第1074話 37枚目:削り方の正解

 次の節目だった残り体力7割までの戦いは省略。だって何も変わらないからね。しいて言うなら本体までの距離が伸びたから、辛うじて届いていた武器スキル派生のアビリティが届かなくなったぐらいだろうか。

 残り体力が7割になった時に、再び笑い声が響き、指が1本落ちた。残り体力が6割になって、「蝕み毒する異界の喰王」と判定される範囲が広くなる。予定通りだったので、私もルイシャンも、たぶんエルルも、もちろん他の召喚者プレイヤー達も、その瞬間を狙って、渾身の一撃を叩き込んだ。


「あづづ……いやぁ本当に、ティフォン様は頼りになりますね。ボックス様への祈りを重ね掛けていなければこれ、私ごと燃えていたのでは」

「ピュイッ!?」

「あぁ、すみませんルイシャン。熱かったですよね」

「ピュィィ~!?」


 まぁ、ちょっと気合を入れ過ぎて私が焦げてしまったのは自業自得だ。自然回復ですぐ治るし。

 しかし派手な事になったな。エルルじゃないけど、それこそ通常空間でやったら地形ぐらいは変わってそうだ。あの体力バーは召喚者プレイヤーが本体を目視する必要があるらしく、今は見えない。土煙というか、アビリティの余波で視界が遮られてるから。

 しかし周りの取り巻きもかなり吹っ飛んだんじゃないかな。範囲攻撃もかなり混ざってたみたいだから。モンスターの出現数がちょっと落ちている……というか、出現が止まってる?


「あれ、もしかしてこれ、スタンとかしているのでは……」


 そう呟いて、連射性重視の魔法を用意した私は悪くない。

 恐らく他の召喚者プレイヤーも一部は同じことを考えただろうし。まぁ実際実行に移す前に大きな風が吹いて、エフェクトとして残っていただけの余波を吹き散らしたんだけど。ニーアさんかな。

 一部継続ダメージを発生させる効果は残っていたが、それでも本体の様子を見る事は出来る。と同時に、体力バーが再度表示された。さて今の一撃はどれだけ効いたんだ?


「……気のせいですかね。なんか体力バーが、増えてるんですけど」


 正確に言うと、「手」の形をしたその手首の辺りにもう1本、地面との境目辺りに、3段重ねの青いバーがある。手首の辺りにあるやつは全部青くて、地面近くのやつは一番上が半分ぐらい黒くなっていた。

 ちょっとその発見は横に置いておき、一番上、さっきまで見ていた体力バーへと視線を移す。そちらは、おっと。かなり効いたようで、残りが3割を切ったぐらいだった。

 さて。……ちょっと待とうか。どういう事かな。頭が理解を拒んでるぞ?


『あはははははっ! あはははははははははは!! たのしいねぇ!!』

「まぁ待ってはくれませんよね!? ルイシャン、お願いします!」


 その目の前で、黒焦げになった指が1本、辛うじて致命傷を避けたらしい指が1本、ボロボロと続けて地面へ落ちた。同時に地面が波打つのが見える。同じく体力バーが増えたことを確認してそっちに気を取られていたらしい召喚者プレイヤー達も、慌てて後方へと退避していた。

 流石に私はクールタイムが明けていないので、攻撃はルイシャンに任せて用意していた魔法で周囲の取り巻きを攻撃する。そして余った分で、一番地面に近い体力バーを見ながら、地面から生えている「手」を狙って攻撃してみた。

 ステータスの暴力により、私の視力は大変良い。それは体力バーというシステム的な物にも適応されるらしく、本当に僅かな変化もはっきりと確認する事が出来た。


「――報告!! 地面付近の体力バーは、地面から直接生えている「手」と連動している模様! このことから、恐らく「蝕み毒する異界の喰王」の核は手首付近に存在する可能性大!」


 見えたんだよな。見えちゃったんだよな。地面の小さい、子供サイズの「手」を撃破したら、地面付近の体力バーが、ドット幾つ分か削れたのが。つまり、核じゃないって事が。

 あぁそうだな。確かに「遍く染める異界の僭王」も、本人はあの巨大ナマモノ製ロボットのコックピットにいたもんな……!

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