第22話

「やったぁ! また私の勝ちぃ~!」


「また負けた……」


 今日は負けてばかりだと思いながら、土井はそっとコントローラーを置いた。

 

「お前、もうそろそろ風呂入ってこいよ、もう結構遅くなっちまったし」


「え!? もうこんな時間!! やばっ! じゃあお風呂借りるわね!!」


 時計を見た瞬間、恭子は直ぐに立ち上がり土井の家の風呂場に向かった。

 対戦を初めてからすでに一時間が経過しており、もう時刻は21時を回っていた。

 

「はぁ……俺、何してるんだろ……」


 土井はそんな事を考えながら、ゲームのコントローラーを片付ける。

 考えて見ると部屋に女の子を入れたのは初めてだった。

 

「繁村に知られたら殺されるな……」


 ため息を吐き、何か飲み物でも飲もうと思い、土井はキッチンに向かった。


「あら? 恭子ちゃんは?」


「やっと風呂に入りに行ったよ」


 リビングを通ると土井の母親が土井にそう尋ねる。

 土井の母親はテレビでドラマを見ていたようで、テレビにはドラマが写っていた。


「なんか随分仲が良いのねぇ~どこで知り合ったの?」


「別に仲なんて良くないよ……」


 土井はそう言いながら、冷蔵庫から飲み物を取り出し飲む。

 

「でも、恭子ちゃん可愛いわねぇ~、私もなんだか娘が出来たみたいでうれしいわぁ~」


「そうかよ……じゃあ、俺は部屋に居るから」


「わかったわ、お風呂空いたら教えるわ」


 土井はコップを持って自分の部屋に戻り、パソコンの前に座った。


「動画でも見るか」


 土井は暇つぶしにとパソコンを立ち上げ、ネットで動画を見始めた。

 土井の見る動画は決まっている。

 毎回ゲームの実況動画かゲームのプレイ動画ばかりみていた。

 

「なるほど……ここで技を出すのか……」


 土井は動画で先ほどの格闘ゲームの勉強をしていた。

 こんなに一日で負けたのは初めてだったので、土井は悔しかった。


「一回で良いから勝ちてーな……」


 恭子と対戦するときは毎回手も足も出なかった。

 次の対戦ではもう少しいい勝負をしたいと土井は思っていた。

 だからこそ、こうやって動画を見て勉強していた。


「くそっ……俺が手も足も出ないなんて……」


 これでも土井は今までいろいろな格闘ゲームをやり込んできた。

 だから、その辺の奴らよりは格闘ゲームは上手いと思っていたのだが、ここまで一人の人間に負けまくると、自信を失ってしまう。


「次はこの動画でも……」


「何、少しエロい動画見ようとしてんのよ」


「別に良いだろ、ここには俺一人なんだ……ん? って、お前なんで居るんだよ!!」


 土井が他の動画を見ようとマウスを動かしていると、突然後ろから恭子が話かけてきた。

 どうやらお風呂から上がったようで、ほのかにお風呂上りの良い匂いがしていた。


「いや、もう帰るから挨拶だけしようかと思って」


「そう言う事なら、もうわかったから帰ってくれれ、俺は忙しいんだ」


「エッチな動画を見るのに?」


「ちげーよ!!」


 土井がそう言うと、恭子はニヤニヤ笑いながら土井の肩に自分の手をおく。

 土井は恭子のそのしぐさに思わずドキッとしてしまった。


「じゃ、また来るから、今日はおやすみ」


「へいへい、じゃあな」


 恭子はそう言って、部屋を後にしていった。

 これでようやく恭子から解放される。

 土井はそんな事を思いながら、パソコンの電源を切ってベッドに寝転がる。


「やっと帰ったか……」

 

 帰った後も土井は恭子の事を考えていた。

 なんで、あんな広い部屋に一人で住んでいるのか、両親は何をしているのか、なんであんなにゲームが上手いのか。

 

「てか、なんで俺はこんなにあいつの事が気になってんだ?」


 これも瑞希と似ているからなのだろうか?

 そんな事を考えながら、土井はベッドに横になる。


「そういえばあいつ……なんでこんな変な時期に引っ越しなんてしてきたんだ?」


 もうすぐ年末だというのに、実家に帰るどころか引っ越してくるなんておかしい。

 もしかしたら何か訳アリなのかもしれない。

 土井はそんな事を考えながら眠りについた。





 土井は休日の朝は苦手だった。

 用事の無い日は朝は全く起きず、お昼まで寝ていたりすることも多かった。


「……きろ……ねぇ……」


 寝ている土井に誰かが話かけている。

 土井はその声を聞いて、段々目を覚ましていくが、まだ完全には起きて居ない。


「起きなさいって!!」


「おごぉっ!!」


 土井は急にベッドから落とされ、一気に目を覚ました。


「いてて……な、なんだ!?」


「あ、起きた」


 土井は振り返り、自分を起こした人物を見る。

 そこに居たのは恭子だった。


「なんでお前がここに……」


「ん? お母さんが入れてくれたけど? てか、起きるの遅くない?」


「休みだからだよ! まったく……勝手に入ってこないでくれよ」


「良いじゃん、昨日も入ったし」


「そういう問題じゃねーよ」


 土井は立ち上がり、顔を洗うために洗面所に向かう。


「なんか用事?」


「ちょっと、あんたに手伝ってほしいことがってさぁ~」


 土井は恭子と話をしながら、洗面所で顔を洗う。

 

「手伝ってほしい事?」


「買い物に付き合ってほしいのよ」


「は?」

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