③-3

 義堂はまだ目尻に涙を浮かべながら、ノートを捲った。そして、すぐに笑いを引っ込める。

「凄いわね。よくここまで」

「特段、何かをしたわけじゃない。高校生のクラスメイトなんか、どうしたってどこかで繋がっている。それを聞き出しただけだ」

「貴方、探偵できるわよ」

 義堂は頷きながら、ノートをポケットに仕舞った。

 その仕種を見ながら、安倉が問う。

「それを、どう使うんだ」

「それは、見てのお楽しみ」

 ウインクをしながら義堂は植栽から飛び降り、スカートを叩いた。

「感じれるんだけどね。綿密な裏取りは、自信を確信に変えてくれるわ」

「お前も、感じ取れるのか」

「そうよ。だから、貴方に近付いた。言ったでしょう。ねえ安倉君、貴方は私の負の希望を、どう叶えてくれる?」

 義堂が安倉に近付き、安倉の頬に手を当てた。安倉は特に反応することなく、義堂をすがめで見ている。

 やがて、首を振った。

「お前は他人に、何も望んじゃあいない」

 義堂が、満面の笑みを浮かべた。

「その通りよ。やっぱり私には、貴方が必要だわ。私のことを本当に理解できる人間は、貴方以外にいない」

 義堂が安倉の頬に当てていた手を顎へと滑らし、くい、と上げさせた。

 そして、笑う。

「そして貴方を本当に理解できる人間も、私以外いないわ。人間の暴力的衝動を感じ、人に失望している貴方は、生きる価値を見出せない。私が、創ってあげる」

手を徐々に下に移してゆく。シャツに手を入れ、筋肉をなぞる。

「貴方が憎しみに塗れない世界を。だから、それまで私の傍にいて」

 シャツを開き、曝け出された肌に、顔を寄せた。

 安倉はただそれを、黙ってされるがままに見下ろしていた。

 消えかかっていた街灯が、寿命を迎える。二人の影が、闇に溶けた。

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