第755話 22枚目:内海探索

 ほぼ間違いなく内海の中も真っ暗だろうし、どれだけ照らしたところで、一度の探索で調べられる範囲はたかが知れているというのは予想の範疇。むしろ、変に欲張って戻ってこれなくなる方が問題だ。

 なので内海の縁にロープの端をしっかりと固定し、反対側の端を防御魔法の術者にくくりつけた上で、そのロープの長さまでの範囲を探索する、という事になった。

 何故術者かと言うと、防御魔法と言うのはほとんどの場合、術者を中心ないし軸として発動するからだ。つまり、ロープが引っ張られても溺れないようにする為の工夫である。


「最悪、時間の流れがおかしい事になってる可能性もありますからね。ロープに細工される可能性もありますし」


 なお防御魔法で寸断されても、それを術者が把握しているならロープに影響はない。これは支援バフ魔法全般の仕様だ。

 と言う訳でしっかりと防御魔法を展開し、エルルとカバーさんが内部に居る事を確認。ロープに影響が出ていないことを確認して、潜行開始である。

 ……とは言え、予想通りに真っ暗で何も見えないんだけど。


「一応岸から海底を伝って動いている筈ですが、地面も見えませんね」

「潜り始めて数秒で何も見えなくなったな……」

「何か見えたら、何でもいいので教えてくださいね、エルル」

「流石に無茶じゃねぇかなこれ。夜の闇ともまた違うし」


 私とエルルの2人でそれぞれ1個ずつ持っているランタンも全てのシャッターを開けているが、それでも何も見えない。これは、サーチライトを持って来るべきだったか?

 でも万が一を考えると、サーチライトはサーニャと一緒に地上だよな。上から無理矢理照らして削っていく手段って意味で。

 もちろんメインに【暗視☆】は入れているが、それでも何も見えないんだよなー。……単に暗いんじゃなくて、黒いものでみっしりになっている中に入っているんだから、見えないのは当然なんだけど。


「光の柱を叩き込んで終わりに出来るのなら楽なんですけど、それをやると、少なくとも今夜は大変な事になってしまいそうですからね……」

「そうですね。もちろん進捗次第では、それこそこの内側の海を蒸発させてでも安全に探索し尽くしてしまうべきとは思いますが」

「……アレクサーニャにはあぁ言ったが、あんまり刺激するとまた噴火するんじゃないか? 確か水の温度が高いんだよな?」

「それも含めて最終手段、ですね。真実が闇に消えてしまいますが、あれを仕留め損なうよりはマシですし」


 周囲の景色としては何も変わらないので、本当に潜っているのかどうか不安になって来るな。防御に空間属性の魔法を使っているからか、こう、現在位置が下方向に移動してるのは分かるんだけど。

 ……元火山、というか、今も現役の火山だと言うなら、潜れば潜るほど水の温度は上がる筈だ。その辺の変化も、少なくとも現状の体感で無いって言うのは、やっぱり“影の獣”ことレイドボス「伸び拡がる模造の空間」の影響なんだろうか。


「【環境耐性】はかなり高レベルになってますが、それでも気温が変化すれば、変化自体は察知できる筈なんですけど」

「まだそこまで潜ってないんじゃないか?」

「いえ。ロープを送り出す速度は一定の筈ですから、現状で既に10mは潜ったかと」


 10mって結構深いぞ? 全く視覚的には分からないだけで、それなりにハイペースで潜っていたらしい。呼吸も気圧も問題ないとか、防御魔法凄いな。発動しているのが特級戦力わたしっていうのもあるかも知れないけど。

 なんて思いながら改めて何も見えない黒一色の周囲を見回すと、カバーさんが何やらガラスの漬物瓶の様なものを取り出しているのが見えた。うん?


「一定の深度ごとに、可能ならその深さの海水を採取したいと思いまして。海の内部からなら「入れ物」に入るというのであれば、それはそれで出来る事が増えますし」


 との事だった。うーん検証班。

 とりあえず私がその瓶を認識したので、これ以降は防御魔法には遮られない。その状態になってから、カバーさんは大きな円柱型の瓶の蓋を開けて、おもむろに防御魔法の外に突き出した。

 瞬間。ざばぁーっとそのまま水の挙動で瓶の内部が真っ黒になる。んん? これはこれで気になる動きだな?


「……今の動きは、完全に水でしたね?」

「そうですね。確認されている生物的な動きではありませんでした」

「でも黒いままか。どうなってんだ?」

「持ち帰ったのちに検証ですね」


 防御魔法の内部はランタン×2で照らされているので、カバーさんは瓶を引っ込めると素早く蓋を閉め、流れるように自分のインベントリへと推定「伸び拡がる模造の空間」が入った大きな瓶をしまいこんだ。

 確か今回のロープが30mだった筈だから、あと2回は同じことをやる感じかな。

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