都市伝説 火祭りの記述 KAC20202
木沢 真流
聞いたことのない祭り
今までで一番印象に残っているお祭りは?
お祭り大好き人間の私にとってこの質問ほど苦しいものはない。何故なら、この質問をされる度、私は平静を装ったままお茶を濁さざるを得ないからだ。
日本全国、いくつものお祭りをに足を運んできた。もしこの話を記事にしていいのなら、まさに「最高の祭り」ネタとなるだろう。しかしそのお祭りだけはどうしてもとある理由から公にすることはできない。理由は言うまでもない、この話を最後まで聞いてもらえればわかると思う。
ただいつまでもこうやって心の奥にしまっておくのはどうも居心地が悪い。この際思い切ってネットの海に放流しようと思ったのがこのお話を書こうと思ったきっかけである。
その日も私は、とある祭りの取材のために(自主規制)県のとある山奥に出かけた。だが、そこでもコロナ騒動の余波はひどく、結局中止となっていた。それなりの痛い出費で、悔しかったという気持ちは確かにあった。しかしそれより何より、私のお祭り不完全燃焼感がひどく、それはまるでお祭り依存症のように何でもいいから「祭り」という響きを私は欲していた、振り返ってみるときっとそうだった。
帰り際の電車のホーム、乗り換えを待つ私は学校帰りの子ども達の会話が耳に入った。どうやら、祭りが——その祭りが——と言っていたのだ。私は我慢できなくなり、その子どもに食いついた。そしてどんな小さな祭りでもいい、そんな思いでその祭りの行われる村の場所を聞き出し、急遽予定を変更したのだ。それから私は、聞いたことのない駅で降りて、一日に三本しか来ないのバスに乗り、山奥を揺られること一時間、やっとそのバス停に着いた。こんなところに村があるのだろうか、いたずらだったらどうしようか、そんな不安をよそに、バス停を降りた瞬間、私は焼けたおいしそうな肉の匂いで包まれた。
バス停から見下ろすと、村一帯が一望できた。楽しげな露店と賑わう村人達。立ち込める煙と、おいしそうな匂い。そこには私の待ち焦がれたお祭りの風景があった。
こんな山奥でまさかこれほど大きなお祭りに出会えるとは、一体どんな祭りなんだろうか、私は村人に聞いてみた。
村の名前は
その昔、豊作を祈願して火の神様に祈りを捧げていた名残がこのお祭りで、その名も「火祭り」。
村人達もよそ者の私を快く迎え入れてくれて、いろいろ親切に教えてくれた。その村人の一人が私に近づいて来た。今日の一番の見せ場で、一緒に舞台に上がらないか、と。こんなチャンスはない、是非いい思い出になると思い了承した。それから、舞台の方へ向かっている最中のことだった。
突如私のスマホが鳴り響いた。
普段から電話でのやりとりをしていなかった私は何か嫌な予感がした。そんな予感はその直後、見事に的中することになる。実家の母の状態が悪いとのことだった。急いで帰路を調べると、何とか遅い時間の新幹線に間に合いそうだった。私は後ろ髪を引かれる思いで、そのまま
惜しいことをした、そんなことを考えながら、私は乗り換えの電車を待った。人気の少ないそのホームで、ふと同じく電車を待つ老婆が目についた。手持ち無沙汰に私は
「あぁ、
なんだ、結構知られているのか、私はやはり落胆の色を隠せなかった。
「あそこはね、よそ者には冷たいから、あんまり関わらん方がいいよ」
偏見というのものはいつの時代だってある。実際私に親切にしてくれた村人達を私は知っている。老婆はそのまま何かを思い出すように遠くを見つめていた。
「確か、『火祭り』じゃったかね。山の神様への捧げものとして人をあぶっていたみたいだね、あそこは」
「ああ、昔の言い伝えでは『人柱』という生贄みたいな風習もあったみたいですからね」
「いんや、それがそんな昔でもないんだそうな。よく旅行客が神隠しとか遭難とかそんな事件があったときは、あぶられたんじゃないかって言われておったよ」
とまあここまではいい。単なる婆さんの思い込み、偏見、噂の一人歩きだろう。しかし次の言葉だけは今でも忘れられない。
「それに……」
そしてその言葉の真偽を今でも私は確認できないでいる。
「あそこは数十年前に廃村になったんかと思っとったけど。そうね、わたしの勘違いじゃったかね」
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