忘れ癖が酷くて……

 俺は物忘れが激しくて財布や定期券を忘れることはしょっちゅうで、人との約束までよく忘れてしまう。約束を忘れてしまうと罪悪感でとてもつらい気持ちになる。これはいけない。

 そう思いながら生活してある日、うっかり友人の約束をすっぽかして大目玉を食らった。落ち込んで散歩をしていると、なにやら見慣れない出店を見つけた。

 俺は気まぐれに店主の老人に話しかけることにした。


「やぁ、何を売っているんだい」

「記憶の薬です。それが必要な人に届けるためにここで売っているのです」

「記憶の薬? 俺はさっきも人との約束を忘れて最悪の気分なんだ。それが解決してくれるのかい?」


 老人はうなずき、俺はちょうど良いと思い購入した。

 それから俺の生活は激変した。

 薬の効果は劇的で俺は忘れ物をしてくよくよすることが無くなったのだ。俺には薬があると思うと常にハッピーだ。

 俺は思うように仕事をして、思うように人と遊び、好き勝手に過ごす。薬を買ってから本当に幸せだ。なんてすばらしい薬なんだろう。





 彼の職場では上司や同僚たちが頭を抱えている。


「彼に何か頼むと全部わすれちゃうよ」

「この間なんてお客さんのアポイントすっぽかしたんだぜ。課長も何とか言ってやってくださいよ」


 同僚が厳格そうな課長に言うと課長は困った顔をしてこう言った。


「いやぁ毎回こっぴどく叱っているのだけどなぜか翌朝になるとなぜか彼はきれいさっぱり忘れてしまっていてなぁ……」〈了〉

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る