ドッペルゲンガー
ある日、妙な頭痛がして起きると俺はゴミ捨て場で眠っていた。
「あたたた飲みすぎたかな」と慌ててネットカフェに駆け込んで身支度を整えて出勤すると職場の上司が不思議そうな顔をして俺に声をかけてきた。
「なぁ君……今日休むって電話してこなかったか?」
「ええ? そんな電話してませんよ」
「うーん、おかしいなあ……君が電話してきたと思ったんだが……」
上司はブツブツ言っていたが俺は気にせず仕事をした。どうにも慣れない仕事で大変だったが、やっているうちにコツがつかめて午前中に終わらせることが出来た。
昼休みになり、近くの定食屋でお昼を食べていると後からやってきた同僚が不思議そうに聞いてきた。
「なぁ君、さっき外回りで行った君の家の近くで会ったばかりだろう。今日は休んで家にいるのかと思ったよ」
「そんなバカな! 今日は朝から出勤したよ」
「ええ、だって弁当を買って家に帰って行ったぜ、今日はお休みいただきます、って言って」
何かがおかしい。そんなバカなことがあるか、と考えていると同僚が「これはドッペルゲンガーかもな」と言ってくる。
どうにもその手の話に疎い俺は同僚に聞いて、インターネットで調べてどういうことか知る。どうやら俺にそっくりな人間がいて、俺は出会ってしまうと死ぬらしい。
「じゃあ会社に電話してきた俺は……弁当を買っていたのは……」と震えあがり、一人ではどうにも怖いので頼み込んで同僚と共に家に帰る。
俺の住処は古ぼけたアパートで、なぜだか家の中からテレビの音が聞こえてくる。
「やいやい、どうなっているんだ!」
俺はインターホンを押してドアを叩いた。
「一体どうなっているんだ!」
その声と共に俺の部屋の扉が開かれた。
「ええ、なんだがわからないんですが家に見知らぬ人がいて急に倒れてしまって……」
数時間後、俺は同僚と共に警察に事情聴取を受けて解放された。
家にいた人は不思議なことになんと顔がのっぺらぼうで、家の扉を開けたとたんに胸を押さえて苦しみ出して倒れてしまったのだ。
結局俺には何がなんだかわからないまま事件が解決してしまったことになる。とんでもないことだ。
「君も災難だったなぁ。でもドッペルゲンガーとかがガセでよかったぜ。眠りにくいだろうが明日も会社に来いよ」
「ああ、全くだ。今日はありがとう。それじゃあ、おやすみ」
同僚にそう言ってドアを閉める。玄関に鍵置き場があって、そこに鍵を置きっぱなしにしていたことに気づく。
「明日は忘れないようにしないとな」
頭がまだズキズキしている。今日は朝から妙な一日だった。
「それにしても」
ベッドに横になって上を見る。
今日は一日良くわからないことが多い日だったからだろうか。見上げた天井はなんだか知らない天井に思えた。〈了〉
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