第887話 27枚目:全力火力

 ステータスの暴力による長射程で一通り巨大な……あれもモンスターでいいんだろうか。たぶんモンスターだろう……に魔法攻撃を叩き込んでみて、それを観測した検証班による解析結果を対策スレッドで確認する。

 それによると、ダメージを受けるとあのデバフを強化する液体を噴き出すのは確定。槍系の貫通する攻撃が一番通っている様子で、焼いたり凍らせたりという追加ダメージがある攻撃だと液体の量がやや減少する、という結果になったようだ。

 ついでに言えば周りに影響が出るタイプだと、飛び散った液体やモンスターにもダメージが入っていたらしい。私からは多少防壁型の砦も巻き込まれているように見えたのだが、そちらはほとんどダメージ無しだったようだ。しっかりと作られた砦はすごいな。


「つまり、素材を焼却処分していたのは正解だったんですね。まぁ分かりやすくていいですけど」

『それが大神様からの加護なのですか? すごいですね!』


 正しくは大神の加護特典の1つ、と言う事になっているんだが、まぁ間違ってはいないか。

 さてこれらの情報から考えるに、叩き込むのは単体相手の燃えるか凍る攻撃、貫通属性、属性由来の継続ダメージがある副次効果があればなお良し、という事になる。

 主に森に被害は出るが、まぁそれはどうせ普通に戦闘しても滅茶苦茶になるし、そもそも再生する前提で動いているので、無視していい事になった。まぁ竜族総出で【土古代魔法】をガンガン使えば森ぐらいは再生できるだろうけどさ。


「と言う事で……ニーアさん、ちょっと大技を使います」

『分かりました!』


 念の為ニーアさんに声をかけてから自分にバフを掛け直し、【結晶生成】で自分を飾っていく。念入りに念入りに、戦場に出るって事で着ていたレプリカの軍服の色が変わって見えるまで。

 銀色のドレスだったらもっと映えていたのかなとちょっと思いつつ、インベントリから取り出すのは、炎をそのまま固めた様なルビーだ。精霊獣を捕まえる時の余りである直径5㎝ほどのそれをもぐもぐ食べてと。

 【歌唱魔法】と【古代歌唱魔法】もメインに入れて、ついでに【竜魔法】も意識しつつ、


「[暮れ行く日の火は世界を炉へと変えるように

 照らし出す全てを炎の色に染めつつ沈む

 それは終わりに見える赤い景色の影法師

 熱の光にあらゆるものが焼き切れ尽きる]」


 詠唱開始だ。

 皇女教育と言うのは確かにお勉強が大半だったが、一部マナーや仕草に関するものもあった。その中には魔力の扱いも含まれていて、制御関係のスキルが結構上がったのだ。なんか色々他のスキルも生えて来てたけど。

 どうやら相手への威圧感とかオーラ的なものも魔力の扱いに含まれるらしく、それを応用すれば、【竜魔法】による強化を、詠唱段階から魔法に組み込むことも出来ると言う事が分かった。


「[最後の最期に下りゆくこの世の終幕の色

 鮮やかなれども慈悲も情けもそこには無く

 穏やかなれども有無を言わさぬ終わりの端

 世界を満たして包む紅蓮の炎の一欠片]」


 以前に撃った時からすれば、ステータスも装備もスキルも随分と成長している。以前の時点で廃墟とは言え、結構大きな街1つを炎の海に変えた火力を、こんな開けた場所で撃つのはどうなんだろう、と、ちょっと思ったりもしたのだが……。

 同時に思い出すのは、あの時撃った魔法の炎は、本体だけを燃やして他には影響しなかった。そう、この魔法はあくまで、「単体対象」なのだ。まぁあくまで単体なので、その単体から派生した物には影響が出る様だが。

 炎のカーソルを巨大な、血色の悪い瘤だらけの巨大な姿に合わせる。片手を高く上げれば、全身を飾った宝石が割れ砕けるのと引き換えに、巨大な炎が渦を巻いた。


「[欠片であっても終焉には変わりなく

 火の粉たりとて命を焼き尽くす炎よ来たれ]――」


 ちら、と見上げた炎の色は、私が食べたルビーと変わらない程に紅い。巨大な剣の形をとる炎の切っ先が、しっかり炎のカーソルと同じ狙いになっていることを確認し、


「――[レプリカ・レーヴァテイン]!」


 思い切り、掲げた手を、振り下ろした。

 巨大なモンスターに深々と炎の剣が突き刺さる。当然攻撃を受けた所から大量に例の液体が噴き出すが、炎はそれを伝っていった。お陰で規模がデカい火炎放射器状態になっている。周辺被害が大変な事になってるな。

 まぁ相変わらずの数で攻めかかって来ていたモンスターの群れも大半が巻き込まれて焼かれているようなので、相手の数を減らすという意味ではとても効果的な一撃になっているが。


『はっ!? る、ルミル様! お体に変わりはありませんか!?』

「はい? いえ、何も問題ありませんが」

『本当に大丈夫ですか!? この規模の魔法となれば、私達でも普通は儀式級ですよっ!?』


 ……どうやら私のステータスは、やっぱり竜族基準でもおかしいらしい。

 まぁ、エルルとサーニャに言われて知ってたけどさ。

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