大雨の二日目

「雨だぁ」


「雨ねぇ」


「雨かぁ」


 もう梅雨はとうの昔に明けたって言うのになんでこう、ちょうど二日目という色々やるであろう日にピンポイントで降るかねぇ……


 林間学校二日目の朝、しとしとぴちょぴちょなんて生易しい物じゃない数メートル先が見えない程の大雨を、俺達クラスメイト全員はガラス窓一枚挟んで眺めていた。


「なぁちよよん、これって今日外で色々出来るのか?」


「いい質問だ叶奈ちゃん。答えは簡単、絶対に無理だ」


「だーよなー!何となくわかってたぞ!うん!」


「かなちー偉い偉いー。とはいってもどうするんだろうねー?朝ごはんもまだだし」


「さっき連絡するって先生達どっか行っちゃったっきりだからねぇ」


 スマホとか携帯電話はなんてのはまずこの時代にないし、かと言ってこんな山奥のログハウスに黒電話があるとも思えないし……


「どうしたもんかなぁ……」


 余りにも力のない小学二年生の我々では八方塞がりなこの状況に俺が首を捻っていると、なんだか後ろの方が騒がしい事に気がつく。


「何かあったの?」


「さぁ?」


「なんか急に泣き出しちゃったみたいだぞ」


 急に泣き出した?土砂降りが怖かったのかな、とりあえず誰かだけでも確認を…………ってあぁ、なんだあの子か。


「ちよちー、泣いちゃってたの誰なのー……うげぇ」


 クラスメイトの人混みの中でぴーぴーと泣いている姿を見た俺と綺月ちゃんが渋い反応をした子は、だいたい一学年に一人は居る私が一番な女の子である。

 俗に言う自己中という奴だが、何故かクラスの女子の中心人物であり彼女に逆らう者も少ない故に、彼女に従わない俺達三人は彼女達のグループとは仲がよくなかったりする。


 もう女の子になって八年経つが、女社会は不思議がいっぱいだ。


「どうするちよちー?可哀想だけど正直……」


 流石綺月ちゃん、いつも大抵突っかかってくる仲良くない相手でも助けてあげたいんだなー。でも助けたくないとも思っちゃう。実に人間らしく結構。


「でもこのままわんわん泣かれると皆まで不安になりそうだし……ここはいっちょ一肌脱ぎますかねぇ」


「お、また何かやらかすのかちよよん!」


「やらかすって……人聞き悪いなぁ叶奈ちゃん。ちょっと「黙ってもらう」だけだって~」


「うわー、ちよちーすっごい悪い顔してるー」


「悪い顔言うな!それじゃあ二人共、お手伝いよろしくね」


「「はーい!」」


 ーーーーーーーーーーーーーーーー


「ひぐっ、えぐっ」


「お、おい、いつまで泣いてんだよ」


「うるさい、ぐずっ」


「ちょっと男子、今泣いてるのわかんないの?」


「話しかけないでもらえる?」


「なんだと!?」


「こっちが心配してやってんのによぉ!」


「なによ!なんにも出来ないくせに!」


「んだと!?」


 おーおーやってるやってる。間に合って良かった。


「なによ!?」


「やるか!?」


「はーいストップストップー、落ち着きなされ皆の衆」


 あれから約三十分後、今にも始まりそうな男女間戦争の間にそう言いながら俺は針のむしろのような視線の中へと割って入り、何とか戦争を食い止めることに成功する。


「なんだ?お前らいつもそいつらと仲悪いのに、こういう時だけ加勢するのか?」


「だって花宮さん達も女子だもん!私達の仲間になってくれるよねー!」


「「「ねー!」」」


「え?なる訳ないじゃん?」


「「「「え?」」」」


「え?」


 だって普段仲悪いし、というかそもそも俺って男でもあり女でもあるから男子女子問題になるとなぁ……じゃなくて。


「はいはい!皆ちゅうもーく!」


「二人共ー!もってきてー!」


「「はーい!」」


 危うく話の方向がそれかけていた所で何とかクラスメイトの注目を取り直し、奥で控えてもらっていた二人にお皿いっぱいに乗っているその作った物を持ってきて貰う。


「なにこれー?」「お餅?」「おせんべい?」「あちち」「出来たてだー」「朝ごはん?」「いいにおーい」「うまそー」


「みんなの分あるから、どんどん食べなー」


「「「「わー!」」」」


 よしよし、これで皆の気も紛れて暫くは持つだろう。


「にしてもよく作れたねー」


「やっぱりちよよんは物知りだな!」


「お米と油があったからね、運が良かっただけだよー」


 そう言って俺は目の前で皆が食べているものと一緒の少し掌よりも小さ目な、香ばしい醤油の匂いがするお米で簡単に作れるお手軽おせんべいを一口食べるのだった。

 この俺の働きにより、近所の農家さんから電話を貸して貰った先生達が帰って来るまでクラスメイトの皆を大人しく待たせる事が出来たのであった。

 ちなみに夕方には雨も止み、無事に帰ることが出来ましたとさ。

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