第2423話 72枚目:対応と攻略

 どうやら各地に散ったベテラン勢が認識を修正してくれたらしく、スレッド名は無事に「ハイディレータ皇女目撃情報スレッド」になった。そうだぞ。近衛部隊を置き去りにしかねない勢いで野良ダンジョンへ突入するのはハイデお姉様だからな。

 ついでにスレッドのトップへ「ちぃ姫と違ってガチのお転婆かつ生まれながらの皇女なので、近くに居て召喚者だと分かるとそのまま連れ回されるので注意」と書いてあったが全く否定は出来ないので放置。

 何か若干名「ちぃ姫と違って」部分に腹を立てていたようだが、実際私はロール演技だからな。中身は一般人だから。客観的にもあそこまでお転婆ではないと証明されて安心してるまである。


「まぁ、一部、それがいいと敢えて準備万端にしてから近寄っていく召喚者プレイヤーもいるようですが……」


 その辺はまぁ個人の趣味嗜好なので……ゲテモノピエロの手勢が混ざっていても、その場合は近衛部隊の人達が対処するし、何よりそういう勘はハイデお姉様の方が鋭い。近寄った召喚者プレイヤーの1人が出合い頭に両足斬り落とされたと思ったら、“天秤にして断罪”の神判定で黒だったらしいから。

 まぁ対応しなきゃいけない範囲が物理的に広がったのは大変だが、イベントダンジョンの攻略ペースとしては更に上がったと言っていいだろう。最前線へは移動が大変だって来なかった召喚者プレイヤーや、サブクエストを回ったり自警団みたいな事をしているから最前線には行けないって召喚者プレイヤーも参加できているようだし。

 最前線で見えている範囲の縮み方はあまり変わっていないが、内側はどうなんだろうな。少なくとも、ここまで以上のペースで削れている筈だが。


「まぁ、核は2つのまま、という割に、縮み方は順調に大陸の真ん中へと向かっているって時点で、どこかに亜空間があるのはほぼ確定したようなものなんですけど」


 今までとほぼ同じ広さのエリアとして換算すると、きっちり2つ分ある面積にまたがって存在していた、真っ黒い綱で出来たドームのようなもの。それはどちらかのエリアの中心に寄っていくのではなく、今までならエリアの境界線があった場所へと縮んでいっている。

 恐らく、もうすぐ今までで言うエリア1つ分まで縮むだろう。という事は、エリアが2つだった場合のそれぞれの中心が出て来る筈だ。そこで何も無ければ亜空間は確定だし、何かあったらそれを調べればいい。

 ただなぁ。世界に満ちるエネルギーであるマナを吸い上げてアイテムを増やし、吸い上げ過ぎて世界を割った臼と。空間の歪みというエネルギーを吸い込みに吸い込んで、空間の隙間のような場所に根を張った綱の組み合わせだからなぁ。


「……残り2割。性質的に、“呑”むのところにはいないでしょうし」


 何のことかと言えば、この大陸本来の精霊の数だ。もちろん完全に全員が生き残っている訳では無いが、それでも大凡の数として考えた場合、あと2割ほど足りないのだという。

 誤差というには大きいその数字は、恐らく、今回の複合合体したレイドボスに捕まっている分なのだろう。そして精霊というのは、世界に満ちるマナが意識を持ったような存在だ。


「前例が……本当に最悪なんですけど、前例自体は、ありますからねぇ……」


 何がかと言えば。精霊を、正しくはその系譜に属する種族を、動力源として捉えて酷使する、という行動がだ。そう。「伸び拡がる模造の空間」の事である。精霊獣が酷い目に遭っていたあれだな。

 恐らく。恐らく今回も、主に臼の方に結晶化した精霊さん達が捕まっているものと思われる。……あの時も、特に柔種から出てきた精霊獣は瀕死だったからな。気持ち的には、とても急ぎたいんだ。

 気持ちはそんな感じでも、本当に隅から隅までたっぷりのギミックがあるから、上手くいってないんだけどな。

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