急襲
午後八時を少し過ぎた頃、ようやく日が沈み辺りが暗闇に包まれた時間帯、ワイワイと親戚一同での夕飯代わりの宴会も終わった後の事……
そーっと、そーっと……
「ちらっ……」
ザパーン……
「……よし」
対象が入ったのを確認、これより対象にバレないよう第二フェーズを進める。
ちらっと脱衣場の入口にある暖簾から顔を出し、風呂場の人影と脱衣場にある脱いだ服と寝巻きを確認した俺は、そそくさと寝巻きを置いて洋服を脱ぎ始める。
そして……
ガララララ!
「とーさま!一緒お風呂入ろー!」
「ち、千代っ!?」
今まさに体を洗い始めようとしていた父様の居る風呂場へと、勢いよく突入したのだった。
ーーーーーーーーーーーー
「わしゃわしゃ~~♪」
「よし、こんなもんだろう。ほら千代、泡流すから目を閉じてなさい」
父様はそう言うと俺が目を閉じたのを確認したかのように一拍空け、俺の背中の中ほどまである髪の毛の泡を洗い流すべく豪快にお湯を頭にかけてくれる。
「ぷひゃ!すっきりー」
「千代は昔からこうやってやるのが好きだったもんなぁ」
「えへへ~♪」
普段お姉ちゃん達とか母様がやってくれるみたいな丁寧な洗われ方も勿論気持ち良くて好きだけど、やっぱり父様のこの大雑把なちょっと荒っぽい男らしい洗い方も好きだ。
「体は自分で洗うんだぞ?」
「えー、父様洗ってよー」
せっかくお正月に帰省した時以来の一緒にお風呂なんだから全身くまなく洗って欲しいー。
え?流石に甘えすぎだって?小六女児がする事じゃないって?いいんですー、そういうお年頃なんですー。前世じゃあんまり甘えれなかったからその分も甘えてるんですー。
「流石にそれはダメだ。それに千代は小学六年生なんだから一人で体洗えるだろう?」
「えー」
はーい、そう言われるって薄々分かってましたー。分かってたから……
「えー、じゃない」
「はーい。じゃあじゃあ、背中だけはお願いしていい?」
全身くまなく洗うよりは大分難易度も低い、背中洗うだけに落とす!これにより確実に背中は洗って貰える!
「仕方ないなぁ。ほら、前に座りなさい」
「やったー!」
見事策略通り事を進めることに成功した俺は、父様に言われた通り父様の座っている椅子の前にある椅子にぺたんと座ると髪を前に持ってきて洗いやすくして待機する。
「……千代も大きくなったなぁ」
「ほんとー?」
「あぁ、昔はこれくらいのタオル一枚分くらいの大きさで、毎日俺とおじいちゃんでお風呂に入れてあげてたんだぞー」
あー、そういやそうだったなぁ……
「いやー、懐かし────」
「懐かしい?」
「な、夏だし!父様今度何処か遊びに行こっ!海とか山とか!」
「あー、確かにいいかもしれんなぁ。そうだな、お家に戻ったら何処か遊びに行こうか」
「やったー!」
危ねー!何とかごまかせたけど、思わず口が滑っちまった……もっと気をつけないと。でもまぁ、父様と遊ぶ約束取れたし良しとするか!
「ねーねー、とーさま」
「なんだい千代」
「次は私が父様の背中洗ってあげるね」
「お、本当か?それじゃあこれが終わったらお願いしようかな」
「任せて!」
こうして平和にゆっくりと、親子の時間は過ぎていくのであった。
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