第808話 23枚目:追加騒動

 神殿とその周辺に居た冷人族の人達は、さぞ驚いた事だろう。元々私を乗せたエルルが下りてくる様子を見て注目を集めていたところに、あの爆発だ。爆風を防げた自信はないし、何より、爆発するという現象自体に不慣れだから、次の行動が遅れてしまうのは間違いない。

 そして、爆発したという事で確定した相手の正体を考えれば、そんな遅れは致命的以外の何物でもない。それが分かっていても対応出来なくしていくその手際は本当に見事としか言いようがない。腹は立つが。

 恐らく、1人分の火薬……爆薬を使って私とエルルを排除し、残りの全員で神殿に突っ込むつもりだったのだろう。タネは分からないが、瞬間的にあれだけ加速できるなら、冷人族の人達をすり抜ける事は可能だ。


『――――ってぇな!!』


 ま、それは、私とエルルを排除できていれば、の話だったんだけど。

 懐に入られたとはいえ、それなら外へ追い出せばいいだけの話だ。だからエルルは私を翼で守ると同時に、突っ込んで来た自爆テロ召喚者プレイヤーを尾で斜め上方向に弾き飛ばしたらしい。

 そのおかげで爆風の範囲がずれて、他の召喚者プレイヤーもたたらを踏んだようだ。ま、普通は爆風だけで被害が出る規模だからな。


「――[シールキューブ]!」


 で。そこへ私が、【並列詠唱】の詠唱枠もフルに使って、1人ずつ隔離する形で空間属性の封印魔法を発動。若干の時間差はあったが、残り7人を捕えることに成功した。

 また爆発するかも知れないので、念の為に封印魔法を重ね掛けてからウィスパーを起動。同時にエルルにしがみついた。


『氷の大地防衛目標に自爆テロありです!!』


 返事はなかったが、カバーさんならこれで即座に察してくれるだろう。そして即座に氷の大地を踏み切って空へ飛び出したエルルの背中から、大陸の方を睨む。まだそれっぽい様子はないが、たぶんもう猶予はないだろう。


「氷の大地の神殿へ近づくのは時間がかかったでしょうし、他の場所にはもう入り込まれている可能性までありますからね……! ところでエルル、本当に大丈夫ですか?」

『大丈夫だ。生身なら傷の1つぐらいはついてたかも知れないが、鎧で受けたからな』

「ならいいんですが」


 いやー、今回ほどエルルがしっかり鎧を着てて良かったって思った事は無いよね。まさか自爆テロの現場に居合わせて、テロの犯人と直接やり合う羽目になるとは。カトリナちゃんから話は聞いてたけどさ。

 残り時間僅かで、召喚者プレイヤーの大半が防衛陣地の最前線と最初の大陸に手を取られている。確かに仕掛けるならこのタイミングだが、相変わらず仕掛け方が本気だな!


「気づいて阻止に回ってもギリギリ復旧が間に合わない、というタイミングなのが更に最悪です。本当にその辺りの機を読む目は上等な事で!」

『全くだ。とりあえず、見える範囲で異常が起こっていたり、妙な動きは見えないが……』


 トップスピードに私のバフを加えて、すぐに竜都上空から北と南、大陸全土を俯瞰してみる。とりあえず今の所、それっぽい混乱は起こっていないようだ。まぁ「まだ」なんだろうけど。

 とは言え、町に何かを仕掛けてくる可能性自体は誰もが想定していただろうし、警戒ぐらいはしているだろう。冷人族の人ばかりが集まった氷の大地の儀式場に比べれば、不審者に対する警戒はしっかりしている筈だ。

 仕掛け方は分からなかったものの、仕掛けるとしたらこのタイミングで重要な場所というのは少し考えれば分かる事なのだから、カバーさんへ連絡が行った時点で、既に何かしらの動きはある筈なのだが……。


 ――ドォン!

「爆発音……ですが、山の麓と言う事は、阻止に成功したようですね」

『そうだな。どうする? このままここで警戒するか?』

「と言っても、急行して何が出来るかと言われたら困りますし……それにしても、そろそろカバーさんから折り返しの連絡があってもおかしくない筈なのですが」


 爆発音を聞いたが、その場所はポリアフ様の山の麓だった。確かあそこは何の村も無かったというか、ポリアフ様の山に登る為の登山道の入り口だった筈だから、阻止に成功したのだろう。

 なので大陸中央の上空、竜都の上で待機を続ける。あれ? そう言えばサーニャは大陸南側に応援に行ったはずだけど、姿が見えないな? 【人化】状態で戦闘中だろうか。

 とか思いながら警戒を続けていると、ウィスパーの着信。おっと、カバーさんだ。


『こちらカバーです。まずは水際とはいえテロの実行阻止及び迅速な警告を有難うございます』

『いえ、大陸の方が警戒は大変でしょうし、仕掛けてこない訳が無いのが仕掛けてきただけですから』

『そうですね。そして現状ですが、危急ではない若干不審な理由で町や村に入ろうとした召喚者プレイヤーの小集団が複数確認されています。警戒している有志が入り口で止めていますが、その内1人が自爆したようです』


 やっぱり自爆したらしい。それにしては何と言うか小規模な気がしたが、どういう事だ? 距離の問題かな。


『その爆発は上空からも確認しました。ただ距離のせいかも知れませんが、氷の大地で確認した物より規模が小さい気がします』

『と言う事は、爆発の規模を誤認させる為の囮と言う可能性もありますね。通達します。ちぃ姫さんとエルルさんはそのまま上空で、大陸全土の動きを見張って頂けますか? 爆発等の異常が起こった場合は、こちらに知らせて頂けると助かります』

『分かりました。俯瞰による警戒を続けます』


 なるほど、そういう可能性もあったか。ちら、と東の海岸に視線を向けてみると、最前線にこれといって目に見える変化はないようだ。が、司令部や後方支援をする場所からは召喚者プレイヤーが出てきて大陸をあちこちに移動し始めているので、一部実働要員だけに情報が共有されているのだろう。


「と言う事で、エルル。上空から全体の見張りです。頑張りましょう」

『相手の動きが少しでも分かればいいんだがな……。ところでお嬢、途中で寝る事になるんじゃないか?』

「今日はちゃんと起きる時間をずらしましたので、最後まで起きてられますよ」


 そう、日付変更線を越えて10分ぐらいってところだ。……日付変更線を間に挟んでも、連続ログイン時間の制限が変わる訳ではないから、端数のログイン時間がちょっともったいないんだけどね。

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