第1201話 41枚目:並行準備

 で、日曜日の日中、通常ログインの間は、皇女の権威で躓いている交渉部分をゴリ押したり、種族特性と領域スキルで周りを支援したりしつつ、生産スキルをフル稼働させることになった。

 あの“湧水にして脈穴”の神の時に、大量の捧げものを消費したからね。そして次にまた同じくらい難易度の高い空間異常が控えているのが分かっているんだから、備えないって選択肢は無い。

 それに大体分かっていた事だが、やっぱり私が作ったお札入りのお香の効果は大きいらしい。この辺も種族特性が働いてるんだろうか。それとも単にスキルレベルか。


「生産者召喚者プレイヤーは増えた、と、聞いたんですが……そうそう比率は変わらないって事でしょうか」


 いくらあっても足りない状況だ、っていうのも確かなんだろうけど。いいんだけどね。制御能力が上がるから。

 あぁ、そうそう。“湧水にして脈穴”の神の復活はやっぱり特殊だったみたいで、空間異常の解決に協力した召喚者プレイヤーはもちろん「加護の証」を貰えたんだが、参加が間に合わなかった召喚者プレイヤーでも、十分な数の「加護の証」を持った状態で湖に面した神殿に行くと、「加護の証」相当の祝福をくれるらしい。

 ここまでするからには何か特殊な能力がありそうなんだが、その名前からして重要な神様だけあって、現在の最終目標である御使族が暮らす島、フリアド世界における聖地へ入る為に必要(「第一候補」談)だったらしい。


「という事は、チェーンクエストっぽいこのイベントのメインとなる空間異常は、全部その関係っぽいですね……」


 とはいえ、本当に必要な場所を全部回れるとは思っていない。だって年が明けてからもイベントは続くのだ。「モンスターの『王』」からの妨害もあるだろうし、北側の大陸はまだノータッチな上にあっちも似たような感じで高難易度の空間異常が発見されたらしいからな。

 それに、その鍵もしくは資格としての役目以外にも、この大陸における魔力の回復力が微増して、乾燥に対する若干の耐性がつくという効果があった。この時点で貰わないという選択肢は無い。重要な神様だけはある。

 ……これだけはっきりした利点と必要性が分かったって事は、ここから先、イベントのメインとなるチェーンクエスト風空間異常は、絶対に攻略しなきゃいけないって事でもあるんだけど。


「問題は、イベント期間内に走り切れるかって事なんですが」


 時間が足りない。本当に。通常時空で司令部と召喚者プレイヤーの大多数が参加して、召喚者プレイヤーの全力を出せたとして、それでも間に合うかどうか微妙じゃないだろうか。だって12月と1月、連続したイベント期間がもうすぐ半分を切るんだぞ。

 まさか時間加速が含まれていても時間が足りなくなるとは思わなかったよ。“湧水にして脈穴”の神がいた空間異常での苦戦具合を見た司令部が、次からは応援をケチらずどんどん送り込んでくれるとしたって、難易度は順当に上がっていくんだろうし。

 それに最初から全力を投入して、物資という意味での応援を送れなくなっては困る。司令部に従うかどうかは、あくまで召喚者プレイヤー個人の意思にゆだねられてるからな。


「それに、後半になるにつれてややこしい事になるのが分かっている以上、話がちゃんと通じて状況を理解してくれる人を残しておくことは必要ですし」


 だからと言って、最初の段階でフリアド慣れしていない召喚者プレイヤーが大量にいても躓くのは目に見えている。その辺の匙加減を司令部なら上手くしてくれるとは思うが、それでも人員を加減もしくは調整する必要はあるのだ。

 ……沿岸の、長い城みたいな砦から御使族の人が見つかった時の事を考えると、あんまり情報を拡散するわけにいかない事態が発生してる可能性も、はっきり言って十分あり得るんだし。

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