優一と過去
第8話
*
「おい」
「はい?」
「なんでお前は冬休みに入ってから毎日俺の家に来るんだ?」
「そんなの優一さんが心配だからに決まってるじゃないですか!」
「じゃあ、そのムチとろうそくはなんだ!!」
優一はそう言って、芹那の持っていたムチとろうそくを指さす。
芹那は優一に聞かれ、嬉しそうに答える。
「これは優一さんが元気になったら、いっぱいいじめてもらえるように、部屋にストックしてるんです!」
「そんなストックはいらん……」
優一はため息を吐きながら、楽しそうにろうそくとムチを眺める芹那を見る。
その腕には優一がクリスマスにプレゼントしたブレスレットが付いていた。
「……悪いな、色々心配かけて」
「え? 急にどうしたんですか? 死ぬんですか?」
「なんでだよ! 普通に謝っただけだろうが!」
「いや、だって……なんか病室でもそうでしたけど……優一さん最近私に……その優しいというか……」
「な、なんか悪いかよ……」
芹那にそう言われ、優一は照れながら顔を逸らす。
自分が芹那に迷惑をかけていることを優一は気にしていた。
だから、優一自身少し芹那に優しく接しようと思っていたのだが……。
「いや、どっちかって言うと私は優一さんにゴミのように扱われたいというか……」
「俺はクズか! そんな事しねーよ!!」
「具体的には踏んでほしいです!」
「踏むか! やめろ! 四つん這いになるな!!」
いつも通りの日常。
基本的に芹那に振り回される優一だが、こんな日常にも慣れ始めていた。
芹那との関係は相変わらずだが、芹那の扱にも慣れ始めていた。
「イテテ……」
「あ、飲み物くらい私が出しますよ?」
「良いよ、お前に頼りっぱなしも嫌だし」
「むー、安静にしててくれないと! 治るものも治りませんよ?」
「こんな怪我、中学の時は日常茶飯事だったっつの」
「中学時代って……優一さんの全盛期ですか?」
「どういう意味だよ、俺はプロ野球選手か!」
「だって、優一さん言ってたじゃないですか、中学時代は喧嘩ばっかりだったって」
「それを全盛期と呼ぶな! まぁ……あの頃は俺も馬鹿だったからなぁ……」
「へぇ~、一体どんな中学時代だったんですか?」
「あ? 何も面白いことなんてねーぞ?」
「聞かせて下さいよぉ~、どうせその体じゃ私とSMプレイも出来ないんですから」
「この体じゃなくてもしねーよ。あぁ……まぁでも暇だし話してやるか」
「わーい!! じゃあ今お菓子とお茶を持ってきます!」
「どんだけ長くなると思ってるんだよ!」
*
中学の二年の時だっただろうか?
俺はとある事件を切っ掛けに、クラスで浮いていた。
小学生の頃から俺は親に色々な格闘技を習い事としてさせられていた。
どうやら俺には才能があったらしい、いろいろな道場やジムに行ったが、どこの先生にも「君は優秀だ! 一緒に強くなろう!」そう言われてきた。
だが、俺にはあまりやる気がなかった。
強くなって何がしたいとかいう願望もなかったし、将来的にプロになりたいとも思わなかったからだ。
だから俺は、習ってはやめ、習ってはやめを繰り返していた。
幸い、うちの両親は嫌ならやめて良いと言ってくれたので、やめるのは簡単だった。
そんな親がなぜ俺に格闘技を勧めたのかいまだに謎だが……。
これはそんな俺が事件を起こす少し前の話だ。
「おはよう」
「おう、おはよ!」
「優一、今度出るゲーム知ってるか!!」
この時は友人がいた、中学一年の最初の方だった。
自分でいうのもなんだが、普通の中学生だった。
部活で陸上をし、終わったら友達と家に帰ってゲームばっかりしていた。
今では考えられないほど、俺の生活は普通だった。
「ねぇ、優一君! 悪いんだけど、ノート見せてくれない? 私忘れちゃってさぁ~」
「あぁ、良いよ」
だが、そんな普通の俺にも仲の良い女の子がいた。
笹村奈緒(ささむら なお)、彼女とは席が隣で、よく話しをしていた。
今考えると、俺は多分笹村が好きだったのだろう。
笹村と話すと楽しかったし、笹村が居ると自然と目で追っていた。
そんなある日だった。
友人達と部活終わりに俺は自宅に帰る途中だった。
「なぁ、あれって同じクラスの笹村だよな?」
「え?」
「なんか、あれ……やばくね?」
帰る途中の河川敷での出来事だった。
笹村ともう一人同じクラスの女子生徒が、上級生のチャラい男たちに囲まれていた。
しかも、その脇には同じく上級生であろう女子生徒もいた。
「あれって……確か笹村の先輩……」
上級生の方の女子生徒には見覚えがあった。
笹村の所属するテニス部の先輩だ。
しかもあまり良いうわさを聞かない。
「なぁ、あれってやばくね? 笹村泣きそうだし……」
「で、でもよぉ……相手は上級生だぜ? 喧嘩とかになっても勝てねぇよ……」
一緒に帰宅途中だった二人の友人の言う通りだった。
しかし、この時の俺はどうかしていたらしい。
好きな子がピンチだったからだろうか?
それとも笹村が居たからだろうか?
俺は気が付くと笹村の元に走っていた。
「あ、おい優一!!」
俺は友人の言葉も無視して笹村の元に全力で走った。
そして、上級生の男たちを目の前にした時、俺は我に返った。
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