③-4

「?」

 首を傾げる義堂の膝の上に、その四角い堤を落とした。

「ほれ」

「わっ、何?」

 義堂が箱を受け取り、安倉を見上げる。安倉はそっぽを向いて、何も答えなかった。

 義堂は箱に目を戻し、無言で包みを解いていく。

 白い、ケースが出てくる。そっと、その蓋を開いた。

「わあ」

 中で、金色の十字架のネックレスが、輝いている。

「いいの?」

「……生まれ変わりの、記念だ」

「誕生日プレゼントだね」

 義堂が、そのネックレスをつけてみせた。

「どう?」

「……悪くない」

「ふふっ」

 義堂は機嫌を直したようで、立ち上がり、スカートの裾を叩いた。

「私と、護しかしらない、私の誕生日。これからずっと、祝ってね」

 零れる笑顔で、安倉に問い掛けた。安倉は無言で、十字架に触れてみせた。

「今日は、義堂真実が死んだ日じゃない。お前が、新たに生まれた日だ。捨てたものに拘るなんて、お前らしくないだろう?」

 義堂が笑って頷き、その手を添える。

「新しく生まれたお前に誓おう」

 十字架を持ったまま、跪く。

「くるしゅうない」

 義堂が胸を反らす。

 暫くして、ふたりで大笑いした。こんなに心から笑うなど、いつ以来だろう。

 安倉は笑いながら、改めて義堂を眺め、誓った。

 ――こいつが誰にどう呼ばれようと、自分だけは、この十字架を彼女が持っている限り、義堂と呼び続け、本当の彼女を知る者としての責務を果たそう。

 十字架を、心に刻む。同じように明るい月が、夜空に輝いていた。

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