第1078話 37枚目:特級戦力の仕事

 いやー流石司令部だわ。頭の作りどうなってんだろう。(誉め言葉)

 と、しみじみ思いながら見ているのは何かというと、「蝕み毒する異界の喰王」の周りの、モンスターがどいて開けた地面へ攻撃を叩き込む前衛召喚者プレイヤー達だ。

 あれから司令部はしばらく検証を続け、どこに壁系魔法を設置したらモンスターがいなくなるかを確定、2・3人の魔法使い召喚者プレイヤーを組にして取り巻き1体を担当させ、見事にモンスターのいない場所を作りだした、という訳だ。


「そして、地面から生える「手」だけでなく、本体の一部であるなら地面自体に攻撃しても削れるのでは、という発想もどうやら当たりだったようですね」


 なお私も取り巻きの1体を担当している。ルイシャンや壁系魔法が使えない後衛召喚者プレイヤーは、モンスターを引き付ける必要のあるもの以外の取り巻きの撃破が担当だ。

 やはり射程の分だけ近接攻撃の方が威力が高いという事か、じわじわと、だが目に見える速さで「蝕み毒する異界の喰王」の本体になっている範囲が狭まっていく。範囲が狭くなれば取り巻きの最大数も減るし、何より本体が殴りやすくなる。

 ようやく反撃の糸口が見えた感じもあるが、問題はだな。


「これで近寄って、本当に直接核が殴れるかどうか、ですね。殴るにしても、相応に削らなければならない量は多そうですが」


 たぶん殴れるとは思うんだが、ただで殴らせてもらえるとも思えないんだよな。それこそあの、指が落ちるタイミングか、特殊防御を全部剥がしてから出ないと通らないとか。もしくは、特定属性しか通らないとか。

 何が困るって、全部あり得る事がだ。レイドボスだからってギミックを盛りすぎなんだよな、運営。

 しかし頑張って距離を詰めても、あの指が落ちて再び範囲が広がれば、また距離を詰めるところからやり直さないといけない訳で……と思ったところで、ちょっと引っかかる。


「……そういえば、あの落下する指を集中攻撃して、地面に落ちる前に撃破したらどうなるんでしょう」


 本体を攻撃する煽りを食らって、多少は削れていた筈だが……それでも元々が大きいから、完全消滅には至ってなかった筈だ。

 もちろん本体が地面から生えているのだから、本体を伝って干渉できる可能性はある。あるが、例えば撃破できなくても、吹っ飛ばして遠くにやったり、分厚い氷の上に落としたら多少は影響が出ないだろうか。

 まぁ問題は、あの大きさをどうやって吹っ飛ばすなり蒸発させるか、なのだが。


「ルイシャン。溜めの時間を長くとる事で一撃の威力を上げる、とかできますか?」

「ピュイッ!」

「出来るんですね。それなら、準備をお願いします。これが成功すれば、一気に討伐が加速できますし」

「ピュイィッ!」


 火力に関しては、私が特級戦力なので。壁系魔法を設置する合間にルイシャンに声をかけておく。幸い(?)そろそろ次の指が落ちそうだから、射線が通るように微妙に位置を修正してと。

 バチバチバチ、とルイシャンが纏う雷が激しさを増す中、司令部から一斉攻撃の準備に入るように、というアナウンスがあった。素早く全身を赤い宝石で飾り、詠唱に入る。

 続けられていた攻撃により、体力バーの減りが指が落ちる節目に辿り着いた。響く笑い声と共に、体力バーがゴリっと削れて、指が外れるようにして落ちる。


「――――[レプリカ・レーヴァテイン]!」

「ピュィィイイイイイッ!!」


 同時に叩きこまれた他の攻撃は「蝕み毒する異界の喰王」に直撃していたが、私の巨大な炎の剣とルイシャンの雷は、少しずれた場所に叩き込まれた。他の攻撃で見えづらいが、ステータスの暴力による視力は大変良い。

 2つのずれた攻撃が落ちていく指に叩き込まれ……ぼん! と、文字通り消し飛ばすのを確認できた。よし!


「さて、これでどうなりますかね……」


 そこからじっと様子を見る。もちろん召喚者プレイヤー達は、「蝕み毒する異界の喰王」の範囲が広がる事に備えて後ろに下がっていた。だから空間が広く空いている。

 今までは、さほどなく「手」が生え、取り巻きが湧いて、モンスターに埋め尽くされていた。そして今回は、というと。


「大当たりで何よりです。というか、今回の特級戦力のお仕事はこれですね。カバーさーん!」


 モンスターの群れは変わらず出てきたが、取り巻きは増えなかった。前衛がちょっと動揺したようだが、司令部の号令で即座に距離を詰め直している。大正解で何よりだ。

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