第911話 29枚目:彼らについて
……どうやら、ドラゴニアン(仮称)の文明というか習慣は「代々親からこうするものと引き継いだ」ものばかりであり、既に理由は実質失われているらしかった。
恐らくこの分だと、文献や資料と言ったものもほとんど期待できないだろう。困ったな。まともな調査にならないぞ、これ。何しろ調べるもの自体が無いんだから。
いやまぁ、本題は維持している封印を解いてもらう事であって、彼らの由来を知る事では無いんだけどさ。割とずっと気になってたから、調べられるなら調べておきたいじゃない?
「まぁ分からないなら仕方ありませんけど。今回の本題はそれではありませんし」
「おや、良いのですか? だいぶ気にされているようでしたが」
「例によっていつもの如く、割と時間がない上に話がただでさえややこしいんですよ」
ま、それも余裕があれば、になりつつあるんだけど。何せドラゴニアン(仮称)の文明レベルはこの通り、伝承についても結果が何とか残っている程度。あの谷底に残っているだろう遺跡を調べるにしても、エルルが見た範囲では「引っ越した後」だ。
実際に引っ越した後というか跡かどうかは別として、つまりそれぐらいには何も無いって事なんだよな。封じられた竜都の影響がどう出てそうなっているのかは分からないし、それも調べないといけないんだろうけど。
そういう話を聞いている間に周囲もだいぶ賑やかになって来たから、友好関係を築く、という目的は順調なようだ。
「……若干の出たとこ勝負は今に始まった事ではありませんし、とりあえずは今の所大丈夫だと思うんですけど」
封印の方法の解析から、とかにもなりそうなんだよな。この分だと。……魔族の研究員の人達に応援頼むか?
とりあえずそのまま土曜日一杯は説得と言うよりは交流に費やして、まずは警戒を解いてもらう事に終始した結果、ルイルから聞いたこと以外の事も分かって来た。
まずドラゴニアン(仮称)の彼らは、燃費が死ぬほど悪い。文字通り死ぬほどだ。子供が生き残る率が低いって言うのも大半が餓死らしい程度には。なので、餌付けもとい食糧支援の効果がものすごく高かった。
ステータスそのものは人間種族の平均からすればずっと高い。だが進化しないというルイルの言葉通り、体スキルがそもそもないんだそうだ。それに加えて【人化】スキルもないようなので、分類で行くと人間種族らしい。
「……まぁ確かに、シルエットはともかく、動き方自体は人間種族なんでしょうけど……」
その時点で「ん?」となるのだが、どうやら彼らは、そもそも道具を作るという行動が凄まじく下手だった。……まぁ手の形を見る限り、【人化】を解いた竜族と同じだったからな。主に爪が邪魔なんだよ。
で、頑張って作っても、うっかり魔力を流し込んでしまって壊す事がほとんど。そりゃ道具は使えんわな。それでも残っている僅かな道具は、遺跡、と呼ばれる、あの谷底の建物に残っていた分らしい。これは使っても壊れにくいんだそうだ。
ちなみにステータス相応の魔力は持っているが、魔法という技術は使えないのも分かった。制御能力が足りないからか【○○古代魔法】は習得できず、【○○属性魔法】は文字が読めない=「教本」が読めないから、今から教えるとしてもかなり苦労しそうだが。
「……」
何と言うか……総合して言うと、人間種族と竜族の、悪い面を両方引き継いだ、という感じがする彼らだが、正面から許可を取ってカバーさんが【鑑定】させてもらった結果がこちらだ。
[種族:竜人族
名前:ユル
状態:栄養失調、緊張
装備:壊れかけた布の服
備考:特殊スキル【贖いの責務】所持]
……ちなみに、カバーさんだから出てきた備考にかかれているスキルを更に【鑑定】すると、こうなる。
[スキル【贖いの責務】
説明:この血族に課せられた神からの罰
正当な血筋から赦しがあるまで解除される事は無い
効果:ステータス、耐性、器用低下
入手経験値半減]
なんというか。
…………ここで、こう、来るか……っ!! って、感じ、かな。
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