第56話 二人での帰り道
僕からの贈り物に加えて、セシルさんもお酒と味や香りをより鮮明に感じるおまじないをかけたグラスをプレゼントした。
母さんも父さんも結構お酒は好きな方だと知っていたし、僕たちもこちらのものを飲みたくて適当にいくつか買っておいたので、その時に一緒に購入したのだろう。
そしてそれから大体一時間ほど僕たちはこの二週間でのこと、そしてこの七年間のこと、以前泊まったときでは話せなかったことも含めてたくさんのことを語り合った。
でもそんな楽しい時間は過ぎるのが早いものだ。
そうして……
「それじゃあなたたち、お正月くらいにまた一回こちらに来るんでしょ」
「うん、そのつもり。だからそんなに心配することないって」
「そうね……でもやっぱり」
「わかってるよ。寂しくなったらあげた写真でも眺めてて」
母さんにあげた写真。僕たちとの再会が間違いなく現実のものであることの証明。
セシルさん、こっちで新しいカメラも買ってたし、また来るまでの間にたくさん撮ってきてあげようかな。
「それではお母さん、お父さん、お世話になりました」
「セシルさん、こちらこそありがとうございました。これからもお付き合いよろしくお願いします」
「もちろんですよ」
「ポカポカして、気持ちいいですね……」
「そうだね~」
来たときと同様に電車に乗って、路線を乗り継ぐ。
途中で下車をし、前もって調べておいた感じのいい池の周りを散歩したり、おやつを買って食べ歩いたり、そんな少し無駄な時間を楽しみながら、僕たちは二人での旅路を行く。
「あとどれくらいだっけ?」
「一時間半くらいですかね」
最初の路線まできて、この世界での時間もあとわずか。
既に夜のとばりが落ち、文明の光が見え始めた街の風景を、揺れる車内の窓から眺めながらそんなことを考える。
「細かい場所は大丈夫ですか?」
「バッチリバッチリ、ちょっと時間かかるから待っててね」
初めの駅、道、そして森。二週間前、ここを通ってきたことを昨日のように思い出す。
木々をかき分け進む中、セシルさんは最も術式の展開に適した場所を探していった。
「準備完了だよ。じゃあ行こうか?」
「はい、わかりました」
目的の場所に着き少しして準備を終える。僕も手伝おうかと声をかけようとしたが、その気遣いは無用だったようだ。
そういって僕は名残惜しく一つ深呼吸した後、荷物を持ち円の中に入る。
「いいですよ」
「いくよ……えいっ!」
そうしてセシルさんが世界を移動するため、別に確保しておいた魔力塊を持ち、杖でその足下をたたいた瞬間、来たときと同様のまばゆい光が僕たちを包み込んだ。
「終わり……ですか?」
「大丈夫、ちゃんと戻ってこられたよ」
「ふむ……じゃあ」
すぐにその光は消え、僕たちはほんの少しだけ先ほどより違和感を覚える森の中にいた。だがやはりその移動は一瞬のもので、どうにも別の世界へ来たという感触がイマイチわかない。
それならば……と
「えいっと」
「おお、上手い上手い」
「確かに戻ってこれてますね」
かすかな風の音しか聞こえない静寂な森の中に、パチッと小さい音が響き渡る。僕は持っていた指輪の魔力を使わずに、小さな魔力弾を目の前にたまたま落ちてきた木の葉に向かって杖の先から放った。
そして問題なく弾は放たれ、小さな葉はさらに小さな穴を中心に開けてヒラヒラと舞い落ちていった。
ちゃんと魔術は使えるようだし、僕自身の腕が鈍ったりもしていないな。
「もう結構遅くなっちゃったね」
その言葉通り、既にもう辺りは真っ暗、ここは人家もない森の中なのでなおさらだ。
とはいっても何の問題もなく見えるからそれは別にいいのだが、今から帰って、それまでにはもう深夜と呼べる時間になっているだろう。
「ですね。まあ……ゆっくり行きましょう、急ぐことはないですよ」
「そうだね」
そんなことは仕方ないとお互いに顔を見合わせクスリと笑い、僕たちは夜の森を歩き出した。今日は家に帰り、お風呂でゆっくりと疲れを癒やし、ベッドでぐっすりと眠る。
まるでいつかあった、家族で旅行から帰ったきた日の夜のように。
そうして……また明日から僕たちの楽しくも不思議な生活は始まるのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます