第636話 22枚目:彼らの話

 その後スピンさんをメインとして確認を取った所、一晩中それなりの高度を保って滞空し続けるのは、楽ではないが無理でもない、との返答を貰った。どうやら彼らの方でも、推定“影の獣”から逃げるには空しかない、という結論が出ていたようだ。

 幸い体重そのものが軽い種族特性があるので、引率役がいるのであれば、交代しながら高度を維持する事は出来るらしい。……何で体重が軽いんだろうね? フライリーさん(妖精族)の【軽量化】みたいなスキルがあるんだろうか。

 なおこのテントも、ちょっと結び方を変えればパラシュートみたいになるのだそうだ。大人組で端を持ち上げれば、空中での足場にもなるとの事。


「すごいですね! ところで質問なのですが、このテントって火や熱には強いんでしょうか?」

「流石に直接火をつけられると燃えるが、中に十分距離を取って竈を作るぐらいは問題ないだろう」

「なるほど! それでは、例えば雨や風にはどれぐらい耐えられますか?」

「流石に石で作った建物ほどとはいかないが、固定さえちゃんとできれば嵐ぐらいなら耐えられる筈だ」

「素晴らしいじゃないですか!」


 やっほぅ! とばかりに声を上げるスピンさんの様子に、ちょっと考えて私も閃いた。なるほど、それなら子供だけじゃなくて、大人も休めるな。

 それに素材を工夫すれば、もし万が一推定“影の獣”に、その名前から想像できる最悪の能力があったとしても、確実な安全圏を空に確保できる。だからスピンさんは、まだ続けて質問をしているんだろうし。

 ……まだ未確定情報だけど、雲竜族とも協力できたら楽しい事になりそうだな。何せこの世界には魔法もスキルも種族特性も神の加護もあるんだし、召喚者は(起きているログインしている間は)かなり無理がきく。どうにかなるだろう。


「しかし、もしやとは思ったがその目の色……生きてる間にお目にかかれるとはなぁ……」


 まったりと話を見守る態勢に入っていた私とサーニャだが、スピンさんがお茶を飲んでいる隙間に零された言葉に、内心で首を傾げる事になった。何故なら、そう零された時に視線が向いていた先は、サーニャだったからだ。

 今までの事、というかエルルの事と、ティフォン様からの確認及びエキドナ様からの話からして、サーニャの家では基本的に「白い鱗に青い目」という色の組み合わせで子供が生まれてくる。

 そこへサーニャ自身は「黒い鱗に青い目」なのだから、もう名前と見た目の時点で絶対何かあると思っていて、実際ある事が確定した訳だが……つまりまぁ、目の色は、サーニャは家族と同じ筈なのだ。


「……ボクが何か?」

「あぁいや、すまない。ただあんた、ヴァイスだろう?」

「!?」


 どうやらサーニャは自分の鱗の色について、まぁ、思うところが無い訳ではないが、エルルほど気にしている訳では無いようだ。が、それでも結構驚いている所から、初対面の相手では間違われる事の方が圧倒的に多かったのだろう。


「……えっと、よく、分かったね? 確かにボクはこの目の通り、ヴァイスだけど」

「そりゃまぁ、ヴォルケとネーベルは食べる物によって、毛の色が割とコロコロ変わるからな。見た目で判断するなら目でどこのやつか見分けてるんだ」

「色が変わるんですか!?」

「そういう体質でもなきゃ、縫製をやろうとは思わないだろう」


 かっこ、竜族が、かっことじる。というのが言葉の最後に見えた気がした。うーんこの、謎の説得力。いや、本当に、竜族の細かい事に向いてなさはよぉーく知ってるから。

 どうやら私が自分を空気にするように大人しくしていたかいはあったか、それともスピンさんの話術がすごいのか。どうやら代表者さんは本来の調子を取り戻したようだ。

 そのまま、続ける事には。


「爺さん達から寝物語に良く聞かされたが、その中に出て来たヴァイスのクルクス・・・・と実際にこうして会えるとは。めでたい事だ」

「…………、へ?」


 思わず、と言ったように気の抜けた声がサーニャから零れたが、私も当然、ちらっと視界に入った範囲ではスピンさんもぽかんとしていた。

 くる、くす。くるくす。「クルクス」?

 ちょっと待て、それは――


「――すみません」

「うん? なん――っは!? 皇女様っ!」

「あぁ、いえ。その、1つ聞きたいのですが、宜しいでしょうか?」

「もちろん何なりと!」


 思わず口を挟んでしまい、私に目を向けて再び半ばパニック状態になってしまった代表者さん。だが、申し訳ないと思いつつ、私は、とあることを確認した。


「寝物語、と、言っていましたが……それはもしや、あなた方の一族に代々伝えられてきた話、という意味でしょうか?」


 だってそれは。

 少なくとも、以前聞いたエキドナ様の話・・・・・・・・・・・・の中で出て来た内の。



 私達が言う古代竜族の時代ですら、「既に途絶えた」となっている、伝承の1つだ。

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