第37話 正直、嘘をつくより正面から


 蒼乃と付き合っているということが教室で暴露された翌日、放課後になって部室に向かう前に玄人を誘おうと声をかけるが、先生に頼まれた用事があるから先に行っておいてくれ、と言い玄人は職員室へと向かって行った。

 紅梨も家の用事か何かで部活には来られないと言っていたので1人で部室に向かっている。


 昨日は紅梨が緑彩先輩と一緒に居てくれて助かった。

 今まで一度も部活を休んだことがない緑彩先輩がなんの連絡も無く部活を休むのは異常事態だからな。


 なぜ部活を休んだ緑彩先輩が紅梨とファミレスに居たのかは理解し難いが、緑彩先輩はいつも通りの表情をしていたし何事も無かったのだろう。


 部室に到着した俺はいつも通り何も考えず部室の扉を開ける。


「こんにちわ。白太くん」

「こんにちわ。今日は早いんですね。まだ蒼乃と紫倉も居ないし」


 生徒会長である緑彩先輩は部室に来るのが遅いことが多い。俺より早く部室にいるのは珍しいことだ。


 ……って待てよ? この状況ってやばくない?


 緑彩先輩に振られてから、2人で会話をすることはあれど同じ空間で2人きりになったことは1度も無い。


 とりあえず部室の真ん中に置かれた椅子に腰掛けてみたが、微妙な空気が俺と先輩の間に流れ、お互い小説に没頭するフリをしている。

 普段なら緑彩先輩が押せ押せで会話を仕掛けてくると言うのに、10分が経過しても会話が始まらない。


 ……どうしよう。自分から話しかけるべきなのだろうか。


「白太くん、質問があるのだけれど」

「は、はいっ⁉︎」


 話しかけるかどうか悩んでいた俺は急に話しかけられたことに焦り声が裏返ってしまう。


 会話無しで10分貯めておいてから放つ質問ってなんぞや?


「白太くんって、青木さんと付き合ってるのよね」

「……」


 想像してはいたが、やはり緑彩先輩の耳に入ってしまったか……。


 無駄に嘘をつくとややこしくなるし、正直に話すことにしよう。俺はもう、緑彩先輩のことは好きじゃ無いのだから。


「はい。蒼乃と付き合ってます」

「そう。青木さん、可愛いものね。白太くんと青木さん、とてもお似合いだと思うわ」

「あ、ありがとうございます」


 って、何お礼を言ってるんだ俺は‼︎


 蒼乃と付き合っているのは間違いなく事実だが、今はまだ仮の関係だ。

 緑彩先輩に未練があるわけではないが、告白された相手に堂々と他の女の子と付き合ってますって宣言されて良い気はしないだろう。


 いや、でも緑彩先輩は俺をこっ酷く振ったんだ。それくらいの当て付けは必要なのでは……。


「それはいいとして、白太くん、今週の土曜日空いている? ちょっと付き合って欲しいところがあって……」


 ――先輩からのお誘い⁉︎ 今週の土曜日はまだ蒼乃からも誘われていないが、土曜日まだには間違いなくお誘いが来るだろう。

 だが、先に先輩との予定を入れてしまえばそれは仕方がないのでは?


 べ、別に未練があるわけじゃないぞ。俺は緑彩先輩が好きじゃない。

 でも蒼乃に緑彩先輩と出かけてきますって言ったら怒るだろうなぁ……。




 ◆◆◆




 帰宅後、就寝間際に蒼乃に電話をかけた。


「蒼乃さん、今週の土曜日、緑彩先輩とお出かけしてもいいでしょうか」

「何言ってるんですか先輩バカなんですかそんなの許すと思ってるんですか?」


 ですよねー。


 俺の良心が蒼乃に無断で緑彩先輩とデートに行くことを許さず、結果は分かり切っていたはずなのに蒼乃本人に直接緑彩先輩と出かけて良いかを確認してしまった。

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