第11話 束の間の休息

 俺はヴァイスが近くにある川の方へ行くのを見届け、レナの方へと向かう。

 そして俺は深呼吸をする。

 レナに怒られると思い、心音が激しくなる。

 

 「レナ絶対ピリピリしてるだろうなぁ………」


 俺はトボトボとゆっくりと歩き、レナに近づく。


「………レナ、遅れてすまない」


 彼女は新聞を広げながら俺を見る。

 俺は彼女の顔を見るとすぐさま謝る。

 一応先に謝れば、彼女は何もしてこないだろう。 

 だが、レナは自分の予想を裏切り、彼女はまた新聞の方に視線を戻す。


「もう怒ってないわ、早くここに座りなさいよ。」


そう言ってレナの左側の地面をポンポンと手で叩き、座るようにと優しく言う。


 ………アレエェェェエ!!??

 ば、馬鹿な!俺が出会ってからずっとプリプリと怒っていたあのレナが怒っていない………だとっ!?


 「カズト、貴方変な事を考えてないわよね?」


 レナは俺を睨む。

 だが俺は怪しまれないようにレナに対して誤魔化す。


「な、何も考えてねえよ?」

「ふーん、まあいいわ」


 俺は静かに左側に近づき、彼女が新聞を読んでいるのを邪魔しないでゆっくりと音を立てずに横に座る。

 木陰でとても涼しいそよ風が吹いていた。

 レナは新聞の一面に長い時間、顔を向けていた。

 戦争の戦災の写真が沢山張られていて、新聞売りの子供は、一面記事の上に書いてある大きな文字は「戦争終結」の文字が大きく書かれていると言っていた。

 ゲルマニアの新聞にはそう書いてある。

 ユーラの新聞には「ゲルマニア、討伐。亜人戦争終結か?」の文字が大きく書かれている。

 レナは静かに新聞を丁寧に折り畳む。

そして、彼女は10秒程無言になった後、一言呟いた。


「やはり、ゲルマニアは負けたのね………」


 彼女の目には大粒の涙が浮かび、その真珠のようにキラキラとした大きな涙が地面の芝生に落ちる。

 俺は声を掛けるべきか悩んだが、よく顔を見ると、彼女は泣きながら微笑んでいた。


「良かった、もうこれで多くの我が国の臣民が死なずに済むのね………」


 彼女はそうまた呟く。


「微笑んでるけど、戦争に負けたのが良かったのか?」


 俺は彼女に優しく聞く。

 彼女は俺の声を聞き、右袖で自分の目の涙を強く拭う。


「そんなこと無いわ、本当は悔しいわよ、でもこれでもう人が死ななくて済むのよ。私以外に父も、そして国の民も安堵しているはずよ」

「そうか、それは良かった」

「それで貴方はどうするのよ」


 俺は少し考える。

 俺は世界を救うとか世界を変えるような事をしていないし。

 自分の世界に戻る、とかも出来ない。

 というか、方法すら知らない。

 そんな事を考え、そして結論を出す。


「そうだな、記事にはこの場所の近くの街で講和会議があるから、そこまでは送るよ。多分そこに知り合いとか居るだろうから」

「その後は、どうするの?」


 なんだ?そんなに俺の事が気になるのか?


「そうだな、あのヴァイスとふらふら旅して彼女の里親を探すとか良いんじゃないかな」

「そう………。それなら、私の国の城に訪れるのはどう?」


 彼女の頬か突然赤くなる。

 俺は突然の言動に驚く。

 何故なら特に何もしていないのに、レナの城を訪ねる約束とか、いきなりレナの赤くなるとか。

 まさかまだあの事を根を持ってるのか、それとも歓迎されるのか。

 だが怪しすぎる。

 でもな、うーん。


 俺がそんな事を考えていると、突然小刻みだが地面の揺れを感じる。

 しかも、ドドドド、と大きな轟音を立てながら。

 まさか地震か!?と俺は思ったが、音が鳴っている方を目を向けるとヴァイスは怯えた顔で俺の方向に向かって走ってくる。

 これは、まさか………俺の方向に突撃して来ているのか?!?


「ままままま待て!落ち着け!というか止まれヴァイス!!」


 だがヴァイスは一心不乱に走ってくる。

 遅れてレナはヴァイスの方向に顔を向け、彼女は「ヒッ!」と甲高い声を出す。

 レナはぶつかると予感したのだろう。

 俺はその声を聞き、彼女の青ざめた顔を見た瞬間。

 スローモーションになったかのように、ヴァイスが自分の腹に強く衝突する瞬間が見えた。

 あ、ぶつかる…………ぶつかった。 

 ぶつかった事を感じた瞬間、いきなり目の前の景色が歪み、そして、勢いよく飛ばされる。

 俺の頭の中で「死」の一文字が一瞬過った。

 内臓が潰れたとか、全身骨折を想像した。

 ああ、どうせなら死ぬ前に自分の国に戻りたかったなぁ………。




 ―――――生きてる。

 良かった、だがうつ伏せだからか何も見えない。

 というより、何故か地面が柔らかい。

 この顔に当たってる感触はマシュマロか?

 いや、もっと柔らかい。

 ………この流れはわかった。

 あれだな、うん………。

 俺は何かを悟り、おそるおそる顔を上げる。

 そこには顔を赤らめ、怒りでワナワナと震えるレナの姿があった。

 彼女が蔑んだ目でこっちを見ている。


「………ッ!?」

「待て、早まるな!これは不可抗力、事故だ!!」

「いつまでそこに居るのよ。早く退きなさい!!」


 レナは自分に手を向ける。

 ヤバイ、殴られる。

 そう思い、俺は顔を腕で守ろうとするが、風の渦を沢山固めたような物が指の先にあり、それを放つ。

 すると、俺を数メートル位まで吹き飛ばし、強く地面に背中から叩きつけられる。

 衝撃が強かったのかすぐには起き上がれなかった。

 でも、それ以上に魔法で吹き飛ばされた事に違う意味で衝撃と興奮を感じた。

 街中ではランプの中にある魔石以外は差ほど異世界での魔法を感じる事をが出来なかった。

 魔力車も電気自動車みたいに音が静かなだけで見た目は自動車と殆ど変わらない。

 だから、今見た魔法が素晴らしく見えてしまった。

 だが、初めて見た魔法が俺に対しての魔法というのがなんか複雑だな。

 というより、それであの時の兵士を吹き飛ばせば良かったのに。

 そう思いながらレナを見てみると、地面にペタンと座っていて、両方の腕で胸を隠している。

 彼女の表情は俺を睨んでいるが、目には涙が浮かんでいた。

 こっちが泣きたいよ、と俺は思った。


「カ、カズト様、大丈夫ですか?」


 心配そうな目でこちらを見るヴァイスがそこに居た。


「あ、ああ、大丈夫だよ。」


 と、俺は彼女にそう言うが、もう既に俺の体のどこか骨折していてもおかしくないはずなんだけどな。

 だけど、どこもかしこも痛みはない。

 俺が俺自身に恐くなるよ。


「貴女、馬鹿じゃないの!?今の普通の人なら死んでるわよ!」


 レナはヴァイスにものすごい形相で叱責する。


「あの姫様?その理論なら俺、死んでるんだが………」

「し、死なないのはニホンジンだからじゃないの?あと、私の事を姫とは呼ばないで!」

「え?姫様なのですか………。」


 ヴァイスはピクッと反応をする。

 俺とレナは同時にギクッと動揺する。


「こ、こんな粗暴な人、姫な訳な、無いじゃないか!あと、さっき俺は日本人って言ったが別に俺の事じゃないぞ!うん。」


 俺はヴァイスを誤魔化そうと支離滅裂な言い訳を言うが、ヴァイスは衝撃な言葉を放つ。


「カズト様がニホンジンなのは気づいていました。」

「………え、マジで!?」

「はい、マジなのです。周りの通行人や店の人などは気づいていませんでしたが………」

 

 俺はヴァイスの突然のカミングアウトに驚き、気が動転する。

 すると突然彼女は自分の踵で俺の足を踏む。


「ウッ!」


 俺は痛みで少し声が出た。

 レナが履いている靴は踵が高いブーツだからか痛みが一点集中して物凄く痛い。

 そして彼女は小声か分からない声で俺の耳にささやく。


 (ダ、レ、ガ、粗暴な人ですって!?あと、ニホンジンって気付かれていたの?)

 (し、仕方ないだろ!?誤魔化す為だから!あと、日本人って気付かれていたのは分からなかったから!)

 (まあ、ニホンジンの事は彼女が怯えてないし問題は無いが、問題は私が粗暴な人というのは無いじゃないの!!)

 (それについてホントに申し訳ない。だけど………)


「あ、ああ………思い出したのです………」


 すると突然、ヴァイスは俺達の奥の方に目を向けていた。

 しかも、その顔は何故か青ざめ、後ろに指を差していた。


「どうした?ヴァイス、後ろに何かあるのか?」


 俺が振り向こうとした途端、何かが右耳をかすめる。 

 そのかすめた何かは近くの木に当たった。

 見てみると、凹んでいることが見てわかった。

 発射音はしなかった。

 サイレンサー付きの銃か何かの魔法か、それとも遠くから撃たれたか。

 しかし、ヴァイスが怯えているということは近くにいるのかもしれない。

 判らないが、確かめる必要がある。

 何故なら敵かもしれない、

 俺は恐る恐る後ろを振り向く。

 振り向くと、そこに居たのは光にキラキラと綺麗に輝く金色の短髪の男が軍服を着ていて、彼は自分に向けて銃口を向けていた。

 彼の顔には傷があり、幾度の戦場をくぐり抜けたような顔をしていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る