第2025話 66枚目:脱出開始
異形の群れ、まず間違いなく“破滅の神々”の眷属から子供2人を抱えた状態で逃走を開始したが、それ自体は何の問題もない。このぐらいの子供なら大きさはともかく、重さが負担になる訳が無いからな。
問題はここまでほぼずっとお菓子を食べ続けていた2人の我慢がどれほど続くかだが、逃走前に一言かけたからか、とりあえず今のところは大人しく私にしがみついてくれている。
領域スキルの展開も、その展開範囲はいつもと比べ物にならない程狭いとはいえ続けているし、その効果はちゃんと出ている。だから、こちら側の条件だけを見れば、何も問題ない、のだが。
「もしかしなくても無限湧きでしょうか! [タイダルウェイブ]!」
とっくに振り切れてなければおかしい筈の、眷属の群れ。それが、いつまで経っても振り切れない。私に追いつけるだけのステータスがある訳ないんだ。という事は、モンスターと同じくどこからか湧いて出ているんだろう。
これはあの場に踏み止まって、血染めの衣装だったものを撃破した方が良かったか、とも思ったが、血が眷属になるって時点で嫌な予感がした為、たぶん逃げるしかない奴だ。とりあえず今この状態では。
しかし、こんな形で推定だがこの空間本来の仕様を体感する事になるとは思ってなかったな。たぶんこれ、追いかけてくるのが眷属の群れではなく謎の黒い不定形存在だったんだろう。
「とは、いえ……」
灯りの魔法は浮かべているし、さっき作った雨を降らせるお札も可能な限り遠くにばら撒きながら走っている。だから黒い不定形存在による妨害は全く無いんだが、出口らしきものも見つからない。
スタミナも魔力も回復力の内に収まっているとはいえ、あまりこの状況が続くのは良くない。眷属の数は増え続けるだろうっていうのもあるが、今は大人しくしている2人にも我慢の限界ってものがあるだろうし。
ではどうするか。決まっている。ゲテモノピエロがこっちを見ている可能性があるというのが不安だが、それでもまぁ、絶対に真似も妨害も出来ないんだから、手札を切るべきだ。
「……本当に。ボックス様も“ナヴィ”さんも、最高なんですから!」
言って、動きとしては加速しながら、意識としては首元、「月燐石のネックレス・寵」へと向ける。そう。この強化された神器には、スキルが1つ付与されている。強化された時に、付与された。
「[これは願い
これは祈り
これは声
自らすらも守り切れない、民の声]」
それは伏字になっていたスキル。“ナヴィ”さんの……「ナビ」さんの権能。その一部だ。
「[見失い、形が崩れ、探す事も出来ず
途方に暮れるその声を
どうか聞き届けられよ]」
検証班を筆頭とした通常の
「[導きを
標をどうか
声の元に]」
「ナビ」さんは、神様だった時からボックス様と仲が良かった。つまり、その権能の関係上、一緒に居たり連携したりすることが多かったって事だ。だから当然、本来の神格は、守護神となる。
「[家族の、友の、仲間の、恋人の
彼らが待つ場所へ辿り着く為の
何も無い時を笑い合える、そんな場所に]」
では。
何を「守って」いたのか、と、言うと。
「[
指し示して辿る為の、標をここへ!
――“家路を導き守る神”]!」
そう。これが「ナビ」さんと呼ばれていた眷属さんの、本来の神格であり名前となる。
家路を……帰路を守る神。どこかへ出かけて、どれ程疲れていても。絶対に安心できる場所へ導き、その道中を守ってくれる神様だ。
だから。「帰還する方法が分かる」というスキル効果だったんだ。帰り道だけは絶対に守ってくれる。迷わないように導いてくれる。そういう神様なんだから。
そう思いつつ、コトニワ時代の資料にあった祝詞を言い切った、次の瞬間。
〈はーい、本当に久しぶりに正式な名前を呼ばれた「ナビ」さんもとい真名ナヴィティリアですよー。お呼び頂きありがとうございます、ルミル様〉
ぽん! という感じで、私の顔の斜め上辺りに……自分と同じくらいの木の看板を抱えた、ちっちゃい天使みたいな存在が、出現した。
……うん! こういう
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます