まぁ……うん、森外れの魔物はこんなものか。

 適当に素手で打ち倒して、亡骸を回収させてもらおう。


「き、気をつけてくださいカナタさん! ダルクウルフは、連携を組むのが得意で……いくらカナタさんとはいえ、一歩間違えれば命を落とすことも……」


「このくらいなら、ポメラさんのレベル上げに丁度いいか」


「……ふぇっ?」


 俺のつぶやきに対し、ポメラが目を丸くして俺の方を見た。


「カ、カナタさん……? その……えっと、冗談、ですよね? 確かに魔法は教えてもらいましたけれど……ポメラまだ、レベル7なんですよ……?」


 俺はポメラの斜め後ろへと跳んだ。


土空魔法第四階位|脆土の盾《クレイシールド》」


 俺は魔法陣を浮かべ、腕を前に突き出した。

 地面から土の塊が俺の手元へと集まり、大きな土の盾を象った。


「す、凄い……一瞬で、こんな細部まで作り込まれた盾を……!」


錬金魔法第十五階位|魔剛鋼化《マナアルゴン》」


 続けて、魔法陣を展開する。

 土の盾に緑色の炎が灯り、土が変質化する。


 翡翠色の輝きを帯びた金属の盾へと変化した。

 《魔剛鋼マナアルゴン》は、地中深くで地脈の魔力を受けた土が長い年月を掛けて変化するものだが、こうして錬金魔法で再現することもできる。

 ルナエールからも、この魔法があるとないでは全く異なるので、絶対に錬金魔法はこの階位まで使えるようになっておくべきだといわれていた。


 ポメラは呆然と俺の手元を見て、大きく口を開けていた。


「えっ……? う、嘘……つ、土塊の盾が、こんな、魔法金属に……ど、どうして……」


「大丈夫です。攻撃は、俺が適当に凌ぎます。魔法で攻撃し続けてください」


 俺は飛びかかってきたダルクウルフを《魔剛鋼マナアルゴン》の盾で弾き返す。

 何体同時に来ようとも、ダルクウルフ程度の速さなら余裕を以って対応することができた。


「きゃ、きゃあっ! ひっ!」


「大丈夫ですポメラさん! 全部、俺が防ぎますから!」


「で、ですが……ですが……」


「攻撃しないとレベルが上がりませんよ!」


 最初の方は怯えて動けなかったポメラも、どうにか途中から攻撃に出てくれた。

 少しばかり時間は掛かったが、無事にポメラの魔法攻撃だけでダルクウルフの群れを全滅させることができた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る