第30話 講和遊宴会

 宮殿に入ると、様々な種族の要人、軍人、貴族がそこに居る。

 そしてフレイヤの周りには様々な種族の人集りが起きている。

 フレイヤって意外に有名人なんだな、ロリコンの癖に………。

 だが俺の近くで小声でフレイヤに対する陰口が僅かに聞こえる。


「まあ、『血塗られた悪魔』が居るわよ。これ以上高貴なエルフの品格を落とさないで欲しいわぁ」

「本当にそうよ、何であんな人が来るのかしらぁ?」


 そうフレイヤの陰口を言うのはいかにも見た目が金持ちと分かる貴婦人二人である。

 彼女らはフレイヤを睨みながら凝視し、嫌味を言いながらその場を去る。


「酷いな、同じエルフなんだから嫌う事無いのに」

「それは無理ですよカズトさん」


 今の声はヴァイス?………ではないな。

 誰だろう、キリッと凛々しい声がしたような………。

 そう思いながら先程名前を呼ばれた方に顔を向ける。

 そこに居たのは見覚えの白い髪の毛のヴァイスではなくツインテールで金髪のオリヴィアだった。

 俺は突然そこに居た事に驚いてしまって、大声で彼女の名前を呼ぶ。


「お、オリヴィア!?」

「な、何ですか?急に私の名前を大声で呼んで………」

「い、いや、な、何でもないよ!それより今の無理というのはどういう意味なんだ?」


 俺がそう言うと、オリヴィアは深刻そうな顔をしている。


「フレイヤさんは国民の間では『血塗られた金色の貴公子』と呼ばれ大変愛されています、ですが、彼女は名家出身の娘から平民と同じ一般軍人になられたので他の貴族から嫌われているんですよ。」

「というか、そのアダ名は愛されてるのか?……じゃなかった、貴族が軍人になる事はダメなのか?」


 オリヴィアは首を横に振る。


 「いえ、貴族が軍人になるのは珍しい事ではないのですが、我が国の貴族は騎兵科の士官が最も多く、貴族が歩兵科のさらに下士官以下になる事は絶対に無い。しかも当時は貴族の女性が軍人になるというのも前代未聞ですからね、まあ、女性の騎士の時代は有り得ましたし、フレイヤは士官学校を卒業していますから今大臣になってるんですけど………それでも貴族が歩兵科の一般兵士になる事はあり得ないのです。」


 オリヴィアの話を聞いて、フレイヤってああ見えて苦労してるんだな、と俺は思った。

 だが、オリヴィアはジト目でこちらを見て怪しんでいる。


「エルフで、しかも領主になれる位の貴族のお方ならこういった話を知っているはずですが、本当に貴方は貴族の方?いや、それ以前にエルフですか?まさかあの時のヒューマンじゃないですよね………」


 ギクッ!や、ヤバイ、怪しまれている!!

 だがこんな所でバレるわけにはいかない!


「い、いや~俺の家系は、権力の弱い貴族で、あとそこまで軍人を輩出していないから知らなかったんだよなぁ―――」

「へぇー、そうなんですか………」


 まだ多少怪しんでいる様に見えるが、大丈夫だよな………。

 そういえばヴァイスはどうしてるんだろうか?

 近くに居ないし、どこに行ったんだろう?

 そう思って周りを見てヴァイスを探そうとすると、彼女は先に先にへと歩いていた。

 ヴァイスの顔を見ると目をキラキラと輝かせ、笑顔だった。

 差別されてないか心配だったが、特に何もされていないので大丈夫だと思うが、心配になったのでオリヴィアにヴァイスの見張りを頼むよう尋ねる。


「オリヴィア……さん?」

「何ですか、カズトさん?」

「ヴァイスを見張るのを頼みたいのだが、出来ますでしょうか?」

「……何故私がやらないといけないのですか?」

「お願いします、どうか」


 オリヴィアは嫌そうな顔をしていたが、溜め息を吐く。


「……解りました、でも特別ですからね!本当はレナ様の警護をしないといけない身ですからね!」

「本当にありがとう!」


 俺が感謝をするとオリヴィアは何も言わず無言でヴァイスの方へと向かった。

 ヴァイスはオリヴィアを見て話すと、ヴァイスは嫌そうな顔をするが、特に嫌がったり、慌てる様子も無かったので俺は安心する。




 ふう、これで俺も一人になったな。

 ヴァイスには申し訳ないけど、オリヴィアと一緒に居てもらおう。

 ずっとレナとヴァイスが居たから自由な行動が出来なかったが、とりあえず今回のパーティーを一人で楽しんでみるとするか。

 俺はそう思いながらフラフラとこの宮殿を歩いていく。

 この建物の内装や外装はムーゼック“宮殿”と言いつつ、教科書に出てきたフランスのベルサイユ宮殿みたいに豪華絢爛できらびやかな装飾は少なく、まるで質素で歴史ある戦闘のための古城のようだ。

 パーティー会場が催されている部屋に入ると、多くの人間が種族の方々のそこに居るが、まあ、一目で分かる普通の人とは違う人達、つまり成金や貴族、軍人などがそこの部屋に大勢居る。

 食事はビュッフェスタイルの食事で、皆が大皿から料理を少し取り、持っている小皿に取っていく。

 中央には鍋の正面にこの国の国章の十字のマークが大きく描かれた鍋が置いてあり、鍋の近くに向かうと鍋の熱気で暖かい、というより熱く感じる。

 何が入っているのか確かめるためにゆっくりと慎重に背伸びして中身を見てみると、乳白色の色の液体で、香りはチーズの様な匂いがする。

 周りの人々の話によると、この鍋はチーズフォンデュ用の鍋だと言う。

 まるでチーズの大海のような鍋はチーズ好きには堪らないものだろう。

 そういえば、チーズや乳製品がヴァイスと一緒に行った市場に多く売ってたけど、この国の名産品なのかな?


「おいカズト君、何をしている!早くこっちに来るんだ!」


 突然腕を引っ張られ、転けそうになる。

 引っ張られた方をよく見るとヘルマンがそこに居る。


「お前を相手国の全権委員の人に紹介させるんだから勝手に何処かに行くなよ」

「ご、ごめん………」

「………あと、そう易々と謝るな、さあ早く来てくれ」


 そう言いながら、腕を引っ張って人混みをかき分けて歩いていく。

 やっぱり、俺は一人で行動する事が出来ないのか………。

 俺はそう落胆しているとへルマンか振り向く。


「待て、そういえばヴァイスはどうしたんだ?」

「オリヴィアに任せたから大丈夫のはず」


 俺がそう言うと、ヘルマンは突然立ち止まり自分の顔を見る。

 ジト目で眉をしかめ、不満を表す。

 しかし諦めたのか、ヘルマンは溜め息を吐く。

 

「………そうか、まあ良いだろう」


 そうヘルマンが言うと、歩き始める。

 会場から出て、薄暗い廊下を歩き、細い回廊を歩く。

 その回廊を歩き始めて数分後、薄暗い廊下の先に少し大きくて立派なドアのある部屋に着く。

 ヘルマンがコンコンコンと三回ノックすると、扉がゆっくりとギギギと音を立てながら開く。

 扉が完全に開き、俺とヘルマンがその部屋を入ると、そこは明かりの少ない場所で、その部屋には俺ら以外に人間が三人、ハーフエルフが二人この部屋に居た。 

 二人のハーフエルフや、二人の人間は軍服やスーツを来ていたが、一人の人間の女性はだけ格好が違っていた。

 まるで古代ヨーロッパの服のようなデザインのワンピース姿だった。

 すると、彼らは俺らに気づいたのかこちらに近づいてきた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る