第1259話 42枚目:捧げものの意味

 そんなこんなでようやく突入したカジノ……北側の大陸における図書街に倣えば、賭博街と言うべきなのかも知れないが……は、まぁはっきりいって、賑やかというか騒々しかった。実はゲームセンター苦手なんだよな。頭が痛くなってくるから。

 フリアドにおける身体アバターは優秀なので頭痛を起こしたりはしないし、大量の音を聞いてというか浴びていても不調1つないし、なんならその中から特定の音だけを拾い上げるとかも出来るようだ。

 通りを移動していく召喚者プレイヤーや住民の姿も多く、一言でいうなら、活気がありすぎるくらいだろう。この賑わいだけを見るなら、空間を閉じる必要なんて無かったんじゃないかと思うくらいだ。


「……あー……」


 で。その空間異常に踏み込んだとたん、私が抱えていたシーツおばけな見た目の「何か」はお菓子を食べるのを止めた。だけでなくしっかりと掴んで放す様子の無かった「お菓子籠」を私の手に押し付け、もいもいと抱えている腕から出ていこうとする。

 まぁある意味本来の居場所に戻ったんだから変化はあるか。と思いながら「お菓子籠」を受け取って「何か」を放すと、くるん、と宙返りをしていつか見た小悪魔の姿に変わった。

 ぱたぱたと羽を動かして滞空したまま、くるくると手に持っていた槍を回す小悪魔。そして、えいっ、とばかり振り下ろすと私の足元に宝箱が出現し、それと引き換えのようにして姿を消した訳だ。……で、その宝箱の中身が何だったかと言うと。


「なるほど。これは情報封鎖される筈ですね……」

「お嬢が特別扱いされるにしたって、ちょっと多くないか?」

「たぶん私だからじゃなくて、食べたお菓子の量と質に比例するんでしょう」

「どれだけ食べてたんだい、あの眷属……」


 たぶんだが、ここのカジノで使うチップだ。箱の中に文字通り詰め込まれているから、相当な量があるだけで。

 ただインベントリに入れると自動的に種類分けされたから、イベント情報がまとめられている掲示板に行って換金額を軽く計算してみたら、その金額がな。たぶんだけど、一流の生産召喚者プレイヤーに、フルオーダーの装備一式を注文するぐらい……なんだ。

 賭け事が好きな人っていうのはやっぱり一定数いるからな。借金は出来ないシステムになってるみたいだが、それでもこれは金額相応の一財産になるだろう。


「とりあえず、一部はルチルに渡しておきますね」

『いいんですかー?』

「情報収集するにしたって、元手は必要でしょう。ゲームに参加しないと情報が出てこない可能性も高いですし。あとは単純にあぶく銭なので、使い切っても惜しくないですから」

「確かに事実ではあるが、もうちょっと言い方無かったかお嬢」

「あぶく銭っていいきったね。神が直々に司って運営してる施設の通貨みたいなものだから、お金扱いは間違ってないんだけどさ」

『お菓子の代金、と考えれば順当な報酬だと思いますけどー、専用通貨みたいなものだと思いますし、頂いておきますねー』


 【人化】を解いていてもインベントリの容量に変化はない。ルチルは種族的に筋力はかなり低いが、その分魔力が高いので、重量上限は低くても枠の数は多い筈だ。実際、私が改めて並べ直したコインは全部インベントリに入れられたみたいだし。

 そこからルチルとは別行動だ。【人化】してから一足先に部屋を出るルチルを見送り、一応エルルとサーニャにもコインを渡しておく。そして公然のお忍びなので来てくれていた、カジノ側からの案内人みたいな人と合流だ。後は私がうっかりしなければいい筈だな。

 しかしカジノか。賭け事にも色々あるけど、運任せのものは避けた方がいいだろうな。ディーラーの腕次第で調節できる類も避けた方がいい。……でもなぁ。ステータスの暴力でスロットの目を読めたとして、ズレたりする可能性もあるんだよなぁ。


「(カジノの趣旨とはずれるけど、パンチングマシーンとかあればいいんだけど)」

「(流石にそういうのは竜族おれらお断りになってるだろ)」

「(うーん、ボクらが参加できるのは、それこそ闘技場とかぐらいじゃない? 相手がいれば、だけど)」


 いやー、種族特性って便利だな。内緒話が楽だ。

 ……にしてもサーニャ、闘技場って。そりゃ戦いも娯楽の1つだろうけども。負けるとも思ってないけど。出来るだけ、そういう物騒なのは最後の手段にしようか。

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