第1514話 49枚目:要救助対象

 さてそこからしばらくムルデさんと(皇女ムーブに気を付けながら)話してみたが、たぶんこの人は他人との距離感覚がバグってる人だ、という事が分かった。



 次席、という位についてはレクチャーを受けていたので知っている。御使族における長は、筆頭、と呼ばれる。そのすぐ下についているのが次席だ。次席同士の立場に上下はなく、人数の制限はないらしい。

 ただ、次席になる為の資格というか条件が厳しい為、大体5人か6人ぐらいで安定しているようだ。まぁ御使族自体が決まった寿命が無い種族だからな。ほぼ固定メンバーのままだと聞いている。

 となるとまぁ、驕るのは論外として、その立場に慣れるのは普通にある事だ。それで何が起こるかと言うと、対応の固定化だな。まぁ御使族の次席なんて立場の人に会える人や会おうと思う人は大体決まって来るんだけど。


「……ところで、ムルデ様」

「何かな、末の姫君」

「一応意識としては男性とお聞きしましたので、半ば無意識とはいえ私を抱え込もうとするのは止めて頂きたいのですが」

「おや? 誰しも私に触れられると喜んでくれるのだが」

「止めて頂きたいのですが」

「分かった、そこまで言うなら気を付けるよ」


 だからって髪を触り始めるな。と、咎めたいのはぐっとこらえる。そう、つまりこのムルデさんは、その魅力の高さから、触れられるのは嬉しい事、だからファンサのノリで超気軽に、半分以上無意識的に話している相手に触れてくるって事だ。

 ちなみに私だけでなく、召喚者と世界の危機について説明していた他の人にも同じようにスキンシップ(……?)をしていたので、ムルデさんの距離感覚がバグっている、という結論になった。私に対して特別、という訳ではない。

 というか、そうやってファンサのノリで触りまくってくるので、魅力ステータスによる無意識魅了が積み上がり、他の人がダウンしてしまったので、私が対応してるんだけどな。だから髪をいじる延長で頬を撫でるんじゃない。


「ムルデ様。出来れば現状改善の為に“細き目の神々”に奇跡を願いたいのですが、一度儀式場を離れて頂いても宜しいでしょうか?」

「うん? 私は儀式には干渉しない性質だからね。気にせず願ってくれて構わないよ?」

「……流石に、神より直接賜った神器を増幅器として用いますので、念の為です」

「おや、神より直接賜った神器があるとは、流石は姫君だね。少し見せてもらってもいいかい?」


 話聞いてたか? と、いう感じで会話がちょいちょい噛み合わないのも割とストレスだなこれな。よーし落ち着け私。この人はこんな状況のこんな場所にいる方が間違いなのであって本来の場所にいる場合には何も間違ってないんだ。

 嫌です。と明言する訳にも行かず、結果として温水の水位はだいぶ下がっている。そろそろ継ぎ足したいんだが、あぁもうだから撫での延長でするっと抱き着いてくるんじゃない……!


「ムルデ様。半ば無意識とはいえ、抱き込もうとするのは止めて頂きたいのですが」

「おや。……あぁ、そうだったね。ふふ、初心な子だ」


 ちっげぇわ。おっと本音が。態度には出てないな? たぶん。恐らく。あー、詰め込みとはいえ皇女教育受けてて良かった。流石に素の状態だと隠しきれてたか自信ないぞ今の。

 落ち着けー。この人は全力の好意と善意だけを向けられる人であって、そういう場所にいるのが本来の立場だからな。好意の欠片どころか興味もない私と一緒にいるこの状況が間違ってるんだ。

 私だってこれが初対面のムルデさんではなく、フライリーさんやマリーやうちの子ならいくらくっつかれて乗られて埋もれたって平気どころか大歓迎だろ。つまりそういう事だ。そう、全てはこの状況が悪い。


「ところで末の姫君。婚約者はいないのかな?」


 ……。

 だが、これは流石にセクハラだな?


「――私はまだ14歳と少しなので、今の所そのような話は考えておりません」

「…………ん? あぁ、人間の成長具合に合わせると、かな?」

「私、実年齢では、14歳になったばかりですので。人間年齢換算とかではなく」

「……………………ん???」

「お疑いならこの空間より脱出後、竜皇様おとうさまにご確認下さいませ」


 なお竜族で年齢2桁というと、もはや赤ちゃんである。

 だから、離れろ。触るな。

 ロリコン扱いするぞ?

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