男同士の揉め事

「お!ここなんていいんじゃない?皆はどうっ!?」


「なぁなぁ!ちよよーん!場所なんてどうでもいいから早くお昼ご飯早く食べよーよー!もう叶奈お腹ぺこぺこー!」


 うぉぉおお……!背中にダイレクトぉー…………


「かなちー、勢いよく乗っかったからちよちー潰れちゃってるよー」


「わわっ!ごめんよちよよん!」


「いいよいいよ、気にしないでー」


 若いからか思ったよりも全然痛くなかったし。


「はい、千代ちゃん大丈夫?」


「ん、大丈夫、ありがと礼二。よっこいせっと……さて、それじゃあお弁当食べよっか!」


「「「おー!」」」


 お昼過ぎ、ようやく遠足の目的地である俺達の街の水源地にやってきた俺達は、軽くじゃれあってから見晴らしのいい水が湧き出る池の畔でお弁当を食べる事になったのだった。


「ちよよんのお弁当美味しそうやなー!」


「でしょー?母様と一緒に作ったんだー」


 こんな機会でもなきゃまだあんまり料理させて貰えないし、わざわざ朝早く起きて母様にお願いしたかいがあったぜ。


「千代ちゃん凄い……もう料理出来るんだ」


「へへへ、私もなかなかやるでしょー?そういう礼二のはおばさんの手作り?」


「うん、すっごく美味しいよ」


「いーなー、私のなんてほら、野菜ばっかりだよー」


 オウ……本当に綺月ちゃんのお弁当野菜ばっかりだ。流石に可哀想だし……


「このミートボールを綺月ちゃんに一個あげよう」


「いいのー!?」


「うん、いいよー」


 レジャーシートを広げ終えた後、いよいよ持ってきたお昼ご飯を取り出した俺達は、互いに持ってきたお弁当を見せあってきゃいきゃいと盛り上がっていた。


「ありがとー!でもごめんねちよちー?」


「んーん、気にしないで。元々私そんなに食べれないし」


 だから持ってきたミートボールが結局一個しか食べられなくても気にしない、皆が喜んでくれたんだから気にする必要もない。

 にしても……


「凄いなぁ、この水源が街まで流れてあの綺麗な景色作ってるんだもん」


「ねー、私も来るまで信じられなかったもん。本当、今日は皆で来れてよかっ────」


「あ!礼二居たぞ!」


「本当か!何処だ!?」


「こっちだぜ!」


 ん?この声は確か……


「お、お前ら……」


「よぉ礼二、俺らと一緒に弁当食べるのほっぽらかして女子と弁当かよ」


「ずりーぞ!」


「そーだそーだ!」


 あぁ、やっぱりこいつらだったか……礼二とよく遊んでる男子共。


 はぁとため息をつきながら、俺はせっかくの情緒溢れるいい景色をぶち壊してくれたガキ大将のようなバカ男子三人組へとジトッとした目を向ける。


「なんか用か?」


「へっ、女共には関係ねーよ。これは男の問題だ」


「うっ……」


 うわっ、なんだそのいかにもかっこつけたようなセリフにそのにやにや顔、無性に腹立つんだが。


「れーくんなら私達とご飯中なのー。後にしてくれなーい?」


「女なんだから男の言う事に口挟むんじゃねーよ!」


 うわぁー、典型的な男尊女卑……


「むぅ……」


 やっぱりこの時代背景からか、姉達が父様やじいちゃん、兄に強く言われると黙るように黙ってしまった叶奈ちゃんと綺月ちゃんを見て、俺は仕方ないとばかりに反撃を開始する。


「あ?なんだ?お前もなんか文句あるのか?」


 確かに、この歳の子からしたらこんな風に威圧かけられたら怖いよね。でも────


「それで脅してるつもり?」


「んなっ!?」


「大体、自分と同い歳の自分より遥かに弱い女の子にそう威張って楽しいの?」


「う、うるせぇ!お前ら女なんか────」


「ほらまた言った、別に女だからって男の子より下ってわけじゃ無いんだぞ?現に前のテストでも俺は全教科百点だったけど、君達は確か居残りさせられてたでしょ?」


 んまぁ俺は中身大人だから百点取れて当たり前だけど、それは今置いておこう。


「そ、それがなんだよ!勉強なんて────」


「出来なくってもいいって?そんな訳ないじゃん。勉強出来なきゃ将来まともな仕事に就けないし、家も継いだりするの大変になるはずだよ」


「ちよちー……」


「ちよよん……」


 リーダーと取れる男子の言葉を遮りながら、俺が捲し立てるようにリーダーの男子にそう言っていると、そんな俺の姿を見てか叶奈ちゃん達は少し元気づいたように見えた。

 しかしこの歳の男子は反論出来なくなると直ぐに力で解決しようとするもので────


「黙って聞いてたら好き勝手いいやがって……」


 いや、全然黙っては居なかったけどな。


「お前の弁当なんかこうしてやる!」


「「「あっ!」」」


 リーダーの男子はそう言うと俺の弁当箱を蹴っ飛ばし、見事に池ポチャさせたのだった。


「ふん!女が逆らうからこうなるんだ!」


「……」


「どうだ!分かったか!これに懲りたらもう────」


「何に、懲りたら、だって?」


「あ、えっ」


「なんだよ?言ってみろよ?ほら」


「いや、その」


「なんか言ったらどうなんだ?おい」


「き、今日の所はこれくらいにしといてやる!お、おい!行くぞお前ら!」


「う、うん!」「分かった!」


「……」


 行った……か。


「……ふぅ」


 少し大人気なかったかな?


「ちよちー!」「ちよよん!」


 子供相手とはいえ、やはり相手は男、女の自分が手を上げられたらどうしようも無かったこともあり、そこそこ緊張していた俺は三人組が立ち去ったのを見てへなへなと座り込む。


「怖くなかった?怪我とかない?」


「ごめんなちよよん、叶奈達何も出来なくて」


「ううん、少し怖かったけど怪我とかないし気にしないで。それより礼二は?」


 いつもなら一番に心配して声かけてくれそうなもんなんだけど。


「えっと、れーくんなら……」


「千代ちゃん」


「あ、礼二……ってどうしたの!?そんなびしょ濡れで!」


「これ」


 びしょ濡れになっていた礼二がそう言って差し出して来た池ポチャしたそれを見て、俺は礼二が池に入ってびしょ濡れになって俺の弁当箱を回収してきてくれた事に気がつく。


「ごめん、中身はもうダメだった」


「……ううん、取ってきてくれただけですっごい嬉しい。礼二、ありがとね」


 中身に関しては蹴っ飛ばされた時からもう諦めてたし。


「……うん」


「それにほら、私があんまり食べれないのは礼二がよく知ってるで────」


 きゅうううううぅ。


「食べれないけど、食べないで良いって訳じゃないでしょー?」


「うっ……」


「あはははははは!はい、ちよよん!叶奈のお弁当おすそ分けだ!」


「それじゃあ私のも、おすそ分けー」


「俺も、唐揚げあげる」


「皆……!ありがとう!」


 こうして、少し揉め事はあったものの、俺は皆に分けてもらったおかずを一つ一つ味わって食べることが出来て、割と充実した遠足を過ごしたのだった。

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