第1254話 42枚目:発見続報

 情報が行き渡った上で捜索と検証が行われた結果、どうやらあの「何か」はモンスターハウス状態の空間異常にランダムに出現し、見つける事が出来なくても、安全圏でお菓子を山盛りにしておけばモンスターの群れをすり抜けて近づいてくる、という事が判明した。

 お菓子で釣ってしまえばあとはお菓子を切らさないようにしておけば、捕まえようが抱えようが運ぼうが、ガン無視してお菓子を食べ続けるらしい。もちろん普通の食べ物でも食いつくのだが、お菓子の方が反応がいいようだ。

 なので、ミニイベントで住民の人達の自衛用にと販売していたお菓子詰め合わせが再び売れている。もちろん召喚者プレイヤー価格で、だが。あの時は緊急時だったからね。


「それでも作る端から秒殺されるってどうなってるんでしょうね」

「まぁソフィーナさんも有名人っすし、先輩の手作りが混ざってるとなればそりゃ競争率も激高になると思うっすよ」

「あら、さらっと自分を外しましたわね」

「外しましたね」

「んん!! マリーさんも作ってるって知れたら更に競争は激化すると思うっすけども!?」

わたくしに関しては当然ですわ」


 クッキー生地を混ぜて伸ばす私と、その横でクッキーの型をぽこぽこと抜いていくフライリーさん、そしてその更に横で焼きあがったクッキーをアイシングし飾り付けているマリー、という状態での会話だ。カバーさんがとってもいい笑顔を浮かべつつ、手が霞むほどの速度でお菓子を袋詰めしている。

 ソフィーナさんは、なんか今にも倒れそうな感じでふらふらしながらも的確にクッキーを焼いてるよ。大丈夫じゃないな。まぁ私達がエプロンと三角巾をお揃いでつけてるから、かなり可愛いの威力は高いと思うけど。

 ちなみにマリーが料理するという事について、バトラーさんとメイドさんの許可はとった。たぶんあれ、仮想空間だから許可が下りた感じだな。


「手作りというか、作る工程の途中にいるというか……まぁ手作りっちゃ手作りになるんでしょうけど」

「どっちかっつーと合作っすね。もっというならソフィーナさんのお手伝いっすし」

「プロが監督しているのですから、当然味もちゃんとして……いますわよね?」

「マリー、それ何枚目ですか」

「アイシングって難しいですわ」


 ひょいぱく、と、私の見ている範囲だけで8枚目のクッキーがマリーの口の中に消える。いやまぁ確かに、ソフィーナさんから失敗したやつは食べていいって言われてるけどさぁ。

 どの神かは分からないが、神の関係者というか、神の使い、あるいは眷属だ。だから捧げものの作成に関われば何か良い事があるかも知れない、という事で、生産作業がお菓子メインになっている。前線には出してもらえなかった。まぁ向こうから来てくれるんならその方がいいんだけど。

 ベーキングパウダーを作るのはちょっと大変だって事で、そこはボックス様のダンジョンに頼っているが、後は大体手作りだ。小麦とか育ってたんだな、この島。


「捧げものをするのに否やはありませんし、自分への利益を除いてもこちらの世界の神の力が戻るのは歓迎なんですけど。しかしそれにしても、何故お菓子なんでしょうね?」

「甘いものが好きな神様なんじゃないっすかね。まぁ、あのおばけみたいな形になったのも影響してそうっすけど」

「どちらも否定できませんわね。他に何か、お菓子を優先する為の理由があれば別ですけれど」


 料理を司る神様、って訳でもなさそうだよなぁ。流石にお菓子をピンポイントで司る神様って訳でもないだろうし。……空間の歪みを利用して出てきたという推測だから、本来の形からズレてる可能性は高そうなのが頭痛ポイントなんだよな。

 ただ「何か」はぽつぽつ見つかって確保、もとい保護されているようだが、肝心の、チェーンクエスト風になっていた高難易度な空間異常の「次」は見つかっていない。

 これは、明日の時間加速もモンスターハウス状態の空間異常を潰しまくるのに終始する事になるか。

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