第14話 電話
私は鬼神君の連絡先を知らない……
(非常に不味い……)
かと言って今更どうやって聞けと?
(……よしパターンを考えよう)
【パターン1】
「そういえばさぁ、今度の花見の時の集合場所はどこにする? あっ、決まったら私のスマホに連絡してよ」
「わかったよ……あっ、でも僕桃宮さんの連絡先知らない……ねぇ教えてくれない」
(ふむふむ、普通だ! これが自然じゃない?)
【パターン2】
「私ッ、鬼神君の連絡先知らない!私ってその程度の女だったの? 酷い……」
「いや違うんだ、雪音……僕は君のこと」
(……ッ! 雪音って呼ばれた……えへへ。……いやいや違うそうじゃない! これは無し)
【パターン3】
「おい鬼神、ちょっと面かせよ?」
「は、はい……番長」
……体育館裏へ
「ったくよ……出すもん出せや!」
「お金ならこれだけしか……」
「ちげーよ、スマホだよスマホ」
「こ、これを壊されたら僕は……」
「いいから寄越せ!」
「あぁ……桃番長! どうかスマホだけは〜」
ピポパポ……
「……ほらよ!」
「? 桃番長?」
「言っとくけど、男に連絡先教えるの……初めてだから……」
「……桃番長」
(誰だよ、桃番長って! これも無し)
「うぅ……どうすれば〜」
私は頭を悩ませながら学校に到着してしまった。前回ソラがあんな事を送った後、鬼神君の家には行けてない。学校でもなるべく話さないようにしているが、それが返って恥ずかしさを倍増させていた。
誤解は解けた筈なのにこの緊張はなんだろう……
「おはよう〜」
「おう、雪音おはよう! 珍しく遅いじゃん」
「ふふ……雪音は最近お寝坊さん」
「誰のせいだと思ってる、コノヤロー」
「ゆふぃね……いふぁい」
私はソラの頬をつねりながら、愚痴を零していた。チラリと彼の机を見ると彼はまだ来ていない様。彼も彼で最近やたらと遅刻をしてくるのだが、かおる達に聞いてもよくわからないらしい。
ホームルームが始まっても彼の姿は無かった……それどころか、今日1日彼の姿を見ることが無かった。
◆
「……ねぇソラ」
「ん? ……なに雪音、もうほっぺたはやめてほしい」
「いやほっぺたはやんないけど……」
「……けと?」
「鬼神君に連絡取れないかな?」
「……ふふ」
「!? なんで笑った?」
ソラはほんとによく分からない性格をしている。普段からあまり表情を表に出す子じゃないけど、私達といる時はまだマシな方。特に私をからかう時は1番喜んでいるような……
「はい」
「?」
私は突然ソラからスマホを渡されたので、何をしているのかという思いでソラを見つめる。すると……
「もう……繋がってる」
「ッ! 電話かよッ!」
「ドヤァ!!」
私はメールか何かで連絡するとばかり思っていたから、突然の電話にツッコミを入れていた。ほんとにソラはタチが悪い。慌てる私を見てクスクス笑っているのだから……
「も、もしもし鬼神君?」
「あははは……ごめんね桃宮さん」
彼は電話の向こうで、楽しそうに笑っている。私とソラの会話がツボに入ったみたい。
「もぅ! そんなに笑わなくても、恥ずかしいんだけど……」
「……ごめん、ごめん。普段の桃宮さんの印象とだいぶ違ったからおかしくて」
「……そんなに違う? 変かな?」
私は少し意地悪な言い方をしたかもしれない。しかしそんな私の質問に彼は……
「いやいや、そっちの方が自然でいいんじゃない?……ゴホッ……エホっ」
「ちょっと大丈夫? 鬼神君!」
彼はありのままの私が素敵だと言ってくれた(言ってない)そしてそのまま咳き込む。
「ごめんね……ちょっとか風邪を引いてね、土曜日までには治すから……」
「……うん」
それから暫く、ソラのスマホだと言う事も忘れて鬼神君との会話に夢中になる。今日学校であつた事や、桃太郎の事。
(電話だと自然と話せるんだけどな……)
「じゃあ、またね……」
「うん……」
彼からの別れの言葉はどこか寂しそうで、このまま切るのが、申し訳なく思ってしまった。
………………
…………
……
「……桃宮さん?」
「……ん?」
「もう切っていいよ?」
「……そっちが……切ってよ」
「……いや、でも」
「私からは……いや」
私はいつからワガママな子になったのだろう……そんな事も気にならないくらいに彼の事を考えてしまう自分がいる……
考え事をしていて、忍び寄る影に気づけなかった……
「天誅ッ!」
ブチッ
ツーツーツー……
「あぁぁぁぁ! なにすんのよソラ!!」
「それはこっちのセリフ……人の携帯で話しすぎ……通話料を請求する」
「ぐぅぅぅぅ……」
グゥの音も出ないとはこの事。今回ばかりは私が悪い……だが、いきなり切らなくても良かったのに……
(もう少し……話したかったな……)
それからソラは部活へと、行く為に消えてしまった。私は手持ち無沙汰になりながら、自分の家へと歩を進める。
「具合……悪そうだったなぁ……」
独り言を言いながらも考えるのは彼の事……
この感情の高鳴りはきっと彼を心配する親心なのだ!そう言い聞かせて私は元来た道を引き返す。
(これからする事も、きっと親心!いわば母性を刺激されての事だ!)
私は無理やりに理由を付けて、小走りでかけて行く。途中のドラッグストアで彼が欲しそうな物を買って……
………………
…………
……
ピンポーン……
「……んぁ……誰だろ……はぁ、はぁ……」
(僕は重たい足で、玄関に向かう。するとリビングからは桃太郎がダッシュで出てきて、玄関に向かい扉の前で尻尾をブンブン振っている)
「まさか……」
僕は先程まで、聞いていた声の主を想像していた。1人で寂しい時に……僕の思い出の中にいつも寄り添ってくれる彼女。そしてそれは見事的中する……
ガチャ……
「えへへ……来ちゃった」
袋を両手に抱え、満面の笑みで佇む彼女。
僕の憧れで、大好きな……ただ1人の女性の姿がそこにはあった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます