第1636話 55枚目:仕事が早い

 なんて事があった翌日。


「お嬢!!」

「うわっ、エルル?」

「どういう事だこれは!?」


 内部時間では前のログインから丸3日が経過しているのだが、私はイベント開始までの追い込みとして生産作業をしていたんだ。ルディルと双子も一緒だったんだが、何か外がわいわいしてるなぁ、と思ってた。

 そしたら、珍しく生産部屋の方へ走って来る足音が聞こえてきた。何だろうね? とルディル達と顔を見合わせている間に、バァン!! と扉が開かれると同時に、エルルの怒鳴り声が聞こえた、という訳だ。

 そしたらまぁ、扉を開けたエルルの姿が見える訳で。


「え、何ですかエルル、めちゃくちゃ格好いいじゃないですか」

「お嬢もか……っ!」

「膝をつかないで下さい。ほら立って、大神の加護で記録しますか、あっ」


 ついうっかり口を滑らせたら、エルルはその種族特性で姿を消してしまった。物理的に。こうなると見つけられないんだよな。明るい場所だとサーニャでも探すのに時間がかかるので、まず無理だ。

 まぁ、最初に、え、って言った瞬間からスクリーンショットは連写してたんだけどな。


「早すぎて見えなかったねぇ……」

「同じくメェ」

「庭主様もドラゴンさんも、とても早口だったメェ」

「まぁ加護による記録は出来たんですけどね」


 ここで作業を一時中断し、改めて外の、わいわいと賑やかな方向を確認する。そこには案の定サーニャがいて、うちの子と霊獣達に囲まれていた。あー、なるほど。2人でお揃いなんだな、あれ。


「そうなのぉ?」

「そうですよ。ほらこれ。……ヘルマちゃん、仕事が早いですねー」


 何のことかって言うとだな。

 いつも軍服一択で、進化の時ぐらいしか他の服を着なかったエルルが、新しい服を着てたんだよ。ヘルマちゃんが作ったんだったら、あれもたぶん【人化】を解いたら全身鎧になるんだろうな。

 学ランみたいな、詰襟の黒い服だ。マントというより外套という感じの羽織まで含めて真っ黒。装飾がほとんどない分だけデザインと着てるエルルの良さが引き立つんだよな~。ちなみにサーニャは真っ白だった。あっちはあっちでとても似合ってたけど、胸はきつくないんだろうか。

 帽子もセットだったので、大変宜しい。これで大太刀を振るんだから似合い過ぎる。今からボックス様の試練で大物を相手してもらってスクリーンショットを連写したい。


「まぁ余程でなければ新しい服を着ないエルルが着たんですから、それが最初の「どういう事だ」になるんでしょうけど。実際何があったんですか?」

「…………修理だと思って渡したら、返ってきた時にはこの形になってたんだ」


 姿は見えないがこの部屋の中にはいるらしい。ものすごーく低い、呻くような声で答えが返ってきた。……仕立て直した、という感じでもないと思うんだけどな? 返却、と言いつつ、新しい方だけを渡したんだろう。

 しかしエルルなら渡された時点で気付いて、実際に着る前にヘルマちゃんに事情を聞きそうなものだが……と思ったところで、一緒にいた双子が「あー」みたいな顔をしている事に気が付いた。ん?


「少しだけサプライズに協力したメェ」

「ちょっとだけ見た目を変えたメェ」

「お前らか」

「「メッメッメ~」」


 ……。

 あぁ、双子が見た目を変える魔法をかけてたのか。たぶん、しばらくしてから解除されるやつ。悪戯関係の技量は本当に高いからな。サーニャはそのままでも着そうだけど、エルルはそれぐらいしないと新しい服とか着ないだろうし。


「声しか聞こえないのも不便ですし、すごく似合ってたから別に構わないのでは?」

「だからお嬢もか……」


 気恥ずかしいのか違う服を着ている事が違和感なのか、エルルは種族特性で姿を消したままだ。声が聞こえてる間は大体場所も分かるんだけど、そっちに近寄ったら逃げるだろうしな。

 私だってしょっちゅう着替えてるんだから、エルルだってたまには違う服を着てもいいじゃないか。サーニャと違ってポーズ取ってとも言わないし。本音は2人揃ったところでスクリーンショットを撮りたいけど。

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