04.諦めるしかないじゃないか
父が逝去した。
その訃報を聞いて、好機としか思えなかった。娘を溺愛するあまりか、老いた歳のせいか、甘言を囁く重臣の傀儡となり始めた王。自分が諫言を上申しても聞き入れなかった。
重臣たちの目障りになった私は、命を狙われるようになり行方を眩ませ国を復興する機会を待った。
そうすれば、最愛の妹に再会できる。彼女は父の実子ではない。幼い私に、彼女の母が娘を守ってほしい、と教えた秘密だ。
何も知らず自分と結婚すると言っていた幼い妹。本当にできると知ったらどうするだろう。
これまで秘めた恋心を打ち明けても、彼女は受け入れてくれるだろうか。
そんな仄かな期待を抱え、いざ帰ろうとした矢先、妹が敵国の王と婚姻し同盟を結んだとの報せが入った。
頭が真っ白になる。
対立していた敵国と即座に同盟に漕ぎ着ける訳がない。まさか、妹は強引に娶られたのではないのか。
茫然自失となりながらも、妹を助けなければという思いでどうにか王城に辿り着いた。
そこにいたのは、別れた頃より女性らしくなった妹だった。
「お兄様、探す手間が省けましたわ」
「は?」
「いずれ国を統合しようと思うんですが、私が向こうに嫁いでしまったのでこちらが空席なんです。それまで場繋ぎに座ってくれません?」
嬉しそうにかけよって玉座を指す妹。
「彼も正当な後継者なんですから、譲っても構いませんよね」
にこにこと妹が言う内容に愕然とする。視線を移すと消されたはずの弟が自分と同様の表情をしていた。敵国が代替わりをしたとは聞いていたが、彼だったとは。
「どこまで知って……」
弟が私の言葉を代弁するように問う。
「あ……、でも、私がお父様の実の子でないと知れたら、利用価値ありませんよね」
しょんぼりと妹が落ち込むが、平然と真実を語るのは、本当にあの無邪気だった妹だろうか。
「いや、俺は君を妻にしたい」
真摯な瞳で弟、元敵国の王は妹を見つめる。
「そうですよね、バラさなければ張りぼても使えますよね!」
ぱあっと表情を輝かせる妹は可憐だが、自虐がすぎる。見事に意志疎通ができていない事実に弟が打ちのめされていた。
というか、
「私は、この国を立て直すために……」
「お兄様」
ぴっと妹が指を立てる。
「色々と暗躍されていたでしょうが、いきなり戻ってきたぽっと出のお兄様と、着実に目に見える実績を積まれた彼とを比べて、国民はどちらを選ぶと思いますか?」
「彼、だ」
よろしい、と妹は満足げに微笑んだ。
これは敵わない。
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