第80話 お盆のまったり
告白した。
恋人同士になった。
俺は……燃え尽きた……。
ということで、真っ白になって毎日を送っている。
付き合ったんならデートに誘えよという話があるかも知れないが、何しろ米倉舞香は多忙なのだ。
夏祭りの翌日から、彼女は家族とともに海外旅行へ行ってしまった!
何ということだ!
「ごめんね。前々から決まってて、毎年みんなでスイスに行くの」
なんて言われては何も言い返せないのだ。
米倉一家が旅行中は、俺のインターンもなし。
ということで、こうして真っ白になりながら日々をぼーっと過ごしているわけだ。
冷房が効いた部屋、過ごしやすい……。
「ねえねえお母さん。穂積くんどうしたの? とうとうフラれたの?」
「告白は大成功したって。お兄ちゃんはもうリア充よー」
「ば、ばかなー! そんなん人生の勝ち組じゃーん!! 可愛い妹が受験で苦しんでいるときにゴールインするとか許すまじー!! ……で、なんで真っ白なの?」
「舞香ちゃん、海外旅行行っちゃって早速会えなくなったからよ。なんかきっと、自分は彼女に見合ってるのかとかそんな事を考えてるんじゃないかしら」
全部聞こえてるよ!
それから、俺の内心を言い当てないように!
「ほーら、穂積。いつまでもぐだぐだしてないの。舞香ちゃんが帰ってきたら笑われるでしょ。暇だったらお墓参りでも行ってきたら? そうね、それがいいわ!」
そういうことにされてしまった。
俺は炎天下に追い出されてしまう。
息子が熱中症になったらどうするんだ。
俺は帽子を被り、ペットボトルを片手に、日陰を伝ってぶらぶら歩くことにした。
うちの菩提寺までは徒歩で三十分ほど。
炎天下を歩くのはちょっと危険じゃないか?
よし、コンビニからコンビニへと渡りながら行こう!
俺がそういうことを考える奴だってうちの母も分かっているので、ちょっと多めに小遣いをもらったのだ。
第一のコンビニで、炭酸の効いたエナジードリンクを買う。
こいつをちびちびやりながら、次のコンビニのあるところまで。
すると二軒目で、見覚えのある人がいた。
「ウィーッス」
「どもっす」
トモロウだ。
「家近いんですかトモロウさん」
「おうよ。俺んちさ、この裏」
「マジで……。うちから徒歩で十五分なんですけど」
「マジ!? 穂積くんご近所だったんじゃん……」
世界は狭い。
電車を使ってうちの高校まで通学している者もいれば、徒歩三十分で通学してる俺みたいなのもいる。
舞香の家は、車で十五分。
「もしかして、トモロウさんエスカレーター組……?」
「いんや。俺は外部よ。城聖はすれてないいい子が多いんだけど、ちょっと二股をしたら一瞬で噂が広がってさあ。いやあ、エスカレーター組のネットワークすげえわ」
「そりゃあ二股する方が悪いですからねー」
「お、言うねえ」
トモロウはニヤニヤ笑いながら、立ち読みコーナーからアイス売り場まで異動した。
二つアイスを買って、「店内っす」と言って多めに消費税を払う。
「食ってこうぜ。これ俺の奢りな」
「いいんですか?」
「いいってことよ。穂積くん、なんかキャラがちょっと自信ある感じになってっからさ。結果は分かってんだけど、一応聞いとく。どうだった?」
どうだった、というのは、もちろん俺の告白についてのことだろう。
これに関しては、トモロウにかなり世話になった。
「お陰様で、俺もリア充です!」
「マジかあー! あー、くっそ、めっちゃ悔しいわ! だけど米倉さん落とすのは俺が知る限り、穂積くんしか無理だよなあ……。なんつーの? 趣味が合って育ちが良くて、性格がいいってのが多分必須条件なんだわ。俺、全部外れてるもんな」
「そんなもんですか?」
「そんなもんよ。俺、失敗する度に分析するわけよ。で、どんどん成功率を上げてる。これでいつか本命が来た時に、百発百中で落とすってわけだ。あ、このアイスは穂積くんの告白成功祝いな。食え食え! イートインで多めに消費税払ったんだからよ!」
けらけら笑うトモロウ。
「そんじゃ、ありがたく!」
それは、かき氷を固めてアイスキャンディーで包んだタイプのレモン味の氷菓だった。
夏には最高に美味いやつだ。
「あれ? でもトモロウさんの本命って舞香さんだったんじゃ?」
「いやいや、本命と一目惚れは違うっしょ。一目惚れは事故なの。俺さ、クールをモットーとしてんのね。だからトライ&エラーっつって、失敗を毎回チェックしてんのよ。で、二度と同じミスはしない。だけど一目惚れはそんなデータ主義なんざ、どっかにぶっ飛ばすんだよ。こんなもん、成功するわけねえべ。現に俺、成功率0%の女に告って一本背負いだぜ?」
「あれは痛そうでしたねー」
「そういうこと。本命ってのは、長続きできる相手ってことよ。恋愛っつーのはすげえ燃え上がるけどさ、それって制限時間があんの。うちの親とかさ、今は別居してんだけど、めっちゃ燃え上がって恋愛結婚したんだぜ? だけど燃え上がったものは鎮火すんだよな。で、鎮火しきったらもう燃えねえ。結婚したとすんじゃん? そっから先は恋じゃ無理なのよ。現実なのさ」
「含蓄のあること言いますねえ」
「実体験だからなあ。ガキなりにずっと考えてたんだぜ? 俺ってモテる方だったけど、モテて一番熱くなれるやつと結婚したとして、その先がこれかーって。なんかさ……そうなると、恋愛ってちがくね? 恋愛は恋愛でゲームみたく楽しんで、でも本命はトキメキじゃなくてさ。もっと違うところで選ぶのがいんじゃね? そう思ってんの」
そこまで一息で語り、トモロウは「やっべアイス溶けてんじゃん」とか言いながら、バリバリと食べ始めた。
うーん、かなり深い話だ。
うちの両親みたいなのは例外なんだろうか?
多分恋愛結婚したんだろうけど、お付き合い開始=プロポーズみたいなもんだった。
ああ、でも、父が母に行った、あなたのどこが好きなのか、どれだけ好きなのかをプレゼンするっていうのは良かったのかも知れない。
そういう意味では、俺と舞香さんの関係はどうなんだろう?
お互いのどこが好きなのかって、ちゃんと言えるんだろうか。
「うーむ」
「おっ、難しいこと考えてる?」
「トモロウさんほど難しくはないですけどねー」
「一発目で本命掴んだ奴が何言ってんだよ。普通はそんなことできねえから、頭使ったりすんだろ? こんなの使わないに越したことないんだって。んでどっか行くところだったの?」
「実は墓参りに」
「おし、付き合う。実は三股がバレて一気に二人に振られてさー。いやー、参った参った!」
「めっちゃ明るいですねー」
「想定内ってやつだよ。おかげで暇なんだよね。墓参りなんか久々だよ。うちの母親、ぜってーに父方の墓に連れててくれねえからさ」
「サラッと重い話をする人だなあ」
そんなわけで、トモロウをお供に従え、俺は残り十五分の道のりを行くのだ。
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