第28話 カツラ

 俺たちが乗っているエレベーターが一階に着く。

 俺は一階に着くと同時にゆっくりとレバーを戻し、蛇腹状のドアを開ける。

 このエレベーター、意外に操作が難しいな。

 今考えると俺の世界にあったボタン押して行きたい階に行けるエレベーターは凄いものだった事が分かるな………。

 俺はそんな事を考えながら、ロビーに着くとそこにゲルマニアの綺麗な軍服を着たフレイヤが待っていた。

 彼女の軍服には沢山のキラキラと輝く勲章を左胸に身に付けている。

 レナはフレイヤに気づくと「ありがとう、カズト」と軽く感謝し、俺の腕から離れ、フレイヤの所に行く。

 フレイヤはレナを見つけると、彼女は笑顔で迎える。


「ヴィルヘルミナ様、そのドレス凄く似合っておりますよ!」

「ありがとうフレイヤ、貴女の軍服も格好いいわよ」


 フレイヤはレナにそう言われると、フレイヤは軽く頭を下げ、敬礼する。


「ありがとうございます、皇女殿下に褒められるなんて恐悦至極に存じます」

「フレイヤ、私をヴィルヘルミナではなく、レナと呼びなさいって言ってるでしょ!」

「申し訳ありません、ですがやはり皇女殿下なので大勢の前ではレナ様よりヴィルヘルミナ様で御願いできませんか?」

「………判りました、認めましょう」


 彼女らはにこやかに話しているが、周りは俺を睨んだり、ボソボソと陰口を言われているように感じる。

 殆どは小声ではっきりとは聞こえなかったが、異世界人は悪魔だとかそんな言葉が聞こえたりした。

 マジでこの世界の転移者は何しでかしたんだよ。

 そこにヘルマンが俺の方にゆっくりと近づく。


「カズトさんにヴァイスさん、二人ともとてもお似合いですよ」


 そうへルマンに言われた俺とヴァイスは軽く礼をし、「ありがとうございます」と二人揃って言う。

 ヘルマンは笑顔で話を続ける。


「ところでカズトさん。」

「何ですか?」

「パーティーに今から行きますが、やはりニホンジンというより異世界人は珍しいから会場で混乱が生じると思うからこれを………」


 すると、ヘルマンが手にしていたのは金髪のカツラである。


「………あの、これは?」

「カツラだ、サイズは自動的に変更可能だから心配は無用だ」


 そう言われてヘルマンからカツラを手に入れ、鏡を見ながらそれを頭に着けた。

 すると、耳が変形しエルフのような耳になる。

 だが、目の色は変わらず黒い瞳のままである。


「それ着けながら領主をすればいいじゃないか?似合ってるぞ」


 フレイヤは自分をチラッと見ながらそう言い、ヘルマンもそれを聞いて、納得するように頷く。


「良い事言うじゃないか、あの地域は異世界人に対する憎悪が高いからな。それ私の祝いの品として貰ってくれ」


 そう言って、ヘルマンは俺の肩を叩く。


 「それじゃ行こうか!姫様も君も来たことだし、私達は最初の馬車に乗るけど、君達は最後の馬車に乗ってくれ」


 そう言って、レナと他の外交官、軍人などが一斉に歩き始める。

 勿論、レナはその軍団の中心に居て、完全に彼女を守っていた。

 その群衆の真ん中にレナを気づいたここのホテルの客は彼女に対して手を振ったり、歓声が聞こえた。

 最初にレナとヘルマンが一番最初の馬車に乗り込む。

 順々に外交官や軍人が色々な馬車に乗り込む。

 そして俺達が乗る馬車が来た。

 レナの馬車と比べたら少し地味な馬車だが、それでも内装は豪華である。

 最初にヴァイスを乗せ、次に俺が乗り込む。

 すると、フレイヤも俺たちの馬車に乗り込む。


「何で、俺がレナ様の馬車じゃなくてこのニホンジンが乗車している馬車に乗らないといけないんだ」


 フレイヤはそう言い、イライラしながら馬車に乗車する。

 するとフレイヤは俺を見ると、いきなり突っかかってくる。


「何だオマエ?何か言いたいなら言えよ」

「いや、特に何も………」


 フレイヤは俺に対して睨みつけるが、すぐにヴァイスを見るとニヤけ始め、俺の正面に座っていたヴァイスの隣に座ろうとする。

 だがヴァイスはそそくさと俺の隣に来る。

 ヴァイスが自分の隣に来たことにより、フレイヤはまた自分を睨みつける。


「な、何かご用ですかフレイヤさん?」

「チッ、何でもない!!」


 俺が優しく問いかけると、フレイヤは怒って舌打ちをして、頬を膨らませ不満を表す。

 だが、扉は閉まらないまま御者はドアの前に待つ。

 

「ドア閉めるの遅いですね、カズト様」

「そうだな、誰か待ってるのか?」


 これだけ遅いのに誰も来ないし、馬車も発車しない。

 俺は不安になってフレイヤに理由を聞く。


「なあフレイヤ、一体誰を待っているんだ?」


 するとフレイヤは不貞腐れているのか分からないが、窓の外を見続け、俺をずっと無視する。

 俺はヴァイスに先ほどの質問を聞くように頼むと、ヴァイスはとても嫌そうな顔をするが、「カズト様の為なら………」とそう言い、フレイヤに聞いてくれる。


「………フレイヤさん、何で発車しないのか教えて下さいなのです。」

「ああ、安心しろ、まだ来ていない人が居るから待っているんだ。」


 やっぱり、ヴァイスとなら話すんかい!

 ………まあ、良いや。

 俺はフレイヤには確実に嫌われているのは分かっているからな。

 俺はそう思いながらフレイヤの話を聞く。


「着替えているだけだからすぐ来るさ、ほら!」


 フレイヤがそう言うと一人の女性の軍人が軍服姿で、その女性はスカートをひらひらさせながら走って来る。

 髪型はツーサイドアップの人だが………はて?どこかで見たようなツーサイドアップだが………。


「すみません、遅れました!!」


 そう言ってその女性は馬車に飛び乗り込んで急いで自分の座席に座る。


「ふぅ………危なかった!」


 フレイヤは安心した様な顔をしていたが、ヴァイスはその女性を見た瞬間、一気に青ざめる。


「どうしたヴァイス?」

「か、カズト様、あの人ですよあの人!」

「あの子って?」


 俺はヴァイスにそう言われながら、軍服の子を見ると、ニッコリと彼女は見ていた。

 俺は頭の奥底から何故か彼女の狂気じみた笑顔を思い出す。

 何故ならそこに居たのはあの時のラッキースケベで俺を殺す勢いに暴れていたあのメイドだったからだ………。

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